好き、ということ

奈那美

第1話

 教室に置いていたカバンを持って昇降口に行くと、遠藤君が立っていた。

「あれ?どうしたの?」

「えっと。よかったら駅まで一緒に帰ろうかなって……もう真っ暗だし」

「あ」

校舎の中は教室も含めて灯りがついていたから気にならなかったけれど、昇降口から見える外の風景はたしかに暗い。

「さっき、図書室の入口のところで言いかけたんだけど、安藤さんサクッと教室の方に行っちゃったから、ここで待ってたんだ」

 

 あの時なにか言いかけてたのは、このことだったのね。

「あ、もちろん一緒に帰るっていっても、安藤さんが構わないならば……だけど」

遠藤君が口ごもりながら、そう言った。

クラスの何人かが『陰キャ』って言ってるの、気にしてるのかな?ぼくなんかと……って。

私は、そんなこと気にならないけど。

「ううん。ありがとう。わざわざ待っててくれたんだ」

 

 駅までの道を並んで歩く。

「さっきは、永田さんと何を話してたの?」

「え?」

「あ、ほら。永田さんって司書でしょ?だから何か本の話をしてたのかな?と思って」

……そういえば遠藤君も、いつも本を読んでるみたいだけど。

よっぽど本が好きなのね。

 

 「ああ、うん。昨日?だっけか、遠藤君が貸出処理してくれた本があったでしょ?あの本みたいなのがないかな?って思ったから聞いてみたの。永田さんが『司書の仕事には本を紹介するレファレッスンもある』って教えてくれたから」

「そうなんだ。って……レファレッスン?」

「え?違うの?」

 

 「たぶん、それ、レファレンスだと思う」

「え!マジ!!レファレッスンじゃないの??」

うっわ……私の覚え違い?

でも永田さんは、なにも言わなかったけど?

「あ、でも言いたいことはわかるから大丈夫だよ」

 

 うわぁ……明日、永田さんに会うのが恥ずかしいかも。

「それで、どんな本を紹介してくれたの?」

「それがまだなんだ。なんかどういったものを読みたいのかって色々聞いてくれてたんだけど……時間もなかったしね。明日までに考えておくって」

「そうなんだ。きっと、いい本を紹介してくれると思うよ。ぼくもたまに紹介してもらうけど、ハズレってなかったから」

「ふうん」

 

 つい何日か前にも、こうやって駅まで話しながら歩いたなぁ。

あの時指に貼ってもらった絆創膏は、もう貼り換えてるけれど。

駅につき、遠藤君は『じゃあね』とこ線橋をわたって向かい側のホームに向かって行った。

私もバイバイと手を振って返した。

 

 

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