第12話 好きな人が知りたい理由

「あんた、何かしーちゃんに頼まれたんでしょ?」


「……はい、そうです……」


「具体的には何を?」


「『深雪が好きな人を調べてほしい』って頼まれました……でも、まさか『知ってるよ、俺の親父だよ』とは言えなくて……しどろもどろになってたら、『深雪の好きな人を探す同盟』っていうのを結成されて……」


「同盟、ねえ……は~あ……」


「でも、お前の好きな人が俺の親父だって事は言ってないぜ! だから安心してくれよ! これからも、『結局誰が好きなのかはわからなかった』で通すつもりだからさ!」


「もちろん、そうしてちょうだい。私は、おじさまと正式に付き合うことになったら、自分の口からしーちゃんに説明するつもりだから。だからあたしがおじさまを愛していることは、しーちゃんに言っちゃダメよ。いい? 念を押しておくわよ」


「はい、わかりました……」


 念を押された俺はフウッと一息はいて、お茶を飲み干した。


 そして、深雪に気になっていることを質問してみた。


「……なあ、深雪、俺からも聞いていいか?」


「なに?」


「なんでしーちゃんはお前の好きな人のことを、あんなに知りたがるんだ? ただの興味本位だとは思えないんだけど……」


「……絶対に口外しないと約束できる?」


「ああ、もちろん」


「……あたしとしーちゃんは、通っている塾が一緒だったの。中学三年の時、し-ちゃんには彼氏がいたんだけど……」


 そこまで話した後、深雪は言い淀んだ。


「ひょっとして、彼氏が悪い奴だったのか?」


 俺が尋ねると、深雪は頷いた。


「……その彼氏っていうのが年上のナンパ野郎でね……しーちゃんを含めて五股くらいかけてたわ」


「…………」


「しーちゃんを含めて、そのゲス野郎にとってはすべての女が遊びの対象だった……それを知ったあたしはしーちゃんを説得したの。『あの男はしーちゃんのことを遊びだと思っている。あんな男はやめろ』ってね」


「……それで?」


「最初は頑なに拒否していたしーちゃんも、さすがに気づいたみたいで、その男に別れを言ったら……『お前みたいな女、いくらでもいる』って言われたらしいわ」


「ひでー野郎だな、そいつ……俺だったら殴ってる……」


 喧嘩をしたことのない俺は、その後ボコボコにされるだろうけど……


「しーちゃんは泣きながらあたしに言ったわ……『今度は絶対にいい男を見つける』って。そして私にも『深雪も絶対にいい男と付き合ってね』って何度も言ってたわ……」


「なるほど……その経験があるから、深雪の好きな男が気になるわけか……その男が、深雪にとってふさわしい、誠実な男かどうか知りたいんだな、しーちゃんは」


「そんなところでしょうね……わかった? しーちゃんが私の好きな人を知りたがる理由が?」


「何となくだけどわかったよ……色々あったんだなあ……」


「絶対に言っちゃダメよ。あんたを信頼して教えたんだからね」


「了解。しかし、俺の親父はお前にふさわしい男なのかなあ……」


「おじさまは私にとって完璧な相手よ! おじさま以外なんて考えられない! しっかり私をサポートしてよ!」


「あ、ああ……できるだけ頑張るよ……」


「それと、これからは登下校を一緒にするのも、お弁当を一緒に食べるのもやめましょう。あらぬ疑いをかけられるわ」


「それもそうだな……って、弁当作りはどうするんだ?」


「それは続けてほしいわ。まさか、こんなに美味しいとは思わなかったもの。それにやっぱりおじさまと同じ昼食を食べたいし……」


 深雪は顔を真っ赤にしながら、下を向いてゴニョゴニョ喋っている。


「わかったわかった。それじゃあ、弁当はこれからも作ってやるよ」


「本当!? やったー! 毎朝、芽吹の家まで取りに行くね! おじさまの顔も見たいし! その後は時間をずらすために、私が早めに学校に行くわ!」


「へいへい。それじゃあ、そろそろ教室に戻るか」


「うん。芽吹、色々ありがとうね……気を遣わせちゃって……」


「お互い様だよ。お前らしくねーな。今までどおりでいこうぜ」


「……うん!」


 ニコニコ顔に戻った深雪と俺は、屋上から教室へと戻ることにした。


 ―――――――――――――――――――――――


 教室に戻った俺達を待ち構えていたのは、クラスメイトの口笛と拍手だった。


「ヒューッ!! 屋上で一緒にお弁当とはお熱いねえ、お二人さん!!」


「今日も一緒にご帰宅かーっ!? 隅に置けねえなあ、春野も!!」


「くそっ! 俺達のアイドル、冬村さんを、こんな野暮ったい男が取るなんて!!」


 周囲から口々にはやし立てられ、よく見ると他のクラスの奴まで見学に来ている。


「違う! 私と春野君はただの幼なじみで……付き合ってるとかじゃないから!」


 深雪が一生懸命、大声を出して否定しているが、誰も聞く耳を持ってない。


「ピーッ!! ピーッ!! 一生懸命隠すところが、また可愛らしいよ、深雪ちゃーん!!」


「違うの! 違うんだってば!」


「否定しなくたっていいよー!! もうバレてるからーっ!!」


 深雪の泣き声に近い大声も、周りがはやし立てる声にかき消されている。


 周りの嘲笑にも似た歓声を聞き、俺の中で何かが


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