第11話 美味しい弁当の後には尋問が待っている
「どれどれ……芽吹の自信作はどんなものかしら?」
深雪は軽い口調で、弁当箱の包みを取り、蓋を開けようとしていた。
フッフッフッ……見て驚け、そして食べて驚け!
蓋を開けた深雪は、驚愕の声をあげた。
「こ、これは!」
おかずの場所には、メインディッシュとして豚の角煮(チンゲン菜添え)、サブのおかずにチンジャオロース、タコとキュウリの酢の物、ポテトサラダが入っていた。
さらにご飯の上にはおおきな海苔がしかれていた。
「そ、そんな! 朝の忙しい時間に角煮ですって? それにチンジャオロースまで! 肉が硬いに決まっている!」
「フッ……御託はいいから食べてみろよ……」
「い、いただきます……!」
深雪は震える手で箸を持ち、角煮を掴んで口に入れた。
その刹那、深雪に衝撃が走った。
深雪は角煮を飲み込んで、『信じられない』といった顔つきで芽吹を見た。
「歯が……歯がいらない……」
芽吹はその言葉を聞き、勝利を確信したように笑い、自らも角煮を口に運んだ。
「仕掛けは簡単……この角煮は昨日蜂蜜につけておいた豚肉をトロトロになるまで煮込んだ。そして一日寝かせたのさ……」
「あんた、お弁当のためにそこまで……」
芽吹は肩をすくめた。
「おいおい、お前が言ったんだぜ、美味しい栄養バランスのある弁当を作れってな……」
「くっ……まだまだぁっ!」
深雪はサイドメニューに次々と口へ運んだ。
「お、美味しい~、どれもこれも美味しい! だけど……」
「何か問題でも?」
「この海苔ご飯はいただけないわね……これだとただののり弁に見えてしまう……」
「フッ……海苔の下を見てみな」
「海苔の下? 一体何が……ああっ! こ、これは桜でんぶ!」
深雪は恐る恐る、ご飯を口に運んだ。
「美味しい! 彩りも鮮やかになっている……芽吹、悔しいけど、私の完敗よ……」
「ふっ……俺はお前や親父に喜んでもらえれば、それでいいのさ……さあ、味わって食べな」
「うん!」
俺と深雪は弁当を夢中で食べ、二人ともあっという間に完食した。
「あ~美味しかった! 芽吹、ごちそうさま!」
満面の笑みを浮かべながら、俺にお礼を言う深雪を見て、俺はドキッとした。
こういう時のこいつ、やっぱりかわいいな……周りの男共が憧れる気持ちがよくわかる……
「ほい、お茶」
俺は買っておいたペットボトルを、深雪に渡した。
「ありがと。お弁当箱は洗って返すからね」
「いいよ、そこまで気を使わなくて……『美味しい』って完食してくれれば、俺はもう十分だよ」
「でも……」
「気にすんな。その弁当箱は、そのまま俺が持って帰るよ」
「……ありがと、芽吹。それじゃあ、お言葉に甘えるわ……ところでさ……」
「うん? 何?」
何か新しいリクエストか? いいぜ……受けて立ってやる……さあ、リクエストは何だ!
「今朝の始業前、しーちゃんと何処で何してたの?」
ブホッ!! ゲホッ!! ゴホッ!!
俺は盛大にお茶を噴いた。
「何かやましいこと、してたんじゃないでしょうね?」
「ち、違うよ! 俺としーちゃんはそんな――」
「へ~え、もう『しーちゃん』って呼ぶ仲なんだ~、良かったわねぇ、かわいい子と早速仲良くなれて」
深雪は、一見笑顔に見えるが、目は笑っていない。
「なんで、お前、俺としーちゃ……清水さんが始業前に会ってたことを知っているんだ……?」
「そんなの、始業前に、二人で息を切らしながら教室に駆け込んでこれば、誰だって不思議に思うに決まってるじゃない」
何てこった……せめて少しでも時間をずらして教室に入ればよかった……
「で? 何をしていたの? 素直に白状しなさい」
お茶を飲んだばかりなのに、喉がカラカラだ。
落ち着け、俺……何もやましいことはしていない……挙動不審になるな……
「しーちゃ……清水さんは、俺と深雪が付き合ってると思って、俺に確認してきたんだよ……」
「無理しなくても、『しーちゃん』でいいわよ。なるほどね……何で付き合ってるって思ったのかしら……」
「一緒に登下校したり、お弁当を渡したりしているのを目撃したらしい……それで付き合ってるんじゃないかって勘違いを……」
「あんたは何て答えたの?」
「もちろん、そんなことないって答えたよ! 俺が自分で弁当を作っていることを聞いて、深雪が『私も芽吹が作った弁当を食べたい』って言ってきたって……」
「ふ~ん、なるほどね……私たちが、ただの幼なじみだってことは、ちゃんと伝えた?」
「も、もちろん!」
「……なんでしーちゃんは、あたしが芽吹に弁当を作ってもらうことを知ってたのかしら?」
「なんでも、俺と深雪の仲を不審に思って、今朝俺の家の前を張り込んでいたらしい……そこで、俺がお前に弁当を渡すのを見て……」
「張り込み……まったく、あの子は何を考えているのかしら……」
「な? 俺は何もやましいことはしてないんだ……納得しただろ? だからもう教室へ戻ろうぜ、な?」
「まだよ、まだ聞きたいことがあるわ」
まだ尋問が続くのかよ……昼休みってこんなに長かったけ……
俺は顔中から流れる汗を、一生懸命拭っていた。
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