第6話 ベッドにダイブする女子高生
「こ、ここが、お、おじさまの、プ、プライベートルーム、なのね……」
親父の書斎の前まで来て、深雪の様子が変わった。
明らかに緊張していて、その緊張がビリビリと俺に伝わってくる。
「俺もあんまり中には入るなって言われてるしな……まあ、プライベートルームっていうけど、書斎兼寝室みたいなもんだよ。よし、それじゃあ、入るぞ……」
「ちょ、ちょっと待って……深呼吸させて……す~は~、す~は~……よし、いいわよ、開けてちょうだい」
「よし、開けるぞ……」
ガチャリ。
俺の目に飛び込んできたのは、意外にも整理整頓された、綺麗な書斎だった。
机の上や書棚は整理されていて、ベッドのシーツはしっかりと伸ばしてある。
前見たときは、もっと乱雑だったのに……
横の深雪に目を向けると、
「……なんて、なんて素敵なんでしょう……やっぱり、できる男の部屋って違うのね……一部の隙もないわ……それに微かに匂うこの香り……おじさまの香水の香りだわ、きっと……今朝おじさまから香った匂いと一緒だもの……」
本当だ……良い香りがする……加齢臭なんて微塵もしない……
「そういえば……親父は『カルーチェの香水が好きだ』って言ってたっけ……」
「それよ! きっとその香りよ! ああ……あたしもその香水を買おうかしら……」
「親父がつけてる香水、きっと男性用だぞ」
「かまわないわよ。そしてあんたを迎えにいった時、おじさまは、私からほのかに自分と同じ香りがしているのに気づくの。そしてこう言うの。『あれ、深雪ちゃん、俺と同じ香水をつけてるね。結婚しよう』って」
すごいプロポーズだな、それ……
「お前、俺の親父と結婚すると、俺のお袋になるんだぞ。それに法律的に年齢が――」
「それぐらい、愛の障壁よ。越えてみせるわ」
越えることってできるのか……?
「ね、ねえ……どうしてもやってみたいことがあるんだけど……っていうか、もう耐えられないの……」
深雪は耳まで真っ赤にしながら、モジモジじている。
「なんだ、トイレに行きたいのか? トイレならこの部屋を出て右へ――」
「違うわよ! デリカシーがないわね、まったく! そんなことだから女の子にモテないのよ!」
「ご、ごめん……それじゃあ何だよ? やってみたいことって?」
「おじさまのベッドにダイブさせてほしいの!!」
「!!」
「はしたないのはわかってるわ……どうぞ軽蔑してちょうだい……まさか幼なじみが、こんな変態じみた要求をするなんて思わないわよね……あはは……」
深雪は下を向いて自虐的に笑った。
「ま、まあ、シーツとかは後で直せばいいから……別にいいぞ、ダイブしても」
「本当? ありがとう、芽吹! それじゃあ、お言葉に甘えて……おじさま! 今、深雪はあなたのベッドに飛び込みます! ダーイブッ!」
パッと明るい顔に戻った深雪は、本当にスカイダイビングのように、親父のベッドにダイブした。
「きゃあ、やっちゃった、やっちゃった! とうとうやっちゃった! ああ、おじさま、今、深雪はあなたのベッドに寝ています……」
俺は一体何を見せられているんだろう……あとでちゃんとシーツを元通りにしておかないとな……
そんな心配をよそに、深雪は感極まって、ベッドの上を転がり出した。
「きゃあ、シーツもすごくいい匂いがする!」
「ああ、それは柔軟剤――」
「きっと、おじさまから出されているフェロモンの匂いね! たまらないわ! すごい、枕はまた別のいい香りがするわ!」
「ああ、それはシャンプーの――」
「おじさまは自然に髪の毛一本一本から別のフェロモンを出されているんだわ! 素敵すぎる!」
ダメだ、聞いちゃいねえ……
深雪はシーツの端をつかみながら、左右一杯にゴロゴロと転げ回っている。
あまりにも激しく転げ回っているせいで、スカートがめくれ上がり、深雪の下着が
「深雪! おい深雪!」
「キャーッ! おじさまーっ!」
「深雪! 深雪って! 人の話を聞け!」
「キャーッ! おじさまーっ! 芽吹! あたし、ここで少し寝てもいい!?」
「そんなことよりも見えてる! 見えてる! 丸見えだから!」
「丸見えって何が……キャーッ!! この変態!! どこ見てんのよ!! 早く教えなさいよ!!」
「何度も言ったよ! でもお前が――」
俺が言い訳しようとしたら、枕が顔面めがけて飛んできた。
バムッ!!
「痛っ! 何すんだよ、お前! ……って、それはダメだ、それは投げちゃダメだ、深雪、落ち着け!」
深雪は枕元にあった目覚まし時計をつかんで、俺に向かって投げようとしていた。
「ごめん! 俺が悪かった! 大丈夫! すぐに目を
「……でも見たんでしょ? 何色だった? その答えによっては、この目覚まし投げないから。正直に言いなさい、正直にね……」
「……水色と白の横縞……」
「ムキーッ!!」
ビュンッ!!
バシッ!!
俺は顔面めがけて飛んできた目覚まし時計を、ギリギリのところで何とかキャッチすることに成功した。
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