6「紅葉」

さて、今日も召喚士の仕事をするか。


畑野は、最高神から貰っているリストに目を通す。

本当に血の能力というものは、色々とある。

しかし、中には、面白い能力もあって、すごく楽しい。


「さて、今日は、どれくらいの人を召喚できるかな?」


すると、パソコンに記録してあったアラームが鳴った。

アラームは、秋元香苗と約束した弟の結婚式である。

パソコンに、一つだけ機能を追加して貰い、マウスポインターでポイントした人の現在が、映像化して見える。


秋元香苗の弟、秋元直孝がウェリングケーキを食べている姿が、映し出された。


その姿を見て、微笑む。


「アレルギー、消滅したんだな。」


その横にいた点にマウスポインターを当てると、そこには、香苗がいた。

香苗をクリックすると、とても、大きな涙を浮かべている。


「よかったな。秋元香苗。」


見届けた後、仕事に戻った。


「さて、今日は、この三人召喚するか。」


畑野は仕事に戻った。

その日以来、秋元香苗を忘れていた。






十数年後


「いないの?」


最高神は、とても多くのアレルギーに悩まされている人を救った後、数多くの人々に感謝をされつつ生を全うしてきた秋元香苗に、説明をした。


「畑野冬至の魂が、転生をしたいといってきてな。つい、一昨日、転生をしたばかりじゃ。」

「すれ違ってしまったのね。」

「一日ずれていれば、転生しなくても良かったのかもしれないな。」

「だったら、今の召喚士はいないの?」

「候補はいるから、声をかけてみるよ。で、お主はどうする?ここには、畑野冬至はいないよ。」


秋元香苗は、自分も転生をすると言い出した。

しかし、転生は魂が自然に決める為、いくら転生したいという意思があったとしても、出来ないのである。

だけど、今回は、最高神も思うところもあって。


「では、秋元香苗は、神になりなさい。」

「え?」

「そうじゃなぁ……、紅葉の神様とかどうじゃ?」

「紅葉。」

「手にみえるじゃろ?」


紅葉の葉っぱは、手に似ている。


「手か、なるほど、握手も手だったね。」


秋元香苗は、最高神の導きにより、紅葉の神様となった。

秋に活躍をし、皆を魅了する。

紅葉がりなんていう言葉もある位、とても綺麗に咲いた。






「ほら、見て。銀羽、綺麗ね。」


畑野冬至は、転生して、黄田銀羽きだぎんはと名付けられた。

秋生まれで、銀杏の樹がとてもきれいな土地で生まれた。

銀杏の葉が舞い落ちる姿を見て、銀杏の羽みたいだったから、銀羽と名付けられた。

銀杏の色は、黄色だから、銀よりは金だと思ったが、苗字に黄が入っている理由から、銀にした。


今、乳母車の中から、紅葉を見ている。

手を伸ばすと、その手に紅葉が落ちた。


「あら、紅葉が、銀羽に吸い寄せられてきたわ。押し花にして、しおりにしましょう。」





十数年経ち。


「やっぱり、畑野夫妻の小説は面白いな。」


銀羽は、畑野夫妻がそれぞれに出している小説を読みながら、あの時のしおりを大切に使っていた。

畑野夫妻が出している本は、たまたま本屋で売られていて、吸い寄せられる様に手に取って買っていた。

読むと、直ぐに、世界に溶け込め、それ以来、好きになって、今では全部揃える程のファンになっている。

しかし、畑野夫妻は、もう亡くなっており、新しい物語は読めない。


高校三年生で、進路も決まっていた。

進路は、一時期アレルギーを持った人の食事療法士だ。

つい最近、食育の資格を取ったばかりである。


外に出ると、すっかり、涼しくなり、秋になっていた。

紅葉を見ると、とても暖かい気持ちになるのを、小さい頃から感じていて、好きな植物だ。


風が吹いて、紅葉の葉っぱが一枚足元に落ちると、拾い上げた瞬間、一人の名前が頭に浮かんだ。


「香苗。」


声に出して、呼ぶと、なんだか懐かしい気持ちになる。


「香苗。」


呼ぶ度に、心がドキドキしていた。

なんだろう。


「香苗。」


すると、一つ紅葉の葉っぱが風に吹かれてきて、次々へと舞ってくる。

飛んでくる方向へと行くと、そこには一本の紅葉があった。

手に届くほどの高さにある枝に握手をすると、紅葉の樹が赤く光り、光りが人の形を成した。


「冬至さん。」

「香苗さん。」


何故か、名前を呼ばれると、その人の形をした光の名前を知っていて、呼んでいた。

名前を呼ぶと、人の形をした光が、光ではなくて、本当の人の形になった。

人の形は覚えている。

そう、今、記憶をよみがえらせた。


「秋元香苗さん。」

「はい、畑野冬至さん。」


それから、抱きしめ合い、二人は存在を確認した。






二人は、結婚は出来なかったが、秋元香苗がいる紅葉の土地を買い、家を建てた。

紅葉……秋元香苗を見ながら、美味しい料理を作り、小説を読みながら、ゆっくりするのが、黄田銀羽の休日だ。


銀羽は、両親に全てを話した。

最初は戸惑っていたが、次第に本当だと認識してくれて、受け入れてくれた。

植物とは結婚出来ないが、銀羽が幸せならと、香苗の存在を許し、二人の幸せを見守る。


紅葉の時期になると、秋元香苗は、とても優雅に舞い、見ている人を豊かにする。

黄田銀羽からは、秋元香苗は人の形に見えるのだが、周りからは紅葉の樹から、葉がきれいに彩り、風で地面に落ちる様に見える。


家の前を通りすぎる人に「見事な紅葉ですな。」と褒められる度に、とても誇らしみ見える。


仕事に行く時には、紅葉に声を掛ける。


「これから、仕事に行ってきます。香苗。」

「はい。お気をつけていってらっしゃい。冬至さん。」


会話をして、微笑み、こうやって日々を暮らしていく。


この土地には、紅葉と銀杏が仲良く過ごしていた。


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