5「面会」
机の上には、パスタが用意され、ミートソースも鍋ごとあった。
レタスと千切りキャベツに、細切りニンジン、薄くスライスされたタマネギ、ミニトマトが二つに分かれて、ブロッコリーが一口サイズで、両手で覆える位の大きさがあるガラスの器に乗っていた。
飲み物も用意されていて、シャンパンと百パーセントジュース、オレンジとリンゴがあり、氷もあった。
そして、今から、それらを食べようとしている人物が二人いた。
一人は、前髪が長い人。
もう一人は、身長が高い人であった。
まさに、今から、いただきますして、食べようとしていた。
「失礼しました。」
それを見た甲冑を着た人は、香苗を一度、出そうとしたが。
「待て。」
身長が高い人が声を掛けた。
前髪が長い人、身長が高い人、そして、香苗が一つのテーブルを囲んで、パスタを食べている。
「あの。」
香苗は、申し訳なさそうにして、声を出すと、前髪が長い人が持っていたフォークを置いた。
「秋元香苗。」
「はい。」
フルネームで名前を呼ばれ、背筋を伸ばす。
すると。
「風邪は、もういいのか?」
「え?はい。」
「良かった。もしも、ミートソースが胃に触るなら、サラダと飲み物だけにしておけ。」
「大丈夫です。このミートソースおいしいです。貴方が作られたのですか?」
「そうだ。ひき肉からタマネギをみじん切りにする所、トマトを煮込みから、全てだ。」
「すごいですね。出来合いの物を使わず、こんなにおいしく作れるなんて、おかわりもしたいところです。」
その一言で、パスタをもう一人前、追加で茹で始めた。
すると、身長の高い人が香苗に。
「申し遅れました。私、最高神です。この世界の全てを管理している神です。あちらは、秋元香苗さんを召喚した者です。」
色々なパワーワードに、香苗は目を見開いて、混乱していた。
「え。ええ……、私は、今、神様のトップとパスタを食べ、そのパスタは私を召喚した人が作り、その二人と私は食事をしていたと。」
「混乱していますか?」
「混乱しない人がいますか。」
すると、追加分が茹であがったようで、香苗の皿に盛る。
「ミートソースも温め直したから、温かい内に食べて。」
「え、はい。」
とても、声が上ずっていたかもしれない。
緊張しながら、食事を食べ終わると、畑野は香苗を見た。
「はー、データー上でしか見てなかったから、容姿までは見れなかったけど、こんなにかわいい子だったとは。」
秋元香苗の容姿は、顔は整っていて、髪は腰当たりまであり、頭には黄色のカチューシャをつけていた。
胸もあるのが、制服越しからでも分かるし、腰もあり、お尻は安産型といわれる程の大きさをしていた。
手も見ると、手入れがされており、爪は伸びすぎる、深すぎずで、丁度良いし、ツヤも出ていた。
肌も整っていて、きれいな角質をしている。
制服も、きちんと着こなしていて、見るものを引き付ける。
セーラー服であり、胸の辺りにあるのは、リボンだ。
色は、落ち着いた茶色で、リボンは赤である。
「私も、召喚士が、貴方とは思わなかったわ。結構、雑にしているのね。」
「雑って……まあ、人と殆ど会う仕事にはついていなかったから、容姿とか構ってこなかったからな。」
この言葉で、二人で話す。
最高神は、気を聞かせて、二人っきりにしてやった。
食事を片付けて、お茶を出す。
お茶は、紅茶で、とても綺麗な色をしていた。
カップは、高級感を出しているようで、装飾が豪華である。
これらは、アカシックレコードといわれる所で、職人が作っているものだと、説明した。
「名前、訊かせてください。」
紅茶を一口飲んで、香苗は前髪の長い男性を見た。
男性も、一口飲んで。
「俺は、畑野冬至。生前は、ゲームクリエイターだった。両親は、小説家で畑野名義で活躍している。」
「ゲームクリエイター。」
「ああ。召喚の仕方は、このパソコンを見れば分かる。」
パソコンに近寄らせる。
召喚士の仕事場を見ると、リストが何十人分もあり、パソコンには地図が表示されてあった。
点があり、それが人間だという。
青が男性、赤が女性で、点にマウスポインターを置くと、その人の情報が表示される。
「これで、マウスでマウスポインターを操作して、この点に合わせてクリックして、右クリックすると召喚の文字が出て来るから、それをクリックする。これで、召喚が完了するんだ。」
「へー、今時の召喚は、パソコンを使うのね。」
後ろ横から、長い髪を耳にかけながら、パソコンの画面を見て来る香苗に、少しだけ良い香りがして、畑野はドキドキしていた。
「そうだよ。秋元香苗さんが、一番、手こずったよ。」
「そうね。そうかも。私、異世界に召喚されるのが嫌で、逃げていたから。」
「確かに、召喚を了解していないままで、飛ばされるの嫌だもんな。」
「私は、今の家族に満足しているし、現実が好きだわ。だから、違う世界に行くなんて嫌なの。でも、今回は、返して貰えるらしいし、こうやって召喚士に会っていいって許可くれて、自分の置かれている立場、わかったからいいわ。でも、わからないの。私の血って、どんな能力があるの?」
訊くと、召喚された時、血に能力があって、それを収集して研究をしている神がいる。
血は、いざって時に、人間を助けられるから、研究して培養している。
でも、能力の内容までは教えてくれなかった。
「うーん、言っていいのかわからないが、でも、本人に自覚して貰うのが一番早いか。」
畑野は、香苗の手を見ると、とても綺麗だ。
傷一つないし、手入れも行き届いていて、すべすべしていて、いい香りがする。
よく手には、ばい菌がいっぱいあるっていうが、そんな手に見えない。
「アレルギーって知っている?」
「知っているわ。受け付けない物があるのよね。」
「そう、それで苦しんでいる人が、この地球にはいっぱいいるんだ。」
「それも知っている。普段の勉強で、社会とか保険とか理科とかで聞くし、テレビやネットでも、よく見かけるわね。」
畑野は、手を出して見てといい、香苗は前に出すと。
「その手と握手をした人間は、アレルギーが消滅するらしい。」
「え?」
少し間があり。
「アレルギー消滅?」
「つまり、俺がもしも、スギ花粉アレルギーだったとして。」
畑野は、先程のきれいな手に触れ、握手する。
「この行為だけで、俺の中のスギ花粉アレルギーが消えるんだ。」
「握手だけ?」
「そう、握手だけ。それが、秋元香苗さんの血が持っている能力。」
握手をしたままだと失礼と思い、畑野は手を離そうとした時、香苗は離さず、その手を目の前に持って来て、観察し始めた。
横にしてみたり、ギュと握って見たり、指と指を絡めて見たりして、色々と動かしていった。
「へー、これだけで、相手のアレルギーを失くせるのね。」
「……すごいね。」
「それが本当だとしたら、私、救世主になれるのかな?」
「アレルギー持っていて、心から治したいと思う人には、そうかもな。」
「家の弟、乳製品が駄目で、少しでも入っていると大変になるの。だから、ケーキ食べられなくてね。誕生日とかは、ケーキじゃなく、ちらしずしをケーキの型に入れて祝ったのよ。もし、私と握手をして、アレルギーが無くなれば、ケーキでお祝い出来るわ。」
「そうだね。それは、とても嬉しいね。それに、今度、結婚するのでしょ?ウェリングケーキ食べられないと、寂しいからな。」
すると、まだ、手を握ったまま。
「どうして、その情報を?」
「召喚士には、召喚する人の家族構成も提示されていて、その程度の情報は入ってくるんだ。」
「だったら、あなた……畑野さんも、ご出席を。」
「俺は出来ないよ。肉体がないからね。」
「え?でも……。」
ようやく、手を握っているのに気付いた香苗は、畑野から手を離した。
手を見ながら。
「握手出来たのに、肉体がないなんて。」
「まあ、俺は、その日、このモニターを通して、祝ってやるよ。」
すると、扉がノックされて、甲冑を着た人が来た。
どうやら、そろそろ時間であり、地上へと香苗を送らないといけない。
畑野召喚士に召喚された者は、留まれる時間は四時間である。
「ねえ、また、召喚してくれる?」
「それは出来ない。俺は、仕事で召喚をしている。この通り、まだ、召喚しないといけない人が、いっぱいいる。それに、俺はもう命がない、魂の状態だ。だから、会えない。」
「なら、私は、地上に降りたら、貴方に会いに命を…つっ。」
畑野は、香苗の綺麗に着こなしている制服の胸倉を掴み、少し乱す。
「ダメだ。ちゃんと生を全うしてから、会いに来い。俺は、ここで召喚士の仕事をしているから、逃げないし、いなくならない。それに、秋元香苗には、やらなくてはいけない仕事があるだろう?」
香苗は自分の手を見て。
「うん。」
「だったら、言うことはない。忘れないでいてやるから。」
「うん。」
「地上で誰かと結婚して、子供作っても、俺は許す。そう、地上で確りと幸せになってくれ。」
「うん。」
香苗は、いつの間にか、大きな粒の涙を目に溜めて、頬を伝わらせていた。
畑野冬至を秋元香苗は、好きになっていた。
「だったら、ほら。」
その掴んだまま、甲冑を着た人に任せるように、押し離した。
「絶対に、忘れないでね。ちょっとだけ、いってきます。」
「はい、いってらしゃい。」
畑野は、香苗が見えなくなるまで見送ると、いつの間にか後ろにいた最高神が声をかけてきた。
「いいのか?転生も出来るんだよ。」
「いいんだよ。あんな恋心、俺に向けてくれただけで最高だ。」
「でも、もし、生を全うして来たらどうする?」
「そんな時には、俺の事なんてすっかり忘れているだろう。」
「そうかな?」
「そうだよ。」
畑野の気持ちは、最高神には丸見えで、本当に心からそう思っていた。
しかし、人の記憶や温もり、それに味覚は覚えてしまえば、消えないものである。
「さて、最高神。祝いの続きをやろう。」
「そうじゃったな。」
その日は、最高神と畑野は、ようやく秋元香苗を召喚出来た祝いとして、飲んだ。
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