3「53」

秋元香苗は、本当に細かく動く。

だから、捕えようとしても出来なく、平坦な所には来ない。

魔法陣から、上手に避けている。


「くっ、今日も捕えられなかった。」


畑野冬至は、とても悔しくなっていた。


「風邪曳いていたんだから、少しは体の動き、遅くなれよ。」


思っても、いつも通りに軽やかに動いている。


「まあ、元気になった証拠か。」


畑野は、元気になってくれて良かったと思っていた。

でも、捕えられないのは悔しい。

それに、香苗の能力は、アレルギーで困っている人には、とても助かる。

握手をしただけで、体中のアレルギーがなくなり、今まで起こしていた製品や物などが触れるのである。


よく聞くのが、猫が好きなのに猫アレルギーで触れないし、家族になれない。

とかの、動物関係や。

森林関係の仕事をしたいのに、花粉症で出来ない。

とかの、自然関係や。

小麦粉アレルギーで、食事が質素な物になる。

とかの、食品関係だ。

とても多くのアレルギーで、困っている人が多いのである。


そもそも、アレルギーは昔からあったが、アレルギーとして世間一般に知れ渡ったのは、つい最近の出来事だ。

だから、これからも、よくわからないアレルギーが出て来る可能性もある。


それらを解決するには、この秋元香苗が魔法陣によって、月神の所へ召喚されて、血液を採取し、それを黒神が検査して、培養して、数多くの人間に投与し、アレルギーキャンセラーの能力を広める。

すると、分からない内に、アレルギーを持った人が、減っていく。


だから、今、畑野は、重要な仕事を任せられている。


他にも、血の能力を持った人がいて、それらの人の血液も採取して、適切に対処している。


リストから見たのは、その人の血を一滴でも口の中に含んでうがいをすると、虫歯菌がなくなり、歯のぐらつきも改善される内容が、印象的で「いいな。」と感想を持った。

でも、人の血を口に含んでうがいが、少し抵抗はあるから、何か違う形にしてくれると、利用しやすくなるなって思ったりした。


畑野は亡くなってから、最高神の神殿にいるが、虫歯は出来る可能性がある。

歯磨きもフロスも、毎食後している。

だが、なる時はなるのである。


訊いた話だと、アカシックレコードと言われる領域では、寝なくてもいいし、食べなくてもいいし、排せつもないし、怪我も病気もしないし、いつも身体は綺麗のままでいられる。

だが、この最高神の神殿は、そうはいかず、地上と同じ条件であった。





そもそも、畑野が最高神と出会った場所は、亡くなってから天国か地獄かを決める前の領域であった。

その領域では、まだ、現世とつながっていて、たまに、現世へ引き付けられて生き返る人もいる。

畑野は、その場所で、自分の亡骸を見て泣いている両親を見ては、心を痛めていた。


もう、現世に戻れないんだと思い、自分は天国か、地獄か、どちらだろうと、審査の時を待っていた。

これまでの生活を見ると、悪い事もしてきていて、地獄行きだろうと思って、手の平をみていた。

すると、急に手首を掴まれ、体が引っ張られる感覚があった。


次の瞬間。


目の前には、三メートルもある白い服を着て、フードを被った人がいた。

畑野の身長は、百七十センチ。

余裕で、畑野の身体が宙に浮いた状態になっていた。


周りを見ると、注目されているのが分かる。


「畑野冬至君。」

「えっ、はい。」


名前を言われて、返事をする。

すると、フードの下にある顔が、畑野からは見えて、微笑んだのが分かった。


「私は、全ての上にいる最高神である。少しお話し聞けるかな?」

「は……はい。」


最高神は、畑野を肩に担ぐと、その場から離れた。

少し視界に入ってみたが、周りはポカンとした顔をしていた。


連れて来られたのは、最高神の神殿である。

神殿の客間に入り、フワフワのソファーに座らされた。

すると、最高神はお茶を淹れて、ソファーに合った机に置かれる。


「さて、話しだが。」


それが、最高神との出会いで、スカウトを受けた時であった。





思い出すと、最高神には感謝しかない。


仕事内容は、自分に合っているし、自由に過ごせる。

何よりも、この部屋から出なくても良く、とても楽である。

人と話しをしたいなと思ったら、部屋の外に出て、庭にいる警備をしている人と話しをしてもよいとなっているし、身体を動かしたいと思ったら、最高神が用意したトレーニングルームがあり、そこにある器具は自由に使っていいとなっていた。


だが、アカシックレコードと比べると、お腹は減るし、衛生的に管理をしないと、病気になるし、寝ないと仕事に集中出来ない。


本当に、この領域は、現世と変わりはない。


「そんないい環境なのに、仕事が一つ溜まったままだ。おのれ、秋元香苗。」


マウスを持って、香苗の後を追う。

香苗は、段差のある所を重点に歩いていたから、魔法陣が崩れっぱなしである。


「あー、もう。そんな危ない所、歩かない!」


車道と歩道の間にある縁石の上を歩いていた。

もう、魔法陣の攻略が始まっていたが、一カ所、香苗が登下校をする時に必ず通らないといけない所がある。


それは、広く作られた横断歩道だ。

横断歩道の上なら、段差はないし、広い。

魔法陣は、敷ける。


タイミングが必要で、今までは横断歩道で香苗をクリックしてこなかった。

横断歩道では出ないと思わせていた。

だが、今日こそは、捕える。


マウスを持つ手に、汗が溜まっていく。


横断歩道の信号が、赤から緑に変わった時、一斉に渡り出す人々。

その中の一人、秋元香苗を捕え、クリックした。

と同時に、右クリックをして、召喚の文字が黒くなっているのを、確認出来た。

マウスポインターを、召喚に持っていき、クリックを、って所で、急に黒から灰色へと変化した。


何があったのかと思ったら、転がってきたペットボトルが、香苗の足元にあった。

香苗は、ペットボトルを拾い、近くのゴミ箱へと捨てる。


「ペットボトル!!!」


畑野は、右手はマウスを握りしめていて、左手は机を一発叩いていた。


「自分が出したゴミは、自分で処理しましょう!!!」


撃沈していた。

今日の所は、やめて、気分を変えるべく、トレーニングルームに来て、ひたすら走っていた。

汗だくになった身体を、風呂に入り綺麗にする。

そして、夕ご飯を作って食べて、歯磨きをして、ベッドに身体をうずめた。


「くっ、ペットボトルめ!」


きっと、明日からは、横断歩道の攻略をしてくるだろうと思うと、後は、どこで捕えればいい。


登下校のルートを、もう一度、ベッドの上からパソコンを見て、確認していた。

すると、もう一つあった。

それが、学校内だ。


校門から玄関までの道には、何も障害がなく、広い領域がある。

それに学校内だから、ペットボトルやゴミはない。

本当に、ここがポイントだ。


「明日、見てろよ!」


明日は、学校内で決着をつけようとして、ベッドに入りながら、イメージトレーニングをしながら、眠りに着いた。

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