2「風邪」
畑野は起きてから、パソコンを付けている間に、朝食を用意した。
朝食は、食パンにイチゴジャムを塗って、瓶に入った牛乳を用意した。
「さてと、今日こそ見てろ。秋元香苗!」
香苗がいる場所を見ると、まだ、家の中であり、自分の部屋にいるようだ。
時間と曜日を見ると、今日は学校がある日だと思う。
その香苗に近づく点があり、マウスポインターを当てて見ると、みつこと出た。
香苗の母だ。
しばらく様子を見ていると、みつこが香苗に少しだけ付き添い、去っていく。
香苗は、そこから動かなかった。
みつこを見ると、台所で何か作業をして、再度、香苗に近づいて行く。
香苗は、少しだけ動くだけであり、布団の中から出ようとしなかった。
畑野は。
「まさか、風邪でも曳いたのか?」
そうであり、畑野は、香苗を見ていた。
時たま、動きがある。
その動きがある時には、きっと、寝返りをしているのだろう。
試しに、マウスポインターを当てて、右クリックをするが、やはり段差があると、召喚の文字が灰色で表示されていて、使用出来ない。
「風邪か。大丈夫かな?」
畑野は、心配をし始めた。
見てから二時間が経過した所で動きがあった。
動きは、部屋から出て、台所へ行く。
台所で何かをして、トイレに行ってから、部屋へと戻った。
多分、水分を持ちにきたと思われる。
家の中を見ると、誰もいない。
「家族、全員、仕事か。一人で心細くないのか?」
畑野は、生前を思い出した。
ゲーム会社に勤めていたが、家は実家であり、いつも帰ると出迎えてくれる両親がいた。
両親の仕事は、二人共小説家であり、家で出来るから、いつもいてくれる。
二人の出会いは、小説家になってからで、違う会社からだが、デビューが一緒の日であった。
それもあり、同じ日で小説家として誕生したので、横に並べて広告が出されていた。
そこから意識し始めて、お互いに連絡を取って貰えるよう、担当者にお願いをすると、その日付も同じで、何か共鳴した。
お付き合いが始まって、結婚までたどり着いて、子供も出来た。
ただ、二人の間には、出版社という壁があり、夫婦でありながら、ライバルであった。
仕事をしている時には、火花が散っていて、とてもいい刺激になっている。
だから、締め切りはきちんと守るし、新刊も出るのが早い。
出版社にとっては、とてもうるおいがある火花である。
「今頃は、俺がいなくても、二人仲良く火花を散らして、作成していているんだろうなぁ。」
畑野は思っていた。
だから、家に誰もいないのは、とても寂しいだろうと想像した。
やる事がないので、まだ、消化していないリストを見ると、後、五人はいる。
五人の情報を見ると、簡単に召喚が出来そうだ。
少し考えて、黒神にも月神にも待たせるのは悪いと思い、十一番の秋元香苗を飛ばして、十二番目から攻略し始めた。
すると、あっという間に、五人召喚出来てしまった。
「あー、なんだかつまならないな。」
召喚される魔法陣が足元で敷かれたら、何があったのかと一瞬動きが止まる。
その間に右クリックして、召喚の文字をクリック出来る。
こんな簡単だけど、今、寝込んでいる秋元香苗は、ヒラリと避けて段差のある階段に移動したのだから、もしかしたら、魔法陣の知識がある子ではないかと思った。
再度、香苗の様子を見ると、五人召喚を果たす前と同じく、布団から動かなかった。
そして、秋元香苗のリストを見る。
名前、秋元香苗
年齢、十八歳
誕生日、9月9日
趣味、自然鑑賞
血の能力、握手した人のアレルギーを改ざん出来る
「アレルギー改ざんってことは、アレルギーを失くせる能力か。この血が研究されて地球に必要だと思われれば、知らない間にアレルギーを起こしている人がいなくなるのか。いいな、これ。」
ただ、問題があって。
「でも、これって、握手して貰えるかだな。原理は、たぶん、手汗で反応するか、人の身体には電気が多少通っているから、それに反応するかだな。」
畑野は、そんだけの情報で、色々と考察し始めた。
香苗を見ると、動きがあり、部屋の真ん中にいる。
ただ、やはり魔法陣を敷こうとすると、部屋にある物や畳が段差となり、発動出来ない。
少し、動きが早くなっていたから、もしかしたら、回復したのかと思い、安心をした。
「そうか、今の時代、握手なんてしたら、菌が移るからする人が少ないか。」
風邪の情報も入れると、確かにそうだ。
「秋元香苗と握手をするだけで、アレルギーがなくなるなら、喜んでする人がいるが、その秋元香苗自身が、自分の能力を知らないとなると、宝の持ち腐れか。」
それと、問題がもう一つ。
「今の時期、アレルギーを本当になくしたいと思って、秋元香苗を頼ってくる人はいいが、秋元香苗は女だからな。アレルギーないのに女と握手とはいえ、触れるとなると大変になる。それに、今まで見て来たが、秋元香苗はとても警戒心がある。もしも、能力を知ったとしても、握手させるかな。」
魔法陣を避ける位の警戒心があるし、対策も立てているから、手とはいえ、そうそう、触らせはしないだろう。
召喚して、研究して、培養をして、培養した血を他の人に渡して、その人が広めるのが、一番早い。
だが、その元の秋元香苗が、召喚出来ない。
「くー、悔しい。」
畑野は、マウスを握りしめると、モニターの右端をみた。
そろそろ、お昼ご飯の時間だ。
香苗はどうしているかと思ったら、台所にいた。
きっと、みつこが用意してあった物を食べているのだろう。
畑野は、自分もお昼ご飯を作った。
今日のご飯は、とんかつにした。
肉を出して、少し叩いた後、小麦粉、卵、パン粉の順番で付けて、油で揚げていく。
ジュワーという音と共に、美味しそうな香りがしてきた。
揚げている間に、キャベツを千切り、炊いてあったご飯をドンブリによそって、キャベツをのせる。
そして、揚がったばかりのとんかつを、その上に乗せ、中濃ソースをかけて完成。
とんかつ丼を食べながら、香苗を見ると、もう、部屋に戻っていて、布団の中にいた。
「休んだか。」
少し、安心する畑野。
その時、畑野の部屋に最高神が来た。
最高神は、お昼ご飯を食べている畑野を見て。
「おいしそうだね。」
言うと。
「一切れ食べます?」
畑野は、最高神に自分の持っていた箸で、一切れ、最高神の前に出した。
最高神は、迷わず、行為を受け入れて、食べると。
「おいしい。」
「だろ?少し小麦の中にコショウを混ぜたから、少しだけ味が濃くなるんだ。」
「へー、今度、作ろう。」
「おや、最高神様は、作ってくれる人がいるんじゃない?」
「いいえ、食事はとらなくてもいい体だから、必要ないけど、やはり、人間が食べている物は、見た目もおいしそうで、自分でも作って食べているぞ。」
「そうなんだ。あっ、仕事内容ですが……。」
畑野は、仕事の経過を話すと。
「そうか。結局、その秋元香苗以外は、全て、召喚成功したのか。」
「ええ、黒神と月神に待たせるのも悪いですからね。この秋元香苗は、今日、風邪曳いているようで。」
「この時間で布団に入っているとなると、確かに。その人だけなら、リスト追加してもいいかな?」
「はい、よろこんで。」
すると、何もない所から、最高神はリストを出して、追加を畑野に頼む。
追加リストの数は、二十枚あった。
ってことは、二十人、召喚しなければならない。
「急ぎではないから、ゆっくりとされるがいい。今日は、五人召喚したなら、きっと、黒神と月神は、しばらくは、忙しいと思われる。」
「はい。そうします。」
「それと、秋元香苗が体調復帰次第、必ず、仕留めろ。その者の能力は、地球に必要だ。」
「はい!」
丼ぶりを持ち、口の周りにソースや米粒を付けながら、最高神の言葉に従い、勢いがいい返事をした。
「ところで、このとんかつ丼。持ち帰り出来ないか?」
「え?そんなにお気に入り?だったら、今から作りますので、少し待っていてください。」
「よろこんで。」
それから、最高神は時々、畑野の所に来ては、食事をつまんで去っていく姿が見えた。
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