クリック魔法陣

森林木 桜樹

1「香苗」

とある時。

自分の足元に、魔法陣が現れた。


大きさは、肩幅くらいだ。


これは、よく漫画やアニメで見る、異世界に召喚する為のものではないかと思い、ふと、横にあった神社の階段に足をかける。


すると、魔法陣が崩れて、消えてしまった。


それからというもの、魔法陣が足元に現れる。

その度に、段差に上がり、召喚を回避していた。

どうやら、魔法陣というものは、平坦な所でないと発揮出来ないらしい。


魔法陣の形は、外側は丸く、内側には六芒星が描かれている、描くにもコンパスと定規で描ける。

漫画やアニメに出て来る魔法陣は、色々と図式や文字が書かれているが、そんな表示はない。

本当に、それだけの魔法陣だ。


その魔法陣から逃げる生活が始まる自分の名は、秋元香苗あきもとかなえ

職業は、高校三年生。

家族構成は、父、義武よしたけと母、みつこ、それに弟の直孝なおたかだ。

家族の仕事も一般的に、父はサラリーマンで、母はパート、弟は中学三年生である。


そんな家庭に育った香苗だが、どうして、自分の足元に魔法陣が浮かんでいるのかがわからなかった。


魔法陣を避ける生活をしていると、寝ている間にも魔法陣が発動されていると思い、ベッドに寝ていたのだが辞めて、床に段差のあるマットレスに変えて、魔法陣を崩していた。

だが、洋室にマットレスを引いて寝るのは、香苗にとっては違和感があった。


弟が、小学六年生の時に、祖母が亡くなり、その部屋を中学に上がる時、弟の部屋になった。

部屋が和室で、床に布団を敷いて寝ていた。


だから、洋室が欲しかった弟に提案した。


「部屋を交換しない?ベッドもつけるよ。」


すると、弟は大喜びして、ゴールデンウィークに交換した。

洋室になった弟は、とても喜んでいた。

半ば、自分の都合だけで弟に提案をしたのだが、結果的に良くなった。

和室だと、畳みがあり、畳みの段差で魔法陣は発動させられないだろうと、考えていたが、本当にそうで部屋にいる時は、魔法陣はない。


「お姉ちゃん、ありがとう。」

「いいよ。大切に使ってね。」

「うん。」


弟とは、とても仲がいい。

学校での出来事をお互いに話し、お出かけも二人で行けるし、お揃いも出来る。

スマートフォンでの連絡も取れるし、お互いに大人になれば旅行も一緒にいけるだろう。


そんな位、仲が良いが、姉弟という領域は外していない。


その証拠に弟には彼女がいて、色々なイベントは彼女と一緒だ。

それを嫉妬する気持ちがないし、その彼女との仲も応援している。

彼女は、自分を「将来のお姉ちゃん」と言っているから、将来設計をきちんとしている弟と彼女だ。

だから、お互いの両親も納得して、許嫁という絆で結ばれている。


結局、このまま家にいると、弟の彼女が引っ越してこれないから、この機会に家を掃除して、いつでも自分は出て行けるように準備をするのは、良い事だと思う。


自分は、先は就職と決まっていて、もう内定も取れている。

大学へは行かずに、働くのを決めたのは、父と母の働いている姿を見て、早く働きたかった。

だから、時期的に丁度良かったと思う。


それに、弟が将来設計をきちんとしているから、香苗は親から。


「彼氏はいないのか?」


といわれる始末だ。

内心、放っておいて欲しいが、心配なのだろう。

だが、今の自分がする事は、このうっとうしい魔法陣から逃げる。


お風呂も、湯がゆらゆらしているから、魔法陣が描けない。

いつもなら、烏の行水で、早くお風呂から上がるのだが、この機会に長湯をする。

すると、新陳代謝が良くなって、肩こりや冷えが無くなってきた。


国立晴時ばれじ高校は、全ての教科がパソコンで行われ、一人一台、学校から支給されている。

教科書もデジタルで、パソコンの中に入っている。

ノートパソコンを、毎日持ち運ぶのは、とても辛い。

タブレットにならないのか?と訊いてみた生徒がいたが、ノートパソコンを推奨していた。


この頃、肩こりが酷くなっていたから、ありがたかった。


そして、身体が温まってくると、寝付きも良くなって、朝の目覚めが違う。

身体が十分に休まると、起きている間の活動も変わってきて、動ける。

だから、魔法陣がいつ現れても、少しの段差に移動するに、早くなっていた。


さて、今日も、私を召喚出来るならしてみるがいい。と思い、日々を過ごしている。









一方


「なんで、この人間は、魔法陣を拒否するんだ?」


召喚をしようとした人がいた。


恰好は、黒い髪を適当に伸ばして、前髪で目が見えないく、背は百七十あるかないか位。

服装は、Tシャツに半ズボン、靴下は履いてない。


その人物は、最高神から、リストにある人間を魔法陣で呼び出し、月神の所へと召喚しろと命令されている。


魔法陣を操っているのは、現世ではゲームクリエイターとして働いていたが、徹夜続きで家に帰る途中、意識がフト途切れて、亡くなってしまった畑野冬至はたのとうじである。

畑野は、ゲームの腕はとてもうまく、現世では実況やRTAもしていて、少し有名であった。

色々な動画サイトにアップして、登録数やコメント数も、そこそこ稼げていた。


最高神が、畑野に目を付けたのは、パソコンゲームを多くプレイしていたからだ。

実際に生きていた時の映像を最高神は見ていて、そのマウス操作の正確さが、とても軽やかで見ていても気持ちいい位であった。

だから、依頼した。


魔法陣を発動させて召喚する方法は、パソコンに魔法陣を発動させて召喚するゲームソフトをいれて、マウスで操作する。

現れた画面は、地図を上から見ているタイプで、地球の町を再現していた。

再現は、とてもリアルで、ビルや商業施設、病院は当たり前で、一般的な家も間取りが見えている。


そこに、人がいて、その中から、最高神がリスト化した人物を見つけて、その人物をクリックすると魔法陣が現れる。


見つける方法は、マウスポインターを人物の上に置くと、人物詳細が表示されて、リストの情報と合えば、クリックする。

クリックされた人は動かないから、その隙に右クリックして出てくる表示、コンテキストメニューに召喚とだけ表示され、クリックすると、月神の所へと召喚される仕組みだ。


だが、この秋元香苗は、右クリックをした瞬間に段差に動いて、クリック出来なくする。


「あー、もう、この秋元香苗!動くな!!」


畑野は、リストの上から順番に召喚していたから、この十一番目の秋元香苗に何日もかけていた。


「畑野君。調子はどうかな?」


最高神は、最高神の神殿にある一室。

トイレとお風呂が別にあり、ベッドもフカフカのを用意して、食事も出来る様にIHクッキングヒーター、冷蔵庫と冷凍庫を別にあり、服もクローゼットに色々な種類を取りそろえた部屋に、畑野を住まわせ、仕事させていた。


「どうもこうもないですよ。この秋元香苗という人物、とてもうまくよけて、魔法陣が発動させられないんですよ。」

「それは難儀ですね。でも、リストは順番通りではなくてもいいのですよ。」

「月神には悪いと思っていますが、これは、俺のプライドが許しません。この秋元香苗を攻略するまでは、次にはいけません。」

「わかりました。月神には伝えておきますが、早目に今あるリストを消化して貰わらないと、黒神が泣きます。それは、覚えておいてくださいね。」

「はい。わかりました。」


月神の目的は、月神と一緒に血の研究をしている黒神がいて、血に能力がある人物を月神の所まで召喚して、血液を採取し、能力を調べて、研究をする。

血の能力が、地球に必要だと結果が出れば、血を培養して、蚊に似た昆虫の身体に血を入れて、地球に飛ばし、人間に刺し、能力を入れるのが仕事内容だ。


これにより、人間の意識によるが、良い方向へ使ってくれればと願いがあって、最高神が黒神に与えた仕事である。


その召喚をするのが、畑野冬至だ。


「あー、もう、今日も駄目だ!」


いいながら、料理を作っている。

今日の料理は、チャーハンにラーメン、餃子であった。

生きていた時は、レトルトやコンビニ食だったが、亡くなってこの最高神の神殿で過ごすようになってからは、自分で作って食べている。


そうしなければならないのは、冷蔵庫と冷凍庫に入っている食材が、全て、簡単に出来るものではなかったからだ。

インスタントという物がなかった。

一応、料理レシピ本も何冊か台所にはあって、とても参考になっている。


いつの間にか、材料や調味料が補充されているから、切らすことはない。


「全く、秋元香苗!明日こそ見てろよ!!」


野菜いっぱいのラーメンを勢いよくすすり、チャーハンをがっつり食べ、餃子をムシャムシャ豪快に食していた。

そして、胃を落ち着かせるために、キンと冷えた氷水を飲む。


「はー。美味しかった。」


身体中から汗が出ていて、服や下着に張り付く。

衣服を全て脱ぎ捨て、風呂に入る。

風呂は、バスタブがあり、お湯を溜めて入れる。


一息つくと、顔をバシャと両手で湯をすくいかける。


「あー、もう、右クリックさえ押させてくれれば!」


右手の人差し指と中指を、交互に動かし、練習をしていた。

風呂から出て、クローゼットの中から、今の気分で服を選び、着て、ベッドに横になる。

ベッドの横にある机に置かれたパソコンを見ると、歯を食いしばった。


「明日こそ、見てろよ!秋元香苗!!」


といい、暗くなって、空には色々な惑星が浮かんでいる最高神の神殿を、夜が包みこみ、自然に眠りに着いた。

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