流れ星に誓いを

 あの流れ星は──────


「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「どうしたの!?シュウ!お願い!危ないから暴れないで!!!」

 あの極彩色の点滅発光は、大気との摩擦で隕石が発火しているものじゃない

「あああああああああああああああああああああああああああああああ─────」

「フィーナ!? シュベルトに何があったの!?」

 あれは多次元宇宙の壁を物質が超越した時に発生するネオエレメンタル反応。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

「フィーナ! 危ないからシュベルトを早く柵から降ろして!」

「お母様! シュベルトの力が強すぎて動かせないの!」

 あの流れ星はあの夜に見た。そして何度も何度も映像で見せられた。

「拘束魔法を展開するわ! フィーナも一緒に縛るけど我慢して!」

 あれは奴らの───  名状しがたきモノたちが乗る宇宙船。

具現Ⅳ星イマジナリー フィーア 〝スネーク チェイン〟」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「なっ────!?」

「そんな、、、、、、!!!」

「お母様の魔法を引き千切った!!!!」

 奴らが来た。この世界にも────

「シュベルトが落ちる!!!」

 視界が傾いた。世界が逆さまになった。俺は遠ざかる三人の声を聞ききながら妻アレシアのことを想い出す。

 彼女の笑顔を。




◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇




 「怪我はなかったのよね、、、、」

 城の一室。部屋の外からはアーシャ女王とマーガレットの声が漏れて聞こえる。

 昨夜、流れ星を見た直後に俺は錯乱して、バルコニーの柵上から地上に落ちた。高さは二十メートルくらいだろうか。頭から石畳に直撃し砕けていたらしい。

 頭部に触れる。まったく痛みは残っていない。それもそのはずで超弦虹速穿孔ゼーレ アクセルが展開されていた俺の身体は惑星以上の強度を誇り、あの千倍の高度から落下しても、命に別状はないだろう。傷ひとつ負うことすらない。

「あの高さから落ちたら、魔法が使えない者では普通は無事に済まないはず……」

「アーシャ様はあの子が怪我をしたり死ねばよかったと言いたいのですか!?」

 いつも温厚な母マーガレットがアーシャ女王に喰ってかかる。

「そうではありません。マーガレット……。そう! きっと女神エアリア様のご加護に違いありません」

 マーガレットの剣幕にアーシャ女王は言いたい言葉を呑む。落下で怪我が無かったこと以外に、自分が行使した魔法を力技で破られたことにも疑念を抱いているのだろう。

 俺は昨夜初めて人前で超弦虹速穿孔ゼーレ アクセルを行使してしまった。この世界には無いはずの力を。宇宙の真理に届きうる叡智を。

「シュベルト! 目が覚めたの!?」

 部屋の中へと入ってきたマーガレットは目覚めた俺を見るなり、飛びつくように抱きしめてきた。  

 不思議とその時、安心したような想いが胸に広がった。

「はい、心配をおかけしました」

 俺もマーガレットを抱きしめて無事を伝える。俺の言葉を聞いた彼女は子供のように泣いていた。その様子を俺と部屋の入り口で佇むアーシャ女王が見守った。

 しばらく泣いた彼女は緊張の糸が切れたかのように、俺を抱きしめたまま眠り落ちてしまった。たぶんアーシャ女王が睡眠魔法を使ったのだろう。

「マーガレットは昨日から一睡もしていなかったのだ……」

 彼女は魔法で眠らせたことを弁解するかのように、俺に説明してくれた。

「アーシャ女王のお心遣いに感謝します」

 俺の言葉を聞いたアーシャ女王は、ベッドの隣に置かれた椅子に腰かける。

「これはキミが産まれた日の話だ────」

 彼女は俺に語り聞かせる。マーガレットが俺を出産する時、ガルデリア王国から来た治癒魔導師がお産を手伝ってくれていた。そしてもうすぐ産まれるという時、治癒魔導師から絶望的な知らせを聞いた。赤子はすでに死んでいると。

 熟練の治癒魔導師が間違うはずがない。彼女は苦渋の想いでマーガレットに伝えたらしい。しかしマーガレットは首を横に振ったのだという。

「命を感じる。魂の鼓動を感じる。必ず元気な子が誕生する」

 その言葉を体現するかのように、死産になるはずのシュベルトは生きて誕生したのだ。

「産まれた瞬間のキミは、驚いたようにきょとんとした表情であったぞ。もっとも驚愕していたのは治癒魔導師だったけれど」

 くくくと、上品に笑うアーシャ女王だったが次の瞬間に、王の瞳色と変わる。

「単刀直入に聞こう。?」

 当然の質問だ。さて何と答えることが正しいのだろうか。俺の前世の名を告げるべきか、、、

 いや、違う。何が正しいかじゃない。これから俺がどうしたいかだ。

「俺の名はシュベルト・ウォルフスターです。母を愛し、この国を慈しみ、この世界の救けになりたいと望む者です」

 迷いはなかった。今から俺がやるべきことはひとつしかなかった。

「そう──、それならば今後もう何も聞くことはしません。僕ではなく俺と言った君の言葉を信じます」

 アーシャ女王は俺とマーガレットを残して、退室して行った。マーガレットはまだ眠ったままだ。

 昨日この世界に降り立った名状しがたきモノたちは、近い未来に必ずここまで侵略してくる。

 俺の想いは加速を始める────

 また奪いに来る。大切な人々の笑顔を。俺を愛してくれる者たちの命を。この貧しくも美しい国を。俺が再び産まれ落ちた、異世界を。

 外宇宙より飛来した根源なる恐怖。名状しがたきモノたち。その全てが憎い。

 憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。

 アリシアへの愛が、その膨大な想いが、奴らへの憎悪へと相転移したかのように、無限に溢れ出てくる。

 ああ────、 全身が脈動するかのように、生きる目的がそこに在る。


 今度こそは一匹残らず全て討ち滅ぼしてやる────


 俺が産まれたこの世界に降りてきたことを、今度は貴様らが後悔するのだ。今の俺は嗤っているかもしれない。

 

 加速する想いで、虹色の瞳光が薄暗い部屋で静かに揺らめく。

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