第2話
「さて旅立つとするかぁ」
天気は晴れ。旅立つのにふさわしい日やで。
ワイは10歳になった。冒険者ギルドに登録できる歳になったわ。おとん、おかんありがと。
『ちょっと待てや』
「なんやねん、回想始まるとこやって」
『どこで感傷に浸ってるのかって言ってるんや』
「ぶっ殺した盗賊の上やな」
足元に転がってるのは盗賊の群れの残骸。
天ちゃんが言いたいこともわかる。けど、ワイも2回も襲われて平和な村が恋しくなったんや。しょうがないやろ。
「あ~盗賊がモンスターと同じて確認しといてよかったなぁ」
『躊躇なく人間をぶっ殺す……どこでワシは育て方を間違えたんや……』
盗賊さんに感謝やで。遠慮なく持ち金と装備をはぎ取ってホクホクや。
「赤カブ村と比べるのもおこがましいほどデカい街やな」
『当たり前じゃい』
天ちゃんが言うには村は300人くらいしか人がいない男爵領。冒険者ギルドがあるこのロンロンの街は伯爵領らしいな。
「次。……ガキ一人か? 入場料を払え」
「うい」
やっとワイの番が回ってきたで。お金払ったらあっさりと通してくれたわ。
でっかい街には防壁と門番がいるらしいな。馬車の列はチェックが厳しくて兵士の人も大変そうや。その分お金もいっぱい取られてるけどな。
『アレを見ると行商人も大変そうやろ? クラが出会ったみたいに盗賊も出るし』
「ワイみたいに盗賊からお小遣いもらえばええやん」
『……盗賊行為が成功してるから、あいつら金持ってたんやで?』
「おおっ! でっかい建物がいっぱいやー」
『田舎者丸出しやな。とても盗賊14人ぶっ殺したガキとは思えんわ』
列で並んでるときに近くのおっちゃんに冒険者ギルドの場所を聞いておいたんや。そうしたら反対側の門の近くって言われたわ。
せっかくだからウロウロして美味そうなもんあったら食うとこ。
「おばちゃん美味いもんちょうだい」
「あらあら、定食でいいかい?」
『おばちゃんにおまかせでっていうんやで』
「おまかせでやで」
「随分変わった喋り方するんだねぇ。A定1つー」
「楽しみや~」
『やっぱワシらの喋りって訛ってるんやな。田舎者ってことがすぐバレるな』
店ってのに初めて入ってドキドキや。席で待ちながら他の人が食べているのを見るだなんてはじめてのことやで。
「うまそうな匂いや。いただきます」
ぱくぅ。
「…………ワイは初めて料理というものを食べたんやな」
『おい、いままでおかんが作ってくれたもんはなんだったんや?』
「材料に火を通しただけのもんや」
『かあちゃん泣くで』
「むしろこの料理を食べて反省してほしいわ」
『辛辣すぎるやろ……』
天ちゃんが故郷の味言うてるけど、そんなもんはワイにはなかったんや。
「お腹も膨れたところで、冒険者ギルドっぽいところについたで」
『武器持ったイカついやつらが入ってったし、ここで間違いないやろ』
扉を開けるとごちゃごちゃと人がたむろしとって、その奥に受付がある。
「でもどこに並べばええんや?」
『ちょっと待っとけ。こういうときは天ちゃんにおまかせや』
天ちゃんに言われて右の受付に並んだで。
「なんで右なんや?」
『左は仕事が終わったっぽいやつが、真ん中はこれから仕事を受けるやつらが並んでたからな。違ってたらゴメンやけど』
「ほーん。ワイは全然そんなとこ見とらんかったわ。天ちゃんやっぱ頭ええなぁ」
『へへへ』
小声で天ちゃんと話しながら、順番を待つことにした。
「こんちはー」
「はい、どのようなご用でしょう?」
「登録を頼みたいんやけど」
「なるほど。あなたは10歳以上でしょうか?」
「10歳やけど?」
「……なら問題ありませんね。登録金として銀貨1枚いただきます」
「うーい」
『なんか受付のねーちゃん、クラのこと変なガキやと思っとるで』
「?」
天ちゃんがなんか言ってるけどまあええわ。色々説明はされたけど登録自体はそこまで難しいもんじゃなかったしな。
「このプレートは身分証明にもなるので、無くさないようにしてください。再発行にはお金がかかります」
『F級の冒険者証は鉄のドッグタグに別で名札付けるだけのお手軽なもんなんやな』
よーわからんけど、まわりの冒険者は首に紐付けてぶら下げとったな。ワイもそうしよーっと。
「さっそくお仕事をしてもらいます。よろしいですか?」
「ええで」
『…………なるほど、わからん』
ねーちゃんはなんか色々と文字が書いた巻物を出したんやけど、ワイは文字が読めん。天ちゃんもわからんみたいやし。
「では依頼の内容を読み上げますね」
簡単に言えば街のお手伝いをしてほしいらしいわ。
こういうのはワイは得意や。村では税を上げられてからあんまり目立つことはできんくなったから、こういうので喜んでもらえると嬉しいな。
『ほな依頼人のところに行くで。ギルドでは大雑把な内容しか教えてもらえんかったからな』
「雑草抜きとか、ドブ掃除とかやればええと言ってたな」
着いたのはこの辺りでは普通の家やった。
「こんちはー。冒険者やでー」
「……いかにも駆け出しって感じの子供だね。まあいい、来な」
『待て待て。ちゃんと依頼人のテルミさんかって聞いとけ』
「あっ。おばちゃんはテルミさんだった?」
「そういや名乗ってなかったね。テルミだよ。この辺の家の雑用をやってもらいたくて依頼を出したんだ」
「クラフトや。村では手伝いやってたから任せとき」
『大船に乗ったつもりでな』
「そうかい。仕事をやったら金を渡す。中途半端なら渡さないからそこだけは覚えときな」
「もちろんや」
やっぱやってほしいことは、雑草抜きとドブ掃除やったわ。ただ場所はちゃんと説明されんと、やっちゃいけないところもあったからギルドでの説明だけでは無理だって思ったな。
『やっぱ現地の依頼人とのコミュニケーションは大事やな』
「コミミーション??」
『唐突な横文字は正直すまんと思った』
とにかくお仕事や。がんばろ。
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