第二章 魔王軍四天王と■■の魔女
第69話 出立
――夜明けを迎える頃に、王都に出現した魔物は全て討伐された。その立役者はもちろんユージンが率いる第一部隊であり、途中から合流した第二から第十部隊の騎士達も負け劣らず魔物を狩っていた。
私も罪悪感や二度も庇ってくれたユージンに恩義で、魔物討伐に協力していた。その過程で助けた人達から向けられる感謝の言葉を聞く度に、何とも言い難い心情に陥り、なるべく感情を押し殺して魔剣を振るい魔物を倒し続けた。
魔物が全滅した後、私の身柄は王城の一室に拘留された。本当はある程度魔物が数を減らした時点で、クロエ達を助けに向かうべきだと考えていた。
しかし結局私は一度協力した手前、私達が招いた厄介事に巻き込まれた犠牲者を一人でも減らす為に奔走してしまった。その結果限界近くまで『憤怒』の魔女の力を行使していた反動で気絶していた所を運ばれてしまったようだ。不幸中の幸いで、正気を失った暴走状態にならなくて助かったが。
意識を取り戻した私は、前世や今世を含めても初めて見る豪華な部屋で寝かされていた。横になっていたベッドに、ちょっとした調度品の一つや細工に至るまで、その高価さが漠然と伝わってくる。
いつの間にか着替えさせられていた寝巻きも、肌触りが良く生地が上等なものであるのが察せられた。
頭を振りぼんやりとした意識をはっきりさせると、状況を整理する為に辺りを見回そうとした。
そう思った時。部屋の鍵が開くような音がし、三人の人物が入ってくる。先頭の人物は、銀色の鎧姿の男性――ユージンであった。私が起きていることを確認すると、残りの二人に入室を促した。
それは二人の少女だった。一人は銀髪にドレス姿の少女と、彼女の後ろに控えるメイド服を着た少女。
当然その二人の少女達に面識はなく、初対面ではあるが私は彼女達の容姿からその正体に思い至った。
この国の王女フィオナ・アルカナと、彼女専属のメイドであるアンヌだ。前世から持ち越した原作知識で外見やその人物像についても把握している。
しかし彼女達からは本当の意味で私は赤の他人である。しかも王城に襲撃を仕掛けた悪しき魔女の一人というのが、私に抱く印象だろう。
そんな彼女達が、どういった用件で私に会いに来たのか。ユージンは彼女達の護衛で着いて来たのは分かるが、それが全く読めない。
「えーと……私に何かご用ですか?」
思わず疑問が口から出てくる。それに対して、ユージンが前に出て答えてくれた。
「目を覚ましたようだな。元気そうで何よりだ。……意識を取り戻したばかりで申し訳ないだが、君の処遇についての話に来てね。そしてこの方は――」
「――初めまして。私はこの国の王女、フィオナ・アルカナです。此度は王都に現れた魔物の討伐に、住民の避難誘導にご協力くださり、国王である父に代わって、感謝致します」
「はあ……」
ユージンの言葉を引き継ぐように、口を開いたフィオナが告げてきたのは感謝の言葉。何故一連の騒動を引き起こした原因である私に、そのような言葉が送られるのかが分からない。
ユージンやフィオナ達の私に対する対応からは、敵対なものは全く感じられなかった。私の疑問は晴れるどころか、ますます深まるばかりだ。
「……では、続きは私が。先ほど言いかけた君の処遇についてだが――」
――それから私に関する王国の下した処遇を聞くことになった。今回の騒動――王都への襲撃は主犯は私達ではあるが、後から王都に放たれた魔物は全くの第三者の手によるもので、私達は関与していない、とユージンが証言し国王に色々と陳情してくれたようだ。
王都を危機に陥れ、騎士団に多大なる迷惑だけではなく被害を齎したというのに、私は国外追放を言い渡されただけで、身体的拘束を受けることも処刑されることもなかった。
ただし一つの条件が課せられた。その内容とは、魔女化してしまい現在正気を失っているアリシアを、王国に連れて帰るというものである。
これ自体には異論はない。アリシアに関しては、私達を狙った騒動に巻き込まれた被害者であるからだ。
アリシアを連れて戻って来た時が、王国に訪れるのは最後になる。二度と今世における故郷の地――クロエと出会った村やシオン達と過ごした森――に足を踏み入れることは叶わないが、当初の目的に近いものを達成できたので良しと思うとしよう。
私達の事情はどうあれ王国に大きな混乱を齎したことは事実であるから。
それらの話を聞き終わった私は、すぐに着替えを済ませてユージンやフィオナに最大限の感謝を告げて、王都を後にした。襲撃犯の一味である私が、いつまでも居座るのは不味いと思ったからだ。
もちろんそれだけではなく、クロエ達の救出に向かわなければならないという理由もある。
魔女化したアリシア。魔王軍四天王の一人、魔人のドリア。
今の私にあるのは、暴走の危険性がある『憤怒』の魔女の力のみだ。クロエやシオンという精神的支柱を人質に取られて、『前借りの悪魔』の補助もない絶望的な状況。
しかしそれでも私は行かないといけない。私とクロエ達が逆の立場であれば、必ず助けに来てくれるという確信があり、彼女達を見捨てるような行為は決してできない。
「待ってて……クロエ、シオンさん。『前借りの悪魔』」
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