第15話 蠢く陰謀
――時間はパトリシア達が住んでいた村が魔物に襲われてから、しばらく経った頃まで遡る。
「ねえ……あんた達。どの面を下げて、私の前に顔を出せたの?」
ゴブリンやオークに、トロール。多種多様な魔物の前で、一人の少女が怒りを込めた声で静かに問いかけていた。
その少女の容姿は非常に整っていて、着ている服は派手さがないながらも少女の可愛らしさを引き立てている。
街中を歩けば、十人中八人は振り返る程の容姿の整い具合であった。
そんな少女の中で一際目を惹くのが、彼女の赤色の髪を持つ頭から生える、一対の角だった。
そうこの少女は人間ではなく、この場にいる魔物達の同類である。
魔物でありながら、人に近い知性、容姿を持った少女のような存在を、特に『魔人』と呼称している。
人に類似する特徴を有するとは言っても、魔物は魔物。まともな倫理観を期待できるはずもなく、平然と他の魔物を率いて人間を襲うのは珍しくない。
見た目に関しても、この少女の角のように人間にはない器官や部位があったりする為、違いは一目瞭然である。
魔人の少女は、その可愛らしい顔を怒りに歪めて、厳しい視線を魔物達に向けている。
「Gaaaa……」
「へえ……。私に言い訳するんだ。偉くなったものね……。あんたはもう用済みね」
「Gaaa――」
一番近くにいたゴブリンが唸り声――人間には聞き取れない言語らしきもの――で、魔人の少女に釈明をした。しかしそれは悪手であったようで、ただでさえ機嫌の悪かった彼女に対しては、火に油を注ぐに等しい行為であった。
魔人の少女が軽く右手で空を切る動作をした。そうすると、更に弁解を続けようとしたゴブリンの首が音もなくころりと転がり落ちる。
「Gaaaa……!?」
「Gyaaa……!?」
突然の同胞の死に、他の魔物達の間で混乱の声が湧き上がる。途端に騒がしくなる空気に、ゴブリンの命を容易く奪った魔人の少女は更に顔を不快そうに歪める。
「……あのね。黙ってくれないあんた達。私は言い訳が聞きたい訳じゃないの。これ以上私の神経を逆撫でしないでくれる? 人間の子供一人すら生け捕りにできないの!? 黒髪の子供なんて珍しいんだから、すぐに見つかるはずなのに。あの陰険な魔女に文句を言われるのは、この私なのよ!?」
怒りのボルテージが振り切れたのか、真顔になった魔人の少女は淡々と魔物達の処分を告げる。
「……もういいわ。無能なあんた達に期待するだけ無駄だった。私の見る目がなかった。ただそれだけのことだし。要らない欠陥品は処分しようかしら」
「ア、アノ……ドリア様……。一ツ申シ上ゲタイコトガ」
「何よ。下らない内容だったら、お前の首から刎ねるけど」
魔物達の中で片言ではあるものの、人語を喋るオークが魔人の少女――ドリアに報告を上げようした。
彼女は感情を揺らすことなく、オークに話すように促す。
「ソ、ソレガデスネ……。黒髪ノ人間ノ餓鬼ハ見ツカリマセンデシタガ、異様ニ強イ金髪ノ女ノ餓鬼ガ……。ソイツノセイデ……」
「――強い金髪の女の子供? そんな話、あの魔女から聞いてないけど――ん? もしかして――」
そのオークの話を聞いてドリアは、何かを考える為か黙り込んでしまった。
「あんたの話が本当なら、面白いことになりそうね。黒髪の方は無理でも金髪の方を連れて帰れば、あの魔女の機嫌も少しは良くなるでしょうし」
ドリアはこの場に来て初めて愉快そうに笑う。
「あははは! よし、あんた達。新しい命令よ。当初の目的に加えて、その金髪の子供も必ず連れて来なさい。最悪場所を探すだけでも構わない。目ぼしい情報を持ってきた奴には、それなりの褒賞を約束するわ」
――パトリシアの知らない場所で、一つの悪意が動こうとしていた。
■
一方、パトリシアが達が住むアルカナ王国。その王城の玉座の間にて。
国王と思わしき人物が、深刻な顔つきで別の男性と話し合っていた。
「被害報告はどうなっている……?」
「……帝国との国境沿いの村がいくつも滅ぼされています。生存者も数えるばかりのようです」
「そうか……」
国王は今年で齢六十になるのだが、ここ最近アルカナ王国で起こる異常事態の数々に頭を悩ませており、顔に刻まれた皺のせいで実年齢以上に老けて見えた。
国王と話す男性――アルカナ王国の宰相も、疲労が度重なり目元には大きな隈があった。
「――宰相。お前はこの襲撃を帝国のものと思うか?」
「――現段階では絶対とは言えませんが、その可能性は低いかと。襲撃を受けた村に派遣した騎士団からの報告によると、今回の件は魔物の仕業の可能性が高いとのことで。帝国が魔物を使役できる新種の魔法を開発したのであれば、話は別になりますが」
「……そうか。しかし妙だな。村の一つが魔物の襲撃によって滅びることは珍しくはないが、今回のように短期間で複数の村を対象に起こるとは……。騎士団に追加の命令だ。しばらくは村々を巡回して、警戒にあたらせろ。また襲撃がないとは限らないからな」
「――御意」
――一人の異分子により、事態はより混迷を極めていく。
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