さして古くもない過去の常連 ~ その縁者 ~.4
〔
抗議されたことでようやく、マヒアグラシアの注意が訪問者へ向けられた。
(――
黒と群青のコントラストをみせる彼女の
〔どの報告にも(訪問が)〝確定されているもの〟はなかったもの。
〝職務外〟か〝内部の者〟か、〝段取り踏み倒しの乱入者〟に決まっているものよ〕
ふたたび
彼らのかたわらに根づく
〔(それ)としても、ずいぶんと
〔……。君は? 面識があったかな?〕
〔さしてむかしでもありませんし、こちらに
直接まみえたことこそありませんが、
それと確信しながら探りをいれるマヒアグラシアの表情は涼しげかつ
あっけらかんと二重敬語をもちいて場をちゃかす、くだけた態度は、地なのか嫌味か。
おちゃめに
ともすれば無知を指摘され、
堅苦しさを蹴倒しがちな性分のようにも見えたが、しかし。
訪問者の反応に目を光らせている事実を
〔違っていたら、ごめんなさい。でも、こんなふうに押しかけてくる者など多くないので…――(その血が薄くない親族ね。その類型であっても、そこにいる面々に過去の常連がひとりもいないのなら、けっこうな無作法――厚かましさだけれど)。
黒いトカゲもどきに
〔情報を
〔(あんなところに停められたのではね……)――不審な情報は早く伝わるものです〕
〔
当主というのかもわからないが(
〔お目当てが、その
マヒアグラシアが黒い双眸(瞳孔は群青色)を細くし、言葉を微妙に
そこで、なりゆきをうかがっていたトリ―ンこと、カトリーンが、彼らの交流に水を差す。
「マギー。穴が
「いや。俺はやることあるから、もう行くよ」
姉に次の行動を確定されたことで、その弟がそそくさと退出の気配を見せた。
事実、やろうと思えばいくらでもすませたい作業があるのかもしれなかったが、これまでのようすを見るかぎり、そこまで急がなければならないことではないのだろう。
弟の反応を見た姉の双眸が、すっと座った。
「ちびの私じゃぁ
「トリーンの方が四つも上だし、みんな、知ってるよ!
俺が受付に入ったら、今度は庭師がなにに浮気してるんだって、からかわれるのがオチだ。
トリーンが見た目で誤魔化せるほど
「パル。例の線虫感染したムシ対策の法具だけれど、あなたに協力する気があるなら、
「乗った!
テーブルの上を片付けはじめたカトリ―ンが、カップ
「前にも言ったけれど、害虫に害獣……環境対策はデリケートだから、あまり触りたくないの。
自然相手だから細々とした規制があって、うるさく言われるのは知っているでしょう?
敷地内に限定・門外不出にするなら、もしかしたら許可がおりるかもしれないけれど、それも節度を
判ってると思うけど、覚悟はしておいてね。
仕上がったものの性能次第では没収されて、徒労に終わるかも知れない」
「だからさぁ、菌でもウイルスでも。竜巻でも
法印構成で追っぱらうのはいいのに、道具にそういった性能つけて効果持続させるのは、なんでダメなの? (やることは、おなじなのに)
やつらだって環境適応して進化するんだ。
追いはらうだけで、
「それじゃ、ここは良くても
ご近所トラブルの原因になるし、ともすれば生態系が崩れだす。
対処することそのものを非難しているわけじゃないもの。道具として手段を生みだすのと、その場その場で対応するのとでは、
法具にかぎらず、
「どうせ
近場っていったって、
「それでもだよ。
技術が確立されれば、外に
時が
結果、
邪魔だからって
そこにあらぬ弱点……環境に対する
存在の可能性やバランス上限を読み
失敗すること…どうしようもない事柄・事情もあるけれど、極力、力や道具を凶器にしないのがここのやり方で……」
「それはわかるけど、なにかに望まれて成立したものが望むものがいなくなった時、存続できなくなって絶滅してしまうのなら、それも自然だろ。
それいうなら栽培に飼育、品種改良するのもダブーになって、おいしいもの・体にいいものも追求できなくなる。それだって……
法印(を)置くのだって、どれもこれも利己ですることだ。
やみくもな維持は停滞を呼ぶ。
生きものは、より良く生きるために戦うものだ。
あてつけでもやつあたりでも、思いつきでも、不安でもなんでも……自分たちに不都合が降りかかってくれば人間さわぎだすけどさ、
自然の
〝負の連鎖〟とかなんとか言われると
守りたいところは、やっぱり死守したいわけで…」
「生きものは増えすぎると、やり過ぎるのよ。
必要によるものか・
懸命に考えたからといって、必ず正しい選択ができるわけでもない。
だからこそ過去の失敗は失敗、間違いは間違い、手違いは手違いとして、自分たちが極力その原因にならないように。選びとらないように……」
「そんなの! 言い訳してなにもしないのは〝逃げ〟だし、
「こと、これに関しては、偽善だろうと回避だろうと理想だろうとこじつけだろうと、まわりの生態がどうあろうと関係ないの。
人がより良く永続してゆくための知恵。
混乱、よどみを生むことなく置かれた環境に順応して続いてゆくうえで必要になってくるひとつの方法。
方針。手段。余儀なくされる手心。
個や局所だけが得をする場当たり的なものじゃない《
人間も動物だもの。強くはないから環境に
画期的なものを発明したからって、悦楽歓喜・狂喜ばかりはしていられない。
時間は待ってくれない。もたもたもしてはいられないけれど、暴走して足もとをガタガタにしたのでは意味がない。
現在も大事。おろそかにできない。でもだからって、思いつくままにやりすぎると失敗する……。
世界は人を基準にできたものではないから間違えてしまうのは、むしろあたりまえ。
よかれと思って行動しても失敗することがある。
でも、だからこそなにも考えない理由、暴走するいいわけにはならない。
どんなものだろうと、道具と情報と知恵と手段は使い方!
人類のなけなしの武器だけれど、
それでも目指すのはけっきょくは生きものとしての利益だもの。できれは楽な方がいいのだし、情や
価値観の違い・移行で、物事の方向性は激変するし、先はなかなか読めないものだけれど、目先の利や感情に流され過ぎない慎重さ・たゆまぬ思考努力・足固めが大前提。
環境には順応するもの、対処方法を攻略し寄りそうもので、戦いを
多頭社会は思惑が衝突し迷走しがちで、ままならないものだけれど……」
「たかが虫よけで、そこまでハナシ
「大きくなんてしていないわ。そこに通じる
負けそうになったからって、うやむやにして論争消去しようとしないでよ」
「そもそも、
意見を戦わせながら遠退いてゆく姉弟を見送るともなく。
微笑ましげに頬をゆるめていたマヒアグラシアが座席から重い腰を浮かし(※ けっして、体重が重いという意味ではない)、客人たちに向き直った。
〔――行きましょうか…〕
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