第4話 友 垣 ~かきね結び~
友 垣.1
「――
「はい」
「目的を持つのはいいことだが、おまえはまず、いまとり組んでいる
《
実技講習が始まるともなく。
しかし、
対する指導者。
カフルレイリの反応は、彼の予測から大きく外れるものではなかった。
もとより。手もとの作業をもてあまして、気分まぎらせになした働きかけ。
教え子を視界に。
「達成したら、そっちを教示すること・ノルマ……習得へむけた
――その条件に応じる手だて、満たすための
命ある者の活力を調整・補正しようというんだ。
対象の体調はもとより、生死にも関わってくる。
とうぜん、必須となる知識・技能は少なくないし、こんな
この項目でも、間接的に
たとえ成果が見えなくても、たるむな、さぼるな。やる気を出せ」
「…はい。でもオレ、
「なにがわかった?」
「石でもペンでも。素材がなんであっても、あんなふうに閉じこめたくない。
そんなのは、やっぱり、不自然な気がするので…。
講師が言うように、そうすることに抵抗があった。どうしてこだわってしまうのかは、よく……」
「そうか。なんとなくでも自覚できてきたのなら、それも進歩だ。だが、〝できない〟のと〝しない〟のは違うな?」
成果を認めながら、軽く
それは先に進む気があるのかどうか、作業へむけた意欲レベルの確認にして
「すぐ出していいんだから成せることを示せ。そうすれば実力認めて、可点をやる。
そのおかしな癖さえ解消できれば……いや。そこを乗り越えさえすれば、こっちの課題も
どういった方向性のものであれ、法印士になってから、その技を使うか使わないかの最終判断は、おまえがしていいんだからな」
煮えきらない表情を見せている
カフルレイリは、カフルレイリで、〝どう評価しようにも手だてがない〟とでもいいたげな顔をしている。
(まあ、それで試験でひっかかったり、非協力的な態度を追及されたり、必要なところで、〝あれは使えない〟と問題視されるようにもなるわけだが…。
主義趣向、好みがどうだろうと、授業では、そんなに長い
指導する行程で手こずることになっても、
🌐🌐🌐
わや……わやわや、ざわざわ、
ごちゃごちゃ…ぐしゃ、すぃんすぅぃぃぃ~~い……。
かたわらに見てとれる現象。
それは遊星のごとく、
彼。セレグレーシュが
色調の明るい茶色の髪をそなえたその少年は、一度目二度目にした失敗と
(…――《心力》を必要以上に投入し、部分部分を補強することで、反動をおさえ維持しようとしてるみたいだけど、そうするほどに全体の均衡……〝兼ね合い〟が狂ってゆく。
各所で超過してしまっている
バランスも規模も違ってしまっているのに、削り整えるでもなく、領域を拡大する方向に
変化に対応しきれていない。処理がおいついてないから動作が安定しない。
それがどこまでも迷走してしまう原因――)
どうにかまとめあげようと表情筋をゆがめ、唇をかみしめながら
視界にあるそのようす、ありさまがあまりに
「…基礎配分にむらが生まれてる。
《
望む動作を見せないのは、各所の過剰を除去しきれていないからだ」
「わかってるよ! けど、(こっちを調整すれば、あっちがくずれる、あっちをやればこっちで……どこから、手をつけていいのか…)うまく部分部分に対応できないんだ…っ!」
反論しながらふりかえったその少年が、迷走する法具の群れごし。いくらか距離をおいて立っている発言者を目視したところで、ぎょっと目をむいた。
(――…なんで、彼が……)
その灰色がかった
セレグレーシュだ。
思いもしなかった現実と、
あれもこれもで、すぐには対応しあぐねた茶髪の少年の主張が、そこで
「……こんなの、同時にまんべんなくなんて難しすぎる…。
俺のことより君は、
独白なのか
明るい茶色の(髪の)頭をふりやった。
「あぁ、わけわかんなくなった。一回、散らすっ!」
そんな
そっと、ため息をこぼすともなく、まなざしを伏せたのは、いくら離れた位置にいて、ちらと視線をくれた
「マークン、荒ぶるのもわかるが、それ言ったら、おまえ馬鹿だぞ」
開口一番。作業の手を止めたその少年が、ふたりの方へやってくると、注意された
「それって、なんのことさ」
「そっちの奴は、できるのにしないだけ」
「ロジェ、言い過ぎだ」
「事実だろ。
こっちの技だって、成立する寸前まで、すんなり
「むーぅ……。誰にだって、うまくいかないことはあるものだしさ…。…(彼にとっては)最終手が山なんだろ。…うん」
友人の
独自に答えを導きだすことで納得し、落ちつきをとりもどした明るい茶髪の少年が、くるりとセレグレーシュの方へ向きなおった。
「悪かった。君を見てると、じれったくて……いや、(俺が)勝手に
さっきのは…熱くなりすぎてて……。いきなりだったから…(だから、びっくりもして…)。
悪気はなかったんだ。(うまくいかなくて)ちょっと、(かなり)くさって(い)たし。
驚いた反動っていうか……条件反射というか、な…(彼~セレグレーシュ~がその
「うん…。なんか、邪魔してしまったみたい(だ)…。オレも……」
「気にしないでやってくれ。こいつ、かまって欲しかった誰か(てめぇだよ)に
つっこみを入れる顔は真顔だったが、見計らって水をさしたようなタイミングだ。
その発意と態度には、そこかとない作為、演出が感じられる。
「
普段、ネコかぶってるだけに、けっこー熱中してる時、口
さらに言うと、おいてけぼり食いそうで
「きわどい注釈いれないでくれるか? 自分が情けなくなる…」
「おーぉ、図星だな。沈め沈め。おまえは、〝熱さ〟と〝冷静さ〟を両立できれば、
でも、俺のことは恩人に見立てて〝俺以外に〟…ってことにしておけよ?」
「俺は君と違って、冷めたらできない性分なんだ」
「っん! 若いなぁ」
「じじぃ
「じじいの助言は、ありがたくなくても、
それ以上にやっかいなのは……あまりがっかりさせると、
性格や健常度の問題で、じじぃに限ったことでもないが……わきまえのある利口者は、そうならないよう、
人間、歳をとり過ぎると、視野が広がるか、狭くなるかの二択だというし、
じじいではないが、ほら、年長者として
「…君のお爺さん、ここに連れてきたくなってきた……」
「あー…。どんな
足腰弱くなりはじめた
おまえが〝ハラスメントおやじ〟になったって話だっけか? 若いうちから、
「…。これ以上からんだら、
「
「俺、
おまえの(これからするかもしれない怪我の)心配するほど(精神的な)よゆー(が)ないって言ってるんだよっ。(手加減されたかったら)黙っとけ!」
セレグレーシュが二者のやりとりに圧倒されていると、友人との論争に見切りをつけた若い方が向き直り、
〝マークン〟とか呼ばれていた方で、明るい色合いの茶髪に、微妙に灰色がかった茶色の目をしている。
普段、その少年を示す音として主に耳にする
どちらも愛称なのだろう。
その彼がどんな名をしていたか――少し考えたセレグレーシュだが、いまはこれと符合する
この組織にかぎらず、この土地では、おなじ講義を受ける仲間だろうと自己紹介が、どこまでも任意になる。
なにかしらの機会がないと通名くらいしか耳にはいらないものなのだ。
この《家》に来たばかりのころ。
あたった数が数なので、以来、言葉を交わす機会もなければ、セレグレーシュもいちいち覚えてはいない。
「例の
「ん? ……あぁ、そう…だな」
「仲直りしたんだろう? よかったね」
とっさに対応しあぐねたセレグレーシュが、つかの間黙り込む。
すると、その反応に疑問をおぼえたのか。
その彼。茶髪のマークと呼ばれる少年が、さらに言葉を
「なんだ? それとも、また
わりない友人同士の言葉の投げ合いを間近で披露された直後だ。
はじめに
加えて口に出された内容が、とっさには反応しづらいものでもあった。
そんなこんなでセレグレーシュが態度を決めあぐねていると、そこに生まれたわずかな
「
「そうじゃないんだけど、考えてみれば……」
――それに近い状態だったのかも知れない……と。
指摘されたことで実感してしまったセレグレーシュは、ぽそぽそと反論しながら話題の存在との不調和を自覚して落胆した。
不明が多い中にも良好と思っていたのは彼だけで、その実態は、かなりちぐはぐしていたようなのだ。
こころもち視線を落として、考えの一端を口にする。
「二年間、ずっと騙されていたようなものか…――(いや、あの経緯だと、産まれる前とか、産まれてから、そんなにならない頃からなのかも――…。…)」
「そうなのか?」
「そりゃ、ひどいな」
(…――
口調はもとより。態度からして、からかわれているように感じられたので、二つほど年長のロジェと呼ばれる男の反応は、セレグレーシュの
それでも、なじみのない相手である。
セレグレーシュは、それはそれと考え。
意識して距離をもうけることで心を整頓し、
「うん。でも、いいんだ。(たぶん初めのうちは、
あいつにはあいつの考えが……事情がある(でも、あれから姿、見てない…。べつに用もないけど…。…オレ、なにか言い過ぎたかな…?)」
「へえ。物分かりがいいんだな」
懸念をおぼえていたところに、そんな言葉を返された。
ムッとしたセレグレーシュが反応するより先に、マークと呼ばれる少年が仲裁に入る。
「ロジェ。そう
「契約する予定ないなら、こっちに
どんな奴なんだ?
強いのか? あの
挑発し続ける友人を片側に――マーク少年が歯がゆそうに表情をゆがめている。
援護されたことで毒気をぬかれたセレグレーシュは、いささか虚をつかれながらも
それ以前のやりとりを見ていたので、経過としてはさして意外な流れでもない。
立ち向かってくれた方の少年が感情を爆発させそうにも見えたので、なんとなく黙りこんでいると、
(無駄か……。
そこで思考をきりかえたその彼――マークことマークリオが、セレグレーシュの方にまなざしを転じた。
「
「あれは強いか弱いか、ただ逃げ足が速いだけか…。そのうちのどれかだと視たね――出てきてこの
マークによる事実確認の問いにつづき、すかざずロジェが挑発めいた見解をたたみかけてきたが、冷静さをとり戻していたセレグレーシュは、それもそのままに受け流した。
ただ、ぽつりと。
そのとき、頭に浮かんだ疑問を口にする。
「…。契約することの利点ってなんだろう?」
「それは、必要な時の
教え子たちのやりとりを聞きつけ、ここぞと会話に割りこんだのは、そのへんまで来ていたカフルレイリ講師だ。
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