第3話  さして古くもない過去の常連 ~その縁者~

さして古くもない過去の常連 ~ その縁者 ~.1


 雑多な野草が生い茂る《千魔封じの丘》とよばれる草原くさはら


 ちらほらと。

 大小、地域性や価値観、生活水準の違いを体現するような天幕や人の集まりが見受けられるあたりから少しばかり距離をおいたところ。


 ただっぴろくひらけた原野に、車輪つきの平屋――《移動式住居モービルホーム》がひとつ、ぽつんぽつねんと。

 とり残されたように放置されている。


 かたわらには、真っ黒で内部に白っぽい光の受容体疎らなきらめき(光点による玉模様調)を内包ないほうした巨大な〝なにか〟。

 オタマジャクシのごとき、まるまるっとした楕円顔(?)の生物とも無生物ともつかない物体が、さながら《移動式住居~家~》を守護するように寄りそっていた。


 体高高さにして三メートルあまり。

 (胴の)はばはその倍ほどもあって、体長長さが六、七メートルほどにもなる。


 そのずんぐりした物体と大地との接触面――右と左には、足とも手ともつかない〝まるみのある優美なヒレ〟のようなものが、肉太にくぶと短小たんしょうながら、むにむにわさわさ、どてっと地表におりている。


 どっしり、胴体部分本体の底辺も地表にゆだねているそれは、ふとった寸づまりのナマズか、サンショウウオのようでもあって、そのしっとりれてでもいるかようなつやが見られる表皮は、ことのほかみずみずしく、けっこうな弾力と柔軟性を秘めていそうな視覚効果を生みだしている。


 しかし。


 どこまでもぽわぽわつるりとして見えるその外面には、生物にありがちな目や口、鼻のような器官をおもわせる凹凸おうとつが認められない。


 ただ、黒く半透明な、ぷるんとしたその異形いぎょう全体に、きらきらとまばらな光点がちらばっていて、緩慢かんまんに内部を移動し、ゆらめいている様子さまが認められるだけだった。


(……イモリ´かヤモリ´か、サンショウウオ´か……。

 いや、ウミウシ´か、ナメクジ´か……?

 ――トカゲもどきの軟体生物……

 ガラスかなにかの置物おきものっていうより、でっかいゼリーって感じだね。

 尻細しりぼそりにも、脊椎せきついありそうで無いようなあるかどうかも微妙な印象だけど……いちおーは、? …の、ようだな……)


 《家》に入門を希望する者や問題をかかえて相談に来た者――そこに随伴ずいはんする付き人、親族のたぐいなどが遠巻きに見守るなか。


 少女のような外見をした《法の家》の《人材情報局(表むきはスカウトでも、裏では情報収集・必要とあらば特殊工作も手掛ける諜報機関)》・局長の長子は、見なれないその物体を前にして、一歩。

 踏みだした。


 瞬間、ぴくり、と反応を見せたその黒い異物(遺物……もしくは生物)が、くいっと、身体(?)をひねり、どっぴゅーん、ずさささっ……と。


 わずか、三秒ほどだろうか?

 間差かんさ数秒の怒濤どとうの合間に、二十メートルほども遠方の大地(草原)に退しりぞいた。


 どうやらロープか、なにかで繋がっていたらしく、となりにあった車輪つきの家もその物体に引きずられて、ぎしぎし、がたがた、がっしゃんと、不穏な騒音をともないながら遠ざかっていった。


 すさまじくも素早く、けたたましい動きであった。


 内部が、散々なことになっていそうだが……とうの黒い存在は、ともなった物体の状態など気にかけるようすもない。


 接近しようとした人物(人材情報局・局長の長子)を警戒して向きなおり、こころなしか、ぷるぷると震えているようでもある――…といっても、あくまでも印象で、その表面が振動しているわけではない。


「……ふぅん。逃げたか…(こっちが見えているのか、表皮触感や嗅覚、耳で空気の振動をさっして反応したのか、超音波なのかもわからないが……この気配・反応はこれは刺激しないかぎり無害なパターンだな。

 つまらん。

 女性陣に頼まれたからには拒否もできないが、もどったタイミングが悪かった。

 この程度の不審物調査こんなの、負傷療養中のフリスティア怪我人でも充分だったろうに……)」


 さして広くもないその背中せなをかばう朱色あけいろびた白色(朱鷺色)の髪。


 凛とした黄金と赤の虹彩。

 漆黒のようでありながら、それぞれにセピア暗赤色ボルドーの色味がほの見える瞳孔。


 オッドアイ特徴的な目そなえた、色白でスレンダーな少女にあらずもどき――見ためがどうあれ、身も心も男子。

 局長の長子の喉からこぼれたのは、こころもち低めの男性高音テナーだ。


 局長の長男~彼~の後背。

 その身が備える尻尾ともたてがみのはしともつかない白い束ね流れふたとおり。

 しゃなりとした流れを見せた。

 大気の抵抗流動を無視してゆらめくその先端が、へたっと背後の草原くさはらに降りる。


 翼がえてるわけではないが、その外見特徴――

 ときに左右後背にひろがり展開し空間を占めることもある体毛(たてがみ)が、翼やふさふさの尾~それ~と思えなくもない外観ビジュアルをみせることから〝ウイング〟ならぬ〝ホワイトダウン〟〝ツインテール〟〝フェザー(※)〟などの異名で呼ばれることもある彼の、その金と赤色の色を異にする瞳がそそがれた地表――


 はらりと舞って、

 黒い生きものが通り過ぎた大地に残されたのは、移動式住居モービルホームの側面にるされていた黒っぽい布地。


 急転回急転移動した振動で、振り落とされたのだ。


 骨盤の幅、胸の隆起こそないが、女性の平均程度の背の高さといい強靭さに相反するすじの細さといい、少女にしか見えない(局長の長子)が、つかのま中断していた歩みを再開。

 黒っぽい布地落下物のもとを目指した。


 手前で立ち止まり、ひょいと。

 地面そこに残されていた落とし物をひろいあげる。


 湿気をはじく工夫がなされた黒真珠色の平布ひらぬの――レジャーシート、もしくは特大サイズのテーブルクロスのたぐい――だ。


 そのかど、対角の二か所には、所有者の正体を知らしめる特徴的な刺繍ししゅうがなされていた。



 ――〝水芙蓉みずふよう´(はすの花)〟のまわりをひらひらと舞う大小五とう――種類違いの〝立羽蝶タテハチョウ´〟――



(……。これは南の小うるさい客人のものだな。

 私には関係ないけど。あんなものに荷物の番をさせるなんて、人騒がせな…――。

 頭目の類主要は出はらっているようだし、受付に顔を出していないところをみると、すでに侵入をはたして敷地を踏んでいそうだが……。

 とりあえず、これは放置でいいか……)




 ▽▽ 場 外 ▽▽


 ※ 〝フェザー〟――羽にくわえて、重さウエイト(格闘技/彼の体重がその、どのレベルだからと指摘するものではありません)の意味もかましておりましたが、後者はハイファンタジーとしてはNG?💦 ←言わぬが花案件


(命名や名称に関して、一般にありそうなところでは、もう人様とかぶっても気にしないことにしました ←悩んでつけたものだとしても、気にするほうがどうかしているのかも……

 北の受付に関しては、おなじ名称のお店が実在すると知り、悩んだすえに文字つけ足したりしましたが……不感の境地にいたりたいところであります。

 自分流に響きをもじったところでかぶったら、きっと泣きますが…(┬┬﹏┬┬))


 彼はサブキャラのさらにサイドに位置するメンバー構成員になります。

 四兄弟(ひとり短命による故人)+養子のようなもののうちの長男(一番低身長ちび)です。

 見た目は若くても、そこそこ、お年を召しております。

 世襲ではないので、次期局長候補というわけではありません。

 フリスティア(さいどすとーりぃでは登場済)とは同僚です(適材適所? の専門振り分けがあっても、トップ以外は皆同僚組織――独裁? いいえ。この代は、一に、かなりまで放任です)。


(髪でも体毛でも、仕様をツインテールにする機会はない……はずです ←考えていないことも……でも、彼は髪でも毛でも、結ぶのを嫌うのです/あと、毛深いのは背中だけです。うなじから、うっすらと始まってますけれど)

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