寄り道.4
《法の家》には、主に座学に使用する《教習施設》と実技指導・訓練に利用する《実習施設》が、大小、それぞれ一〇ずつ存在し、
赤褐色の髪の若い
中枢の円庭から、住人の主な活動
――《第一実習室》だった。
施設の細々とした備品~法具~を利用するぶんには許可がいるが、積極的な活用が推奨もされるので、教え手・学び手とも、活用する者は少なくない。
講義がおこなわれていなくても、入れば
なかでも、この〝第一〟と名の付く実習の場は、
利用しようと思って
紫外線対策が確かなことから、とあるアルビノの師範が
その機能――紫外線
対策が確かといっても、陽の光がいっさい入らないわけではなく……。
そういった法印構成がほどこされている天井直下(建物内部)に、刺激の強い特定の波長が侵入しないというだけのことだ。
その効果は、たとえ日が傾き、光が斜めに射しこもうと確かなので、先天的なメラニン欠乏に対する対策であれば、あえて閉めきらなくても
それでも
中に入ってみると、やはり。目の細かい薄手のカーテンが
光を完全に
その日は快晴。
太陽はまだ高い位置にあり、空は青く晴れわたっている。
明かりが灯されていなくても、室内は、さほど暗くなかった。
アルビノといっても、《
日中、素顔をさらしたまま出歩いている姿も見かけるので、繊細そうに見えても、それなりの耐性を
彼の場合は、
教壇に立ち。手にした紙面に目を通していた白髪の師範、スタンオージェは、その場立ちにくるりと向きなおり、来訪した面々を黙認するともなく、持っていた束ねを最寄りの卓上におろした。
師範が紙をとおして片手を乗せた卓上には、いま彼が置いた紙の
さらにその手前には、底辺の一端を基軸として
ついで、ほかの同目的の施設では、あまり見ることはないが、この第一実習室で、そこそこ頻繁に見かけられる備品として、
高さが一致する六台の〝
幅二五センチ強・長さ三メートルあまりの合金製の板(
伸び縮みする
計・五種(脚立・はしご二種・合金板・補助具)十九
師範のいる教壇の向こうや、かたわらに確認できた(――実はスタンオージェの私物。実態を知らなくても教え子たちには、
「
これと示された教壇の前面。
球形や筒型、箱型などの幾何学立体はもとより。
線形、帯状、面状、
しかし、法印を築く上で、定番とされている
部分部分に、静止状態の分子構造を思わせる規則性を見いだせないこともなかったが、全体を見れば、積み上げた法具が
注意して見なくても、部分部分に円や正十二角形、放物線など、幾何学的な流れが見えてくる散らかりだ。
全体を見れば、はちゃめちゃなようでもあるが、ひとつの型におさまることなく、ほかと
「なんだと思う?」
「課題の準備……授業の予行か、なにかですか?」
「ありがちな
無難とも
白髪の師範は、ゆったりした動作で教壇の手前に移動すると、床に散らかっている法具を見おろした。
「私は、この通り、
法具師としても、いささか能力が
まわりこむことで後ろになった教壇の
「まだ、目標には届かないが、借りものの力で、どこまでのことが可能になるのか……法印構築の研究をしている。
君にとっては、必ずしも必要ない
心力消耗や非常に備えて準備しておくと、いざという時、役に立つことがあるかもしれないな」
その赤色の視線が、セレグレーシュに向けられ、ふたたび、足もとに散らかっている法具におりた。
「これを実用化する上で課題も少なくないが…――ともあれこれは、初期配置の予定だ。
完成させるためには、
これに心力を投入するに
くるりと身を
そして、卓上に見た紙面の束をひとつ持ちあげ、こころもち手前——セレグレーシュがいる方の
「予定としては、この数値バランスになる」
入り口付近で足を止めていたセレグレーシュが、走りださぬまでも迅速に距離をつめる。
「…いいんですか、これ。オレが触っても……」
床に散らかっている法具を左下に気にしながら、たどりついた卓上の
「まぁ、問題はあるかもな。普段なら、その道の
一番上にある記述を目でたどりはじめていたセレグレーシュが、はたとおぼえた
そうして確認できた白い面貌の中。
「これは少量の
心力バランスに
むしろ適してるかもしれない。
だが、まだ、仮説検証している段階だ」
その視線が入り口と教壇の中間にいる
ともなく、伏目加減に指示が下される。
「なにが起きないとも限らないから、ヘレン、おまえは、そこの
「
短い言葉で拒否したのは、より年若に見える方……アシュヴェルダだった。
〔
不服そうにうったえたのは、外見的には年長に見える赤褐色の髪の
「われは席を外そう」
どうやら、余人と行動を共にする行為に異をとなえただけだったらしい――
アシュヴェルダが、ひとこと告げ、となりにいた
そうしてひとりが去っても、いまひとりは動こうとしなかった。
そこで、スタンオージェが立ちつくしているパートナーに向け、そっけなく指示をだす。
「おまえも行け」
〔茶の時間には、まだある〕
「なにをこだわっている? いつもなら、そうしてるだろう」
〔
「そうか……なら」
遠慮も反抗もなく。
ただし。事実解明に
〔
〔…。
「場当たり的な手抜きとしても(ふたつ目の理由が少し気になるが)……。まぁ、いい」
言語を人の使うものにもどしてぼやき、そっと肩で息をしたアルビノの臨時講師。スタンオージェの注意が教え子へと逸れる。
「レイス。手伝う気はあるか?」
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