寄り道.2
〔……その気になれば、君は、闇人の名を読み解けるのではないか?〕
——平素は、そうする気が……意志がないだけのことで…。
明かされなくとも、その気になれば本質を看破することが可能なのではないだろうか…? ——
と。
〔いつか話したと思う――闇人を呼ぶ東の魔女…。あれはセレスの母親のことだ〕
意識して、聞き手の反応を探り見ながら。
〔……正しくは、その女が呼びこんだわけではないようだが…。成人
だから魔女といわれたのだと…。
子を産んだ……
アシュヴェルダの話に耳を
話されている事柄は、自分には関係ないことに思えたが、深刻さが感じられる内容でもあったのだ。
〔よく知らないとか言いながら、けっこう話すんだな。
〔このやり取り(音・響き)は、その男に届かない――これを
警戒していないこともないようだが、アシュヴェルダに、
事を荒立てることもなく、淡々と事実を告げる。
〔
(その)彼に出会わなければ、きっとわれは、セレスと出会うことも……。(東へ……
〔呼びこまれたって、誰が?〕
〔……名など知らぬ〕
話の流れから考えれば、呼びこまれたというのは闇人だろうから、名を知らなくても——呼称のやりとりがなくても不思議ではない。
深く前後を考えることなく、たずねてしまっていたが…――
ともあれ。ヴェルダって、秘密主義だよな……とか思いながら。
セレグレーシュは、相手のそっけなくも苛立っているともとれる態度に、そっと吐息をついた。
そしてぽつりと。ずっと、自分の胸の内側で
〔…なぁ。……オレは、ひろわれた子供なのか? …やっぱり、亜人だったりする(のかな)?〕
〔君が
うんざりと。裏に
〔なにか…いけないか?〕
〔悪いとは言っていない〕
〔う…(そうだ!)。じゃぁ、おまえが会った、魔女に呼びこまれた奴って?〕
〔そんな
突然、心を閉ざし、交流をシャットアウトするような反応をかたわら(わずかに右手後方)に見たセレグレーシュである。
理由
前向きに考えれば、幼い子供相手の対応を
〔ぜんぜん知りたくないってわけじゃないし、お
セレグレーシュとしては、わけがわからなかったが、自分の言い分をそのまま伝えて、相手の理解を
〔わかりたいから会話するんだしさ。そいつがいなかったら、おまえがオレと……会うこともなかったってことじゃないのか? (たしか、さっき、そう言った…)〕
〔…おかしなところで
(え…?)
〔君が、十代の子供だという
感情を読みにくい冷めた表情で指摘されたが、そうあっただけに。
それと決めつけられ、〝見込み違い〟と愛想をつかされたようでもあり。未熟な子供指摘されたようにも思えて――…。
必ずしも平和的ではない反応でも、対等のあつかいを受けたと前向きに解釈した直後だったから、ことさらに。
セレグレーシュは、立腹しないまでも抗議したい思いを胸に、むっと意地をはって、
アシュヴェルダの
経年の少なさを指摘しながら、ときにはそれに不釣り合いにも思える思量……
さして重要とも思わないところに相手のこだわりを見たので、話している内容の趣旨違いを表現し、
ゆえに、自身が口にした言葉が備えたつたなさ・薄情さ・つれなさには気づいていない。
そこに起きたのは、必ずしも万能ではない
〔オレにすれば、おまえ、けっこう慎重で
それで、勝手に
レンが連れてきた男と違って、いま
それとも、おまえ、なにか危険なのか?
(緊急でないにせよ、なにか…せっぱつまって、あせっているのかな……)〕
とりあえず思いつくままの苦情を
怒ってるわけではなかったので、その表情の前面には相手への配慮、自分が置かれた状況へのやるせのなさが押しだされていた。
〔…そうだな。われは、あれから
それと耳にして。セレグレーシュが肩越しに見た闇人の
しんみりと。うつむきがちに沈み、しめやかなようでもあり。
静虚な落ちつきを感じさせるなかに、どこか
陽性のものだろうと陰性のものだろうと鎮静していて、そこにあるのだろう思いが、激しいのものでないことは確かなようだったが……。
〔君の
対処や表現は、君より
未知の人物と比べられたことで、セレグレーシュの
〔
そのままでも、おまえ、まだ伸びしろあると思うよ? (
どんなにおもしろくなかろうと、その人が
そう、なぞらえて考えてしまうのなら、こだわっても仕方ないのだ。
だからここは、外見的な年上らしく、自分が大人になったつもりで、と。
セレグレーシュは、自分の考えを……。
伝えたい思いを素のままに主張した。
〔それに、どこか似てたとしても、セレスはセレスで、オレはオレだ〕
そんな人は知らないし、なにがどうあるのだとしても、今の自分ではないのだと。
それに対し、アシュヴェルダは、すげなく突きはなすように宣告した。
〔断っておく〕
うつむきがちなその表情は
〔セレスをとり巻いていた闇人と……君を切り
微妙に硬いその表情の裏には、相手に対する怒りとも苛立ちともつかない相反する想い。
――少し前まで、目の
いっぽう。
セレグレーシュは、セレグレーシュで、
違うと言ってるのに考えを
いったい何が言いたいのか……こだわるのかと思い巡らすなかに、これといって返す言葉も思いつかなかったので、ままならぬ情動を持てあまし、
思いばかりがあふれて、とっさに、なにを言っていいか判断がつかなかったのだ。
〔君の養父もはじめは、君を彼らに
われはおのれの興味から、君をここへ誘導した…。
すぐに冷めて放棄する、安い好奇心で…。君のこれまでの苦難は、われが導きだしたようなものだ〕
(――だから……だったら、なんだっていうんだ…!)
口に出しそうになった思いを押し殺したセレグレーシュは、わずかに遅れてついてくる相手を、こっそり睨みすえた。
口調そのものは淡々として激しいものではなくても、縮んだ距離を意図して拡げようとするような、
なにか変に気に
思いだしそうで思いだせもしなかったが、おおげさな結果を語られている予感がしたから……。
彼、セレグレーシュとしては、そんな言葉を投げつけられている現実が、この上もなく理不尽に思えたのだ。
〔…むかしのことは、むかしのことだし、さっきも言ったけど、セレスはセレスで、オレはオレだ〕
いま聞いた言葉では、全容など見えない。
そこに葛藤があったとしても、自分ではない
世の中、結果だけで察せることも存在するが、きちんと順をおって話さないとわからない事柄が少なくないのだ。
それに適合する特化した能力のない人間に可能なのは、気に病んでいる場面を見かけた時、過不足があろうと独自に推し量り、思いやるのがせいぜいだ。
くわえて、その告白は、自分が父親だと
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