第2話 寄り道 ~迂回路(うかいろ)~
寄り道.1
――…。白状しよう。…――
われは、いくつか名を持っているが、アシュヴェルダが本質だ…――
赤褐色の髪の
いま、かたわらを歩いている闇人……
――アシュヴェルダ…。
…《ヴェルダ》……。
やっぱりだ…と。思わなくもなかった。
〝声が似ている〟という、それだけの理由で、大切に思っていた友人と他人を
この《家》を訪れた頃から
その声を耳にするまで、疑いもしなかったのだけれども……。
それには、その
その都度むけられた過分な笑顔(――さながら好意を
つい最近まで距離を維持し、声もかけてくれなかった理由が気にならないことはなくても……。
いま。浮かれて舞い上がっている彼には、そんな魂胆の見えないあやふやな実態は、どうでもよくなっていた。
なにはともあれ、見つけた。
捜していた存在は、息災で、とても近くにいたのだ。
うち明けられたことで、ひしひしと実感するなかに安堵したセレグレーシュは、その現実がもたらした充足感で、いささか羽目を外していた。
🌐🌐🌐
……真の経年がどうあれ、成人未満に見える若者が三人。
前後しながら、人が動線として刻みつけた道を外れて、てくてくと。
風や生きものに運ばれ落ちた種が、根づくままに放置されたことで
中央の円庭に残された森林と異なり、
あくまでも御園の片隅に残された小さな森の延長。
高い位置におかれた居住および公共区画へと連なる傾斜においては、ごく一部をかばうもの。
容認されながら、
〔……なぁ。あの、満面の(へらへら※)笑いはなんだったの?〕
【 ※ この表現をつけると、まともに答えてもらえない予感(確信)があったので、的を射ていると思ってはいても省略している 】
六歩半ほど先を行く赤褐色の髪の
たずねたのは、青磁色の髪をした十代半ばの男子。
セレグレーシュだ。
わだかまりや
〔話しかけてこなかったことは別にしても、おまえが、
最近は、あんな…――(変に
〔セレグ
……闇人の言語ではあったが……。
非常に冷めた答えが、とても
たしかに…。
完璧ではなくとも。その行為には、相応の効果があった。
あのような姿勢を見せられなければ、セレグレーシュは相手が闇人だろうとなかろうと、そう遠くなく
事実、あの笑顔を見ようと、何度か
その
あの
それも、かなり厳格に思えた(その頃は、そう思い込んでいた)《法の家》という組織が背景にあり、滅多なことはしないだろうという予測が成りたったからこその
相手は、どんな能を秘めているのか
観察するなかに害はないようにも思え、その気にさえすれば会話が成りたちそう……と。
そう推測したからこそ、およんだ冒険だったのだ(――ちなみにセレグレーシュが、笑顔にさらされても
友人が見つからない
そういった相手の態度に劇化する反発もあって、意を決
徹底して無視を決めこんだのだ。
苦情のひとつも言ってやりたかったのだが、相手にとり合う気がない以上、(たとえ捕まえることに成功したとしても)労力の無駄になるのは、少し考えればわかることで。
受けとめ
(そういえば、〝関わる気がなかった〟とか、言っていた気がする……)
そうしていることに飽きがくれば、また、勝手にいなくなったのかも知れない――そう思えば。
考えるほどに怒りもやるせなさも
その人を前にすれば《闇人》である事実など問題ではなく――どこに
とりあえず、とまどいの中に平静を維持できるていどには。
〔……考査のトラブルがなかったら、ずっと、そうしてるつもりだったのか?〕
〔そうかもな〕
〔納得した…(なんとなく、だけど)…〕
大人びているようでいても、その闇人……
もしかしたら、本人は自覚していないのかもしれないが……。
だから、しっかりして見えるのに、どこか危なっかしくて、なにか無茶していそうで、放っておけない。
それをもどかしく思うのも、いつまでも腹を立ててしまうのも、突き放されたように感じられる距離感が悲しくなるのも、さらには、さして力になれそうにない自身の力不足・甲斐性の無さが
〔正直、腹が立つけど、でも、おまえには、おまえの事情があるんだろうし……〕
〔われは…。…君に「ヴェル」としか告げなかった〕
穏便にやり過ごそうと努力していたところに思わぬ言葉を聞いたので、セレグレーシュは、ぱっと顔をあげた。
それと指摘されたようでもあり、こころなしかかたわらに聞いた
〔ぅんと……なに?
〔今日のことを言っているのではない。(あの時は……)やり返されたのかと思った…〕
〔やり返すって……なにを?〕
〔覚えていないなら、いい〕
〔よくない〕
うやむやにされることに抵抗をおぼえたセレグレーシュが反論すると、対する少年、アシュヴェルダは、こころもち声を低くして、自身が意図する部分(その一部)をうちあけた。
〔われは
たしかに、そうだった。
こちらから名乗った記憶がないのに、ヴェルダははじめから彼を〝セレグ〟と呼んだ。
いまさらながら、自分が出会ったときの事——〝初めを覚えてないだけかもしれない〟という考えが脳裏を
思案をめぐらせながらセレグレーシュは、そうしているあいだも地道に歩を
障害物が少なくないので、
〔オレ、自分を人間だと思ってるから、闇人や亜人ほど呼ばれ方にこだわり(は)ないよ。
――…べつに、おかしな呼ばれ方、したわけじゃないんだ。全然気にならないし、なにか、やり返すようなことじゃない〕
なにがどうだったというのか――
相手の発言からは、〝勝手に彼をセレグと呼んだから、こちらが反撃した〟〝やり返した〟みたいな印象をうけた。
無自覚なセレグレーシュには、自分のどういった行為が反抗と解釈されたのか――そこまでは
それでも。
〔この髪と目だから、亜人なのかもしれないけど……〕
セレグレーシュがぽつりと。こぼすように迷いを
〔その気になれば、君は、闇人の名を読み
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