勧誘者.4


(――…ヴェルダって、その辺にいるこっち生まれの個体やつとか、向こうから来た闇人とは、少し違うみたいだ……)


 じっとしていれば、命に関わらない……

 それでいながら、一度、たがが外れれば、その生体をこわしかねない不安定さ。

 収まっているようで、収まりきってもいない張力――


 そこに感じられる〝ゆらぎ〟は、それという個、全体に連鎖し協調し、統合されているようでありながら、非常なまでに躍動的で……。

 その少年自身の命脈・肉体の基質にまで影響をおよぼし、長短つけがたい変調をきたしている。


(これは環境条件と行動次第だな。天分・体質に癖が……ゆらぎ幅があって、長寿とも薄命ともつかない…。

 図書棟の司書シスさんも変わってるけど、彼もかなりだ…)


 人間としてはもちろんのこと、闇人にも過剰に思えるバランスをかたわらに見て思案していると、ふと、例の琥珀色の石の存在が、セレグレーシュの脳裏をよぎった。


〔なぁ…〕


〔なんだ〕


 そこに連想される条件を、あれやこれや照らし合わせてみると、やはり、なにやら不穏な予感がして…。


(そうだ。ヴェルダが彼で…。この彼が、あの石を持っていたのなら……)


 セレグレーシュは、これと思った事柄の真相を問いただしてみた。


〔あの石……。君の状態くらます助けになっても、負担。かせにもなったんじゃないか?〕


 すると外見が、より年若にみえる彼。稜威祇の少年アシュヴェルダが、はたとセレグレーシュを見すえた。


〔あれは…。あたりまえのように存在に干渉するけど、それだけに干渉されることを嫌う……というか、干渉かんしょうがたいものだろう?

 おうおうにり合って馴染み混じり合わないと、そんなのはきっと無理だから……

(ふつうは干渉しようにもそこまで深入りできずにくらまされて…――どこまでもかわされて、干渉しよう障ろうとする意欲まで緩和されそうだ。

 こんなは、まず叶わない……。生半可なバイタリティでは、あれに敵いそうにないから…。

 それを可能とした方法手段・状況・がどうだったのだとしても…。この彼を人間と思わせる方向に抑制しようとしてもちいることができたなら、たぶんそうだ。

 互いに影響をおよぼそうときそい、せめぎぎ合うなかに、もしかしたら……。

 あれに流されることなく、抵抗する抗える意志力・力量を具えていて、逆らったのなら。可能性として低くても、その状態……かみ合い次第では、部分的になじみ融けあうような変化が生まれたのかもしれないし…――

 めったには起こりそうにないことだけど。そんな関係にあったのなら――手放した後なんか、すごい反動……身を切り落とすような……四肢をねじりあげ切り落とす切断するような霊的な脈動が起きたんじゃないかな……?)〕


 表面的には、〝これ〟と明確に判別できる感情の表出も見せなかったいっぽうの彼。アシュヴェルダの金茶色の睫毛が、上から下、下から上へとゆれ動く。

 なかば視線を伏せながらも、かたわらにいるセレグレーシュの存在を強く意識して、なにか思案しているようだった。


〔まぁ、無事だったんだから、もう、どうでもいいけど〕


 さほどこだわることなく、すぐに思い直し。気楽に笑い飛ばしたセレグレーシュは、そうして、ふと、視界にある相手の頭髪に目を止めた。


 生えぎわから伸びているあたりはまっすぐ素直におりていながら、すべてではなく。表層部の部分部分の毛先(二センチほど)が、下りがちな弧をえがいている金茶色の髪。

 間近に見て、不思議な印象をおぼえることはあっても、その状態を意識して観察したのは、これがはじめだった……かも知れない。

 そんな気がしたセレグレーシュである。


 思いつきから腕を伸ばし、指先を突っ込んで、まさぐってみると、指にからまるその流れは、しっとり、さらさら、すべすべで、ほどよい弾力・しなやかさをそなえ、思っていた以上にやわらかだった。


 なでるというよりは、髪質を確かめるように指先にからめてまぜこぜしてると、そこに侮蔑ぶべつともとれる静かな抗議、詮索せんさくがなされた。


〔この手はなんだ?〕


〔うん。なんかさ、おまえの髪……。もっと明るい色で、こんな癖……なかった気がする〕


この癖これは…。こっちへ来てからついた〕


〔…そうかそっか。こっちって?〕


 ねつけないまでも、拒絶ともつかないしぐさで、質問者を流し見た……そんなアシュヴェルダの瞳に、疑念と理性が複雑にまざりあう思惟的な琥珀色の光が宿っている。


(変化したタイミングは、明確にはわからない……。

 あの闇に、あるいはについたものかも知れないし…。あの女人ひとの痕跡をたどって、成立した成ったのかも……。

 出たばかりの頃は、それどころではなくて…――いずれにせよ、こいつが知るはずのないことだ)


 思うばかりで、言葉にするつもりなどない考察こうさつ釈然しゃくぜんとしない感情想念が、問われた少年、アシュヴェルダの脳裏を走破する。


 答えがなされなかったので、セレグレーシュはセレグレーシュで自適に推理した。


(こっちって、ぞくに言う《闇》じゃなく、こっち側だよな。なんか抽象的霊的にぼかされて、ぴんと来ないけど……でも、了解安堵よかった…。

 うん…。こうして無事なら……。

 多少、動的でも、現在いまなんとかなっているのなら、それでいい)


 沈黙のなかに、セレグレーシュはにっこり笑顔になり、いっぽうのアシュヴェルダが、これという表情も見せずに考えをめぐらせていると、あらぬ方面から声が投げられた。


〔…。来ないのか? おまえが来ないなら、わたしは別のを捕まえにゆく〕


 前方先の方に渡されている小道に到達し、足を止めていた赤褐色の稜威祇いつぎが、彼らの方をふり返り見て、応答を待っている。

 セレグレーシュの注意がれ、その方面を向くと、アシュヴェルダの頭部に埋もれていた彼の指先が離れていった。


〔行くよ〕


〔よぅし! さっさと来い〕


 セレグレーシュが歩を踏み出して、

 アシュヴェルダが自前の視点より、わずかに高い位置にある青磁色の後頭部を意識しながら、その後に続く。


 なにかせないことでもあったのか。

 最後尾を行くその闇人少年が、正体の知れないおかしなものに化かされたような顔をしている……(する)と。

 さほども進まぬうちに肩越しにふり返り、彼がついてきていることを目で見てじかに確認した青磁色の髪の主セレグレーシュが、にんまりと。

 ご機嫌な笑みで、その顔面をいろどった。




 ▽▽ 場 外 ▽▽


 こちらまでお来しいただき、ありがとうございます。


 いささかじょうが濃いめ❔ 距離が遠いようで近いですが、このふたり、わだかまりが解け、和解朋友ほうゆう刎頸ふんけい金蘭きんらん(の友)方向です。


 👥🤝 よきかな友情 🤝👥🐎


 若さゆえのほほえましさでございます(成人しては、頼もしく、老いては、なおいっそう、ほほえましくあるものですけれども)。

 まだまだ障害は残されておりますが、それらをのり越え、なんとか静かに燃えあがってほしいものです❤️‍🔥 いや、ですから友情が、です。

 ふたりとも、まだ、あまり友人に恵まれておりませんので(特にアシュヴェルダの方)、目指せ、ぼっち脱出! なのです。


(セレグレーシュはこれと見ぬけば、細かいことにはこだわらなくなるのでは【別腹】思考するので、ぐずつく原因はおもにもういっぽうにあります。

 セレグレーシュに関していえば、わけありの生来の基質・素養による部分が大きいのですが、も加味すれば愛され大事にされていた期間の方が長いので、根っこが質朴かつ、まっすぐなのです。

 義父の対応も、情のあるものでしたし。

 普段はおとなしくひかえめに見えても、これという場面では我が強く、天真爛漫。慎重に見えて、うっかりしている抜けている部分があります――

 あらわしきれていなかったら、ごめんなさい。

 尽力はいたしますが、いまのところは、このレベルです💦)



🎀こちらまでいらしてくださった方々に感謝を込めて、ここでひとつネタばらし🎀


 以前、人称の変化を言及されたときアシュヴェルダが言っていた、セレス(セレグの前身)が彼にたずねたこととは……



 〝――もしかして、きみ……。自力で出て抜けてきた?〟



 です。

 出会ってから、さほどもない頃の発言で……

 こちら――セレグ方面で、【和玉①】における人称追究場面で、出してしまうかどうかを少し迷った部分です。


 どこからどこへ抜けて来たのかって……そりゃぁ、例の闇の空間から、こちらへです。

 闇人だろうと、人の身には不可能に近い行為だったりしますが、はたして、その真相はいかに? 

 今回、アシュヴェルダが、そのへんの事実をかすめそうな微妙な考察をしております。



 〝セレグ〟=〝セレス〟案件……匂わせながら、本文で明確にしきる前に、余談やサイドストーリーで明かしてしまい、たいへん失礼をしております(まずいなぁ、と思いつつも、やっちゃいまして、ございます ←妙なことばのくずし方して申し訳ないです。これはもう、性分です💦)。


 とうの本人~セレグレーシュ~は、まだ、ほとんど自覚できておりませんし、その来し方はもとより。なにがどうなって、どう再生したのかは、本文で示すまで秘密です。

 引手が複数あったので、主人公をこっちに切りはなす部分では、かなり頭を悩ませたのです(わたしの頭で叶うレベルですが、いちおうは)。

 まだ先ですが、いくつか案件こなした後、東の大陸遠征くんだり、予定しております(←これら手前のエピソードは、一部、そのメンバーの紹介兼ねているのです)。


 アシュヴェルダに関しても、早々、意外性のない方向に明かしましたが、作主にとって、そのへんは、いつまでも隠しておくべき案件ではなかったのです(そこに、殺伐とした裏切りや、どんでん返し的流れを組みこむ気もありませんでした/過去にも先にも、思惑はございますが……どこまでも、主人公の対応と、とりまく状況次第になってくる部分です)。


 長い余談、失礼いたしました。

 今後もお立ちよりいただけましたら、幸いにございます😊

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