第18話

「ねぇ、これなんてどう?いいと思わない?」


「何でもいいから早くしてくれないか。もうそれで何着目だよ」


 あれから橙佳に連れられて裕也はショッピングモールに来ていた。


 ここに来たからというものかれこれ1時間が経過し、その間ずっと橙佳の疑似ファッションショーのようなものを見せられている。


 これが可愛い女の子とのデートならどれほどよかっただようか。


 確かに橙佳の見た目は、見た目だけは美少女だ。しかし中身は他の女子と喋ったからという理由だけで殺しに来るただのサイコパスだ。


 裕也は永遠とも等しいこの時間に嫌気がさし、大きなため息を吐く。


「ちょっと離しなさいよ!」


 橙佳がまたしても更衣室に入り着替えをしている時、ボーッとしていた裕也の耳にどこかから揉め事のような声が聞こえてきた。


 特に理由はなく、何となくそちらを見てみる。


 そこには金髪の女の子が三人ほどのちょっとガラの悪そうな男どもに絡まれている場面だった。


 うわー、こんな場面実際にあるんだ。なんかすごいなアニメ見てるみたいだ。


 他人事のように裕也はそれを眺める。


 そう、もちろん他人事だ。裕也は決して助けに入るなんてことはしない。ただ何となくその物珍しい光景をボーッと眺めていた。


→「あんた達何やってんだよ、この子嫌がってるだろ」

→「すみません、その子俺の連れなんですけど何かありましたか?」


 裕也の目の前に二つの選択肢が現れる。


 あーもう本当に意味がわからん。なんで助ける前提なんだよ、俺は別に関わりたくないんだよ。この選択肢本当にふざけてるな。


 目の前の文字に憤慨していると一瞬女の子と目が合う。


 彼女は助けろという視線を送ってくる。


 クソ、結局どっちを選んでもあまり意味がないならより自分への被害が少ない方へ。


 そう考えながら裕也は重い腰を上げた。


「あんた達何やってんだよ、この子嫌がってるだろ」


 裕也は女子と男たちの間に割り込む。


 ここで俺の連れとは決して言わない。裕也もこれが罠であることは気づいている。


 どうせ「俺の連れです」とかって言った瞬間更衣室にいたはずの橙佳が背後に現れて「ゆうくんもしかしてその子の知り合いなの?私がいるのに他の女の子と遊んでるの?」なんて言って来るに決まってる。


 それなら最初から赤の他人ムーブで行った方がいい。


 正直俺がこんなやつをリアルで見つけたら困った女の子助かる俺かっこいいとか思ってるんだろうなーって冷ややかな視線を送る自信がある。


 ほら、今実際に目の前の男たちがそういう目をしてる。いや、ちょっとその目やめてくれないかな?俺だって別に好きでやってるわけじゃないからね、そもそもお前たちが悪いんだからね、俺の前でこんなことするから選択肢さんがウッキウキで反応しちゃったんだから。だか

頼むからそんな目で見ないでくれ。死ぬ、これ以上そんな目で見られたら恥ずかしさで死んじゃうから。


 裕也はそんな心の叫びをグッと堪えて男たちの正面に立つ。


 最初こそ変な目で見たいた男たちも裕也の顔を見るとミルミル気まずそうになっていく。


 どうやら裕也の顔を見たことで萎縮してしまったようだ。


 裕也の顔は客観的に見てかなり整っているらしい。自分だと正直よくわからないけどモデルや俳優に近い顔立ちと若干高い背のおかげで女子からはそこそこモテている。


 これだけ聞くと羨ましいと思うところだが実際やってくる女子たちは全員頭のイかれた連中ばかりだ。おまけに前世から陰キャな裕也にとってはこのスペックをまともに活かすことなんてできるわけがない。


 しかしこれだけ顔のいい男が目の前に割り込んだことでどうやら男たちは完全に萎縮したらしい。そのまま「もう行こうぜ」、「あぁそうだな」と言って去って行ってしまった。


 裕也は暴力沙汰にならずにすんで安堵した。


 今までの経験上選択肢のうち正解の方を引き当てれば割と何とかなるとはわかっていた。わかっていたとはいえ正直殴られることは覚悟していた。


 相手がまともで良かった。


 裕也は大きく息を吐いて女子の方へと振り返る。


「べ、別に助けて欲しいなんて言ってないんだけど」


 女子はそう言いながら指で髪の毛をくるくるといじっている。視線は斜め下を向いており、顔が少し赤くなっているのがわかる。


「いや助けて欲しそうにこっち見てたじゃん」


「あれはたまたまあんたがそっちにいただけで助けて欲しかったわけじゃないし」


 なんだこいつは人がせっかく助けてやったってのになんて態度だ。


 裕也は目の前の女子に若干腹を立てる。


 側から見ればどう見たってこの女の子は裕也に惚れているとわかる。しかし前世から女性経験のない裕也はそういった女子からの好意というものにかなり鈍い。そのため誰もがこの子ツンデレだなと思っているなか裕也だけはただただ他人の善意を貶す最低なやつという認識になってしまう。


 くっそ、嫌々とはいえせっかく助けてやったってのによ。


 裕也は斜め下を向いている女子を見る。


 なんかよく見るとどこかで見たことある顔だな、どこだったか…。そうだ思い出した。この顔一条さんに似てるんだ。なんていうかアレだな一条さんのギャルバージョンって感じがする。なんか色違いのポケ⚪︎ンを見つけたみたいな気分だな。


 ムカムカしていた気持ちに何だか珍しいものを見つけたような歓喜の気持ちが若干混じる。


「ゆうくんどこにいるのー?」


 その時、先ほど裕也がいた方向から橙佳の大きな声が聞こえてきた。


 やべ、そろそろ戻らないと。


「じゃこれで」


 裕也は最後に女の子に別れを告げるとそのまま足早に橙佳の元へと歩いて行ってしまった。


「あっ、しょうがないから連絡先だけでも…」


 彼女のそんな小さな呟きは裕也の背には届かず、ショッピングモールの騒がしさにかき消されてしまった。

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