第17話
ピンポーン
土曜日の朝、裕也の家の中にインターホンの音が響く。
裕也はその音で目が覚めたがそのままベッドの中へと潜り込んでしまう。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン
「あーもううるさいなー!」
何度もなり続けるインターホンに裕也はベッドから起き上がるとドタドタと足音を鳴らしながら階段を駆け降りる。
「たっく誰だよこんな朝っぱらから」
寝癖のついた頭をポリポリとかきながらリビングにあるモニターを確認する。
「げっ」
裕也はモニターを見て、目を大きな見開く。
そこにいたのはおしゃれをして、インターホンを覗き込みながら前髪をいじる橙佳の姿があった。
何で朝からこいつがいるんだよ。休みの日ぐらいゆっくりさせてくれって。あーもう居留守でもしようかな。
裕也がそんなことを考えながらモニターを凝視していると橙佳は待つことを諦めたのか画面外へと出ていってしまった。
諦めてくれたのかと安堵したのも束の間、突如として玄関の方からガチャリと鍵が空く音が聞こえてきた。
「えっ、うそだろ…」
裕也の呟きをかき消すように玄関の方から大きな声が聞こえてくる。
「ゆうくーん今からデートしよー」
裕也は慌てて玄関へと向かう。
「あっ、ゆうくん。おはよ♡今からデートしよ♡」
「…」
言葉が出ない。
なんで朝からこんなやつとデートしなければならないのだ。そもそもなんでこいつは家の鍵を持っているんだ。
「どうして家の鍵を持ってるの?」
「そんなのゆうくんの面倒をみてあげるために決まってるじゃん。将来の妻としてゆうくんの親がいない間は私がちゃんと家事とかもしてあげるんだから」
こいつは何を言っているんだ?頭おかしいんじゃないか?別に付き合ってるわけでもないんだから頼むから押しかけてくるなよ。
「それは大丈夫かなー。俺は別に面倒をみてもらわなくても一人で大丈夫だからさ、その鍵返してくれないかな?」
裕也は恐る恐る手を差し出す。
鍵を返せと言って橙佳が起こる可能性はある。それでも裕也の今後の安寧のためにはその鍵をすぐに奪い返す必要がある。
「えー、でも…」
「頼むから」
「わかったよ…」
橙佳は嫌そうに鍵を大事に握っていたが観念したのか渋々鍵を裕也に手渡した。
「ありがと、橙佳が素直で嬉しいよ」
裕也は頑張って作り笑いをする。
橙佳はそんな裕也の顔を見てポッと頬を赤く染める。
「じゃあこの鍵は俺の部屋にでもしまって…」
裕也は鍵を見て言いかけていた言葉が止まる。
その鍵はどこからどう見ても裕也の家の鍵とは異なる形をしている。
「これ何の鍵だ?」
「えっとね…」
橙佳はまじまじしながら答えてくれる。
「私の家の鍵」
「は?」
「これでいつでも私の家に来てもいいからね♡」
裕也は固まり鍵を床に落とす。
裕也は理解する。 この女は鍵を渡すつもりなどないのだと。そして決心する。
明日、玄関の鍵変えよ。
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