第15話
裕也は気がつくと屋上の隅で座っていた。
手には焼きそばパンが握られ、口の中には先ほどまで食べていた焼きそばパンの味が口いっぱいに広がっている。
なにが起きた?まさかまた戻ったのか?どうして?選択肢を間違えたから?
現状が理解できず混乱していると屋上の扉ががチャリと開く。
そこにいたのはやはり先ほどの少女だ。
顔の左半分は腫れ、目は虚ろ。服の隙間から見える腕や足には何ヶ所にもあざができている。
裕也はその少女を見て安堵の息が漏れる。
いくら自分とは関係のない人間だからといって目の前で死なれるのは少し心に来るものがあった。
少女は先ほど同様裕也の姿に気づくが、こちらを見向きもせず手すりの方へと歩いて行く。
それからしばらくの間が空いたが少女は先ほどと同じ質問を裕也にしてくる。
「先輩は私のことどう思いますか?」
裕也はしばらく沈黙する。
「先輩は私のこと好きですか?」
裕也は最初この子は自分に自信があるのか思っていたが実際は逆だった。自分に自信がないからこそ生きる理由が欲しくてこのような質問をしてきたのだ。
→「もちろん好きだよ。今初めて見た瞬間から俺は君に惚れている」
→「いや、別に好きではないけど。俺たち初対面だよね?」
先ほどと同じ選択肢が現れる。
さっきは下を選んだけどこれって上を選ばなきゃダメってことだよな。やだなー、これ絶対ろくな目に合わないんだよな。
今までの経験から裕也は少女がどのような存在なのか気づいている。
そう、彼女もこのゲームのヒロインの一人なのだ。そしてこのゲームのヒロインは全員頭がいかれたやつしかいないことは裕也もすでにわかっている。
でも下を選んでもまたループするだけなんだよな。
「もちろん好きだよ。今初めて見た瞬間から俺は君に惚れている」
裕也は表情だけでも抵抗するように苦々しい顔で答える。
少女はその答えに驚き、裕也の姿を真正面からとらえる。
目からは大粒の涙がポロポロと溢れている。
「本当に、本当に私のことが好きなんですか?」
「えっ、あー、うんほんとほんと」
あまりにも少女が嬉しそうだったために目を合わせることができなくて視線を逸らしてしまう。
「どの辺が好きなんですか?」
「んーっと、目とかかな?」
「今まで散々不愉快な視線だって、見られるだけで気持ちが悪いって言われてきたのに…」
やべ、地雷だったか。
「凄く嬉しいです…」
あれ?大丈夫そうか?
少女はゆっくりとこちらに近づいてきて裕也の手を握る。
「つまり私たちは今日から付き合うってことでいいですよね?」
やっぱりこうなるかー。
「いや、俺たち互いの名前も知らないんだしまずはお友達からでお願いします」
「そうですよね、まずは自己紹介からですよね。私の名前は
「えっと、神木裕也です」
「裕也先輩って言うんですね。互いの名前もわかったことですし、これで私たちもう彼氏彼女ですよね?」
「それはまだちょっと早いかもなー。ほら好きなものとか趣味とかも知らないしさもっと互いのことを知ってからじゃない?」
「わかりました」
「うんうん、わかってくれて嬉しいよ。だからもう手を離してくれると…」
「12月6日生まれ、血液型はA型、好きな食べ物は先輩が作ってくれたものならなんでも、趣味は先輩と一緒に映画を観ること…」
おっと?この子は何を言ってるのかな?呪文かな?なにかの呪文でも唱えてるのかな?
その後も淡々と紫織は話しを続けていた。
その間、裕也は必死に手を離そうとするが思いのほか握る力が強かったために昼休憩終わりの鐘がなるまで永遠と話しを聞かされていた。
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