第13話
「さぁ、召し上がってください」
裕也の目の前に出されたご飯はどれもおいしそうなものだった。
肉じゃがに唐揚げ、味噌汁などどれもまだ作りたてのためか湯気を出している。
「い、いただきます」
「どうですか?お口にあいましたか?」
「あ、はい、すごくおいしいです」
「そうですか、それはよかったです」
朱音は嬉しそうに微笑む。
そんなことよりもさっきの光景が頭から離れないせいか味なんてよくわからない。
さっきまであの笑顔が可愛くてついこちらまで嬉しくなるようなそんな感じがしていたのに今では不気味で恐怖しか感じない。
ずっと好きだったはずなのに今はもうそんな気持ちなどどこかにいってしまった。
まさか一条さんがあんな人だなんて…。いったいあの写真いつ撮られたんだろ、全部学校のっぽかったしもしかしてずっと盗撮されてたのかな。
チラリと朱音の顔を見る。
目が合うと朱音は首をちょこんと傾けたまま笑ってくれる。
裕也はその笑顔を見るとすぐさま視線を目の前にある食事へと戻す。
そうか、忘れてたこの世界はあのゲームの世界なんだ。俺はやったことないからどんなキャラクターがいるか知らないけどこんなだけ美人ならそりゃヒロインの一人に決まってるよな。そしてこのゲームのヒロインは全員…。
橙佳だけでも充分すぎるほど大変な目にあっているというのにこれ以上増えられたと思うと裕也の顔色は徐々に悪くなっていく。
「神木さん」
「はい!」
いきなり名前を呼ばれてつい大きな声が出てしまった。
「あの、もしよろしければなんですけど…」
朱音は少し恥ずかしそうにしている。
なんでそんなにためるんだよ、早く言ってくれよ。いや、やっぱ何も言わないでくれ頼むからもう喋らないでくれ。
「裕也さんとそう呼んでもいいですか?」
裕也は想像していたこととは違ったために少し安堵する。
それくらいなら別にいいか?いや、まてよこれが原因でまた橙佳に殺されたりしないよな?
「どうして他の女の子と仲良くなってるの?」とかいって包丁持ってる姿がありありと浮かぶ。
「えーっと」
「もしかして嫌でしたか?そうですよね、私みたいなのに名前を呼ばれるなんて迷惑ですよね」
朱音は少し肩を落とし、机の上にあったボールペンを強く右手で握りしめた。
「そ、そんなことないですよ。是非裕也と呼んでください」
裕也は決して可哀想だからなんて理由で了承したわけではない。
彼はいつだって自分第一なのだ。ここで断ればボールペンで何かされると瞬時に理解し、自分の身を守るために了承しただけにすぎないのだ。
「本当ですか!?私、裕也さんとは仲良くしたいとずっと思ってたんです」
朱音は握っていたボールペンをそのまま机の上に戻した。
「あはははは、俺もですよ…」
裕也の視線は置かれたボールペンを見ていた。
◇◆◇◆
裕也が帰った後朱音は一人食器を片付けていた。
「これが裕也さんの使った箸」
朱音は箸を上に持ち上げるとそれをうっとりと見つめる。
「これも飾っておかなくちゃ」
朱音は箸と少し大きめの紙を持ったまま自分の部屋へと向かう。
部屋の電気をつけるとそこには壁一面に貼られた写真たちがお出迎えしてくれる。
朱音はそんな写真たちには目もくれず机に向かうと写真立ての横に箸を飾る。
「これで新しいコレクションが増えましたね」
「ふふふ」と上品に笑う。
「あら?少し動いてますね、これはもしかして…」
朱音の目が笑顔のまま細く鋭いものへと変わる。
「裕也さんもなかなか無邪気な方ですね。まぁそういうところが可愛いのですが」
朱音は大きな紙をそのまま壁の空いているスペースに貼り付ける。
それは顔を真っ赤にして照れた顔を一生懸命隠そうとしているしている裕也の写真だった。
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