第11話
今日の授業も終わり、裕也は帰路についていた。
学校では橙佳から話しかけてくることはないが授業中や休み時間、お昼休憩のとかなんかはすごく見てくるのか視線をズキズキと感じるため集中することができないし落ち着かない。
それでも話しかけてこようとしないのは彼女の周囲にはいつも誰かがいるからだろう。
裕也の前ではヤンデレ部分をオープンにしているが人前ではなぜかそれを隠そうとしている。
裕也は今日も平和に学校生活を終えたことに安堵し、ポケットに手を入れる。
「あれ?あれ?おかしいな?」
裕也はポケットにスマホがないことに気づくとカバンの中を漁ったり、別のポケットを確認する。
しかしどこにもスマホはなく裕也は取り乱してしまう。
現代においてスマホがないとは致命的だ。裕也は別にスマホ依存症というわけではないが暇があればよくスマホをいじって時間を潰している。
「まじか、もしかして教室に置いてきたのか」
今裕也がいる場所は家と学校のだいたい中間地点だ。
今から学校に戻ろうと思うと家に着く頃には完全に日が落ちて辺りは暗くなってしまう。
それでも裕也は何の迷うことなく学校へと走り始めた。
これが宿題なんかであれば「明日早く学校に来てやればいいや」なんて思っていたところだがスマホとなっては話が別だ。
スマホとはそれだけ現代の若者にとって必需品なのだ。
◇◆◇◆
「おっ、あったあった」
裕也は教室まで戻ると自分の机の中からスマホを取り出す。
スマホで時間を確認するとすでに5時半をすぎていたために外は徐々に赤くなり始めている。
「家着く頃にはもう6時半か…」
裕也は小さなため息を吐くとポケットにスマホを入れて廊下に出ようと扉を開ける。
「うわっ」
「キャッ」
扉を開けるとそこには一人の少女が教室に入ろうと扉の前に来たタイミングだったために二人はそのままぶつかってしまう。
裕也は何とかバランスをとれたものの少女の方はどうやらこけてしまったらしい。
「いたたたた」
「ごめん、大丈夫だった?」
裕也は急いでその場に尻もちをついた少女へと手を伸ばし、途中でその手が止まる。
「一条さん?」
「あれ?神木くん?」
目の前に尻もちをついている少女、それは裕也が好きな相手一条朱音だった。
「どうして一条さんがいるんですか?」
「神木くんこそまだ教室に残って何してたんですか?」
「えっと、忘れ物をしちゃって取りに戻ってきたんです」
裕也は朱音が未だ尻もちをついたまま見上げるようにしている大勢であることに気づくと止めていた手をそのまま伸ばす。
「ありがとうございます」
朱音は裕也が伸ばした手を掴むとそのまま立ち上がり、お尻をパンパンと埃を落とすように叩く。
「私は先生に頼まれごとをされてたんです」
「そうだったんですか」
裕也の話し方はぎこちない。
一条朱音は佐藤翔にとって初恋の相手だ。
前世では女性と全く縁がなかったために恋というものを知らないまま死んでしまった。そのため今目の前に好きな子がいるという現状どう接すればいいのかわからないのだ。
「神木くんはもう帰るんですか?」
「あ、はい。忘れ物も取ったのでもう帰ろうかと」
「いいですね、私はまだやることがあるのでしばらく帰れそうにないです」
朱音は少ししょんぼりした顔をする。
「一条さんもそんな顔するんですね」
「私だって人間ですからね。皆んなは私のことを完璧超人なんていいますけど実際は少し容量がいいだけのただの女の子なんですよ」
朱音は口元を抑えるように上品に笑う。
「それじゃあ私はもう行きますね」
朱音は教室に入り、机の横に掛けてあった鞄を取る。
→「よかったら俺も手伝おうか?」と言い一条朱音についていく。
→「また明日」と言いそのまま家に帰る。
そんな朱音の姿を目で追いかけていると再び二つの選択肢が現れる。
これがもし目の前にいた相手が橙佳だったらすぐさま家に帰る方を選択していただろう。しかし今目の前にいるのはあの一条朱音だ。
裕也にとっては好きな相手であり、本当であれば付き合っていた相手だ。
そんな彼女に対してこのまま置いていくなんて選択しは裕也の中にはない。
「よかったら俺も手伝おうか?」
「えっ、いいんですか?」
「もう時期外も暗くなるし、邪魔じゃなければだけど」
「ありがとうございます。それじゃあお願いしてもいいですか」
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