第7話

 裕也は気がつくと再び校舎裏に戻っていた。そして今目の前には一条朱音の姿がある。


 そして朱音以外にも目の前には以前も見たものと同じ文字列が浮かんでいる。


→「好きです付き合ってください」

→「ごめん、やっぱりなんでもない」


 ここで裕也は確信した。


 やはりこの1週間がループしてるんだ。どうやったらこのループを抜け出せる?いや、答えはもうわかっているだろ。


「ごめん、やっぱりなんでもない」


 裕也はそう言うポカンと呆気に取られている朱音を置いてそそくさとその場から離れて行ってしまった。


「おかしいな、てっきり告白されると思ったのに。もしかして私以外に好きな人でもできたのかな…だとしたら許せない、私の神木くんを奪おうとするなんて…。あぁ、走る後ろ姿もかわいいな。可愛くて、愛おしくて、優しくて、愛らしい。神木くん私はいつまでも待ってるからね♡」


 一人が残されたその空間で朱音は離れていく裕也の後ろ姿を見えなくなった後もじっと眺めていた。


◇◆◇◆



「大丈夫これでいいはずだ。これでこのループも終わるはずだ」


 裕也は自分に言い聞かせるようにしながら帰路についていた。


「正直なんでループしてるかは知らないけど原因はきっとあの文字だ。俺がループした時は2回とも『好きです付き合ってください』の方を選んだ。それなら今度は『ごめん、やっぱりなんでもない』の方を選べばこのループは終わるはずだ」


 いや、本当どういうことだよ。


 裕也は自分の頭の中で一つ一つ整理しても未だこのわけのわからないこの現象には理解が追いついていない。


「何回も何回も同じ時間をループしてこれじゃあまるでゲームじゃないか」


 それは些細な発言だった。なんの根拠もないし何気なくそう感じただけだ。しかし裕也はその自分の何気ない発言に違和感を覚える。


「ゲーム?そうだこれじゃあまるでゲームだ。2択の選択肢を選んで運命が変わるゲーム…」


 「ゲーム」その単語に閃いた時裕也の頭の中に様々な疑問が飛び交い始める。


「そもそも俺の名前って神木裕也だったか?いや違う、俺の名前は佐藤さとう かけるだ。あれ?じゃあ何で今の俺は神木裕也なんだ?それに俺が通っていた高校って男子校だったよな?」


 徐々に思い出してきた記憶。それはどれも神木裕也のものではなく、佐藤翔として生きていたときの記憶。


◇◆◇◆



「なぁ、翔このゲームやってみろよ」


「何だよいきなり。俺はゲームなんてしないぞ」


「そういうなよ。このゲーム結構面白いんだって」


 翔はそう友人に勧められとある一本のゲームを手渡される。


「なんだこれ?もしかしてギャルゲーってやつか?なんでギャルゲーなんて勧めるんだよ。普通こういうのってFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)とかじゃないのかよ。俺は女子とかあんま得意じゃないぞ」


「ばーかお前ゲーム下手くそじゃん。そんなやつにFPSとか勧めるかよ。それだったらこういうPS(プレイヤースキル)のいらないゲームの方が絶対楽しめるって。それにお前女の子と話すの苦手なんだからこれで少しでも慣れておかないと一生彼女できないぞ」


「んー」


 確かにそれは困る。正直彼女いない歴=年齢の現在誰でもいいから彼女が欲しいという欲求にかられてきてはいる。


「大丈夫だってこのゲームそこらのギャルゲーと違ってめっちゃ面白いから。選択肢があるんだけどそれをミスるとヒロインが殺しにくるんだよ。そしてそのヒロインから死に物狂いで逃げる。な?面白いだろ?」


「それなんてホラゲーだよ。ヒロイン狂気じみすぎだろ。俺そんな女の子嫌なんだが?」


「いいからやってみろって。どうせお前いつも暇だ暇だって言ったんだから」


「えー」


◇◆◇◆


「はー、結局買ってしまった」


 翔はカバンの隙間から見える買ったばかりのゲームを見てため息を吐く。


「まぁ、せっかく買ったからには家に帰ってからやってみるか」


 そうして翔はいつも通り家に帰ろうと一人歩いていた。


「おい!危ないぞ!早く逃げろ!」


「そこの少年早く逃げるんだ!」


 何だか今日はやけに周りが騒がしいな。この辺で祭りでもやってるのか?


「少年!早く!」


「え?」


 翔が周囲の雑音をようやく言葉として理解した時にはもう遅かった。


 翔は目の前の自分に向かってくるトラックを見て唖然となってしまった。


 トラックの運転手は眠っているのか下を向いたままだ。


 まさか自分がこんな目に遭うなんて想像すらしていなかった。アニメや漫画なんかでトラックが突っ込んできて異世界転生するなんてやってた時は「これぐらい避けろよな」なんて思ってたけど、実際自分がその立場に立つと驚きのあまり足が動かなかったのだ。


 別にトラックが突っ込んできて怖いとかってわけではない。ただただ驚いているのだ。まさか自分がこんな漫画みたいなことに巻き込まれるなんて。


 ガシャン!!


「おい!大丈夫か!?誰か早く救急車を呼べ!子どもがトラックに轢かれたぞ!」


 こうして佐藤翔はその生涯に幕を閉じた。

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