第3話
橙佳が転校してきてから3日が経過した。この3日間とくに橙佳から何かしてくることもなく俺も自分から話しかけるようなことはしなかった。
もしかしたら橙佳は俺のことなんて忘れてるのかもしれない。
そう思っていたが授業中一度だけ橙佳のことを肩越しにこっそり見たことがあった。
そして俺はそんな行動をとったことをすぐさま後悔した。
裕也の視界に映ったのは真っ直ぐこちらを見つめてくる橙佳の姿だった。
その瞳には光が一切なく、見ているもの全てを吸い込むような暗く濁った目をしていた。
裕也はその姿を見てすぐさま前へと顔を元に戻した。
やばいやばいやばいやばいなんか凄い目で見られてる。てか今目が合った気がする。気のせいだよな?気のせいだと言ってくれ!あれ絶対怒ってるよ。仕方ないじゃそんな昔のこと覚えてなかったんだもん。しかもそんな小さい子どもがした約束なんて普通本気だなんて思わないだろ。
裕也は自分に言い訳をし始める。
せっかく人生初めての彼女ができたばかりだというのに裕也の行く末はお先真っ暗になってしまった。
◇◆◇◆
そんな騒動がありつつも今日の裕也は上機嫌。なにしろ明日は土曜日なのだ。そう、ただの土曜ではない。明日はついに念願だった一条さんとの初デート日なのだ。
学校ではお互いに付き合っていることを内緒にしようと約束したためなかなか二人で話すことはできなかった。しかし告白した日に連絡先を交換していたために一条さんの方から「今週末の土曜日良かったら一緒にお出かけしませんか?」というお誘いを頂いていたのだ。
もちろん返事はすぐさま了承の返事をし、学校ではその嬉しさのあまり常時ニヤついた顔をしていた。
その顔を見て「お前ちょっとキモイぞ」なんて龍馬に言われたがそんなことどうだっていい。なにしろ明日は一条さんとデート。裕也は学校にいる間もそして家に帰る途中の今も明日のことしか考えられなかった。
明日はどこに行こうか。映画館もいいが水族館も捨て難い。純粋に二人で買い物なんてのもいいな。
そんなことを思いつつ裕也は家の前まだ着くとポケットから鍵を取り出す。
そして鍵をさしこんだ時いつもとは違う違和感に気づく。
「あれ?鍵が空いてる?」
鍵を差し回してみてもいつものような鍵のかかっている感覚がしないのだ。
裕也はゆっくりとドアノブに手をかける。
頼むから開かないでくれと願う裕也の思いは打ち砕かれ、玄関の扉はなんの抵抗もなくそのまま大きく口を開けるように開く。
裕也の両親は現在海外に出張している。そのため兄弟のいない一人っ子の裕也はこの家に一人で住んでいることになる。
「俺朝鍵締め忘れたのかな?朝から浮かれたもんなー。全く俺としたことがドジなところもあるもんだぜ。あはは…」
裕也は必死に考えないようにする。
もしかしたらこの家に誰かが入り込んだのかもしれない。
「いやいやこの家に盗みに入るほどいいものなんて置いてないし…」
自分を落ち着かせるように何度も何度も自分に言い聞かせるようにして大きな独り言が出る。
恐る恐る玄関から中を覗く。そこはいつも普通に住んでいる家のはずなのにやけに暗く、不気味に感じてしまう。
「嫌なことばかり考えるからそう思うんだ。ここはいつもの俺の家。俺以外誰も住んでないし、誰かがいるわけない。今日はたまたま鍵を締め忘れただけ」
裕也は靴を脱ぎいつも通り自分の部屋に向かう。
一歩歩くたびに普段から気にならないフローリングがギィ、ギィと音を鳴らすがやけに大きく感じ、音を立てるたびに心臓の鼓動が早くなっていく。
玄関から入り目の前にある階段を上がってすぐ目の前にあるはずの自分の部屋がやけに遠く感じてしまう。
この家ここまで大きかったっけ?
なんて考えながらもようやく自分の部屋の目の前に着く。
別にこの部屋に入れば安全とかそういうわけではない。しかし今の裕也は自分の部屋に入ればこの家には誰もいないことが証明される。なんて何の根拠もない身勝手な妄想をしている。
震える手を扉に掛かる。
二回ほど大きく深呼吸をした後、裕也はドアノブを持つ手に力を入れ、目を瞑った状態で勢いよく扉を開ける。
裕也は片目ずつゆっくりと目を開ける。
そしてその視界に入ってきたのはなんの変哲もない自分の部屋だった。
誰かがいるわけでもなければ、荒らされたような形跡もない。ベッドは朝起きた状態のままになっており、机の上には昨日の読みかけだったマンガが何冊か積まれている。
「そうだよな、良かった良かっt…」
「何が良かったの?」
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