第2話

「初めまして。今日からこのクラスに転校して来ました雛鶴ひなつる 橙佳とうかです。ここには8年ほど前に引っ越して戻って来た形になります。皆さんよろしくお願いします」


 橙佳の姿を見てクラス中が一斉に固まる。


 橙佳の見た目は元気っ子といった感じで明るく、向日葵のような笑顔で挨拶している。その顔は美人というよりも可愛い系の顔立ちをしておりなんだか守ってあげたくなるような庇護欲がでてくる。


「えー、雛鶴さんはまだこの学校に来たばかりですので皆さんわからないことがあったら教えてあげてくださいね。それじゃあ席はー、あそこの窓側の一番後ろの席が空いてるからそこでお願いします」


「はい」


 橙佳は大きく元気よく返事をすると先生に言われた席に着く。皆の視線は歩く橙佳へと向けられる。


 その後先生の話は続いていたがその話を聞いている生徒は誰一人としていなかった。


◇◆◇◆



「ねぇ、ねぇ、どこから来たの?」


 ホームルームが終わるなり橙佳はすぐさま女子たちに囲まれてしまい質問攻めを受けていた。


 男子たちもその輪に入りたかったもののあまりの女子の気迫と橙佳の可愛さに直接話しかける勇気がある者はいなかった。


「えっと、東京の方から…」


「昔この辺に住んでたって言ってたけどどうして引っ越したりしたの?」


「親の都合で…」


「彼氏とかいるの?」


「か、彼氏なんてそんな…一度もいたことありませんよ…」


 その言葉を聞きクラス中にいた全ての男子生徒が歓喜の雄叫びを上げる。


「うるさい男子!それじゃあ好きな人とかは?」


「えっとそのー…」


 橙佳はもじもじし始めると徐々に顔が赤くなっていく。


「うそ!いるの?どんな子どんな子?」


 その言葉を聞いて今度は落胆し、その場に項垂れる者たちが続出した。


「お、幼馴染みの男の子で引っ越しするまでずっと仲良くしてくれて将来は結婚しようねって約束なんかして…」


「キャー何それちょーいいじゃん。それじゃあその男の子とはもう会えたの?」


「うん、本当は今週末にでも家にいって驚かせようと思ってたんだけど偶然会っちゃって」


「何それもう運命じゃん」


 女子たちが盛り上がる中、廊下側の席に座る裕也の方にチラリと橙佳が視線を送る。


「なぁ、見たか今の?橙佳ちゃん今俺の方見たような?完全に目があったは。もしかして雛鶴ちゃん俺のこと好きになっちゃったのかな?」


 龍馬は嬉しそうに裕也に話しかけるが裕也は未だ橙佳の方を見てポカリと口を開けたまま動いていない。


「なぁ、おい聞いてるのか?」


 龍馬が裕也の体を左右に揺らしたことでようやく裕也は我に帰る。


「なんの話だっけ?」


「だから、今橙佳ちゃんが俺のことを見てたって話だよ。本当に聞いてなかったのか?」


「えっ?あー、いや気のせいだろ」


 なんとも歯切れの悪いその態度に龍馬は怪訝な顔をする。


「まさかお前惚れたんじゃないだろうな?」


「バカ!そんなわけあるか!」


「ちょっ、そんな怒んなよ。冗談だって冗談」


 橙佳の言っていた結婚を約束した幼馴染みそれは俺のことだ。


 そんなこと今の今まで忘れていたというのに彼女の姿を見た途端突如として思い出してきた記憶。


 やばい、そんな約束してたことなんてすっかり忘れてた。どうしよう、8年も待ってた相手にいざ会ってみたら彼女ができてましたなんて知られたら…。

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