どうやらヒロイン全員がヤンデレのギャルゲーの主人公に転生したみたいです。選択肢を間違えただけで殺そうとしてくるヒロインたちからどうすれば逃げ切れますか?

無色

第1話

「す、好きです!付き合ってください!」


 学校の校舎裏。俺はとある少女を目の前にして腰を90度におって右手を前に差し伸ばしていた。緊張しすぎて言葉を噛んでしまったし、声も裏返ってしまった。その恥ずかしさのあまり俺は相手の顔を見ることができない。


 俺の名前は神木かみき 裕也ゆうや。高校二年生になったばかりの春、初めて出会った彼女に俺は一目惚れをした。そして俺はその想いを伝えるべく勢いのまま放課後彼女を校舎裏まで呼んだのだ。


 彼女の名前は一条いちじょう 朱音あかね。この病蔵やみくら高校のアイドルの一人にして学年全員の憧れ。



 赤く腰まで伸ばした髪は艶やかで光沢があり、優美で知性をも兼ね備えた彼女は病蔵の清楚と呼ばれ、一言で表すなら大和撫子のような人物だ。


 そんな彼女に恋する男は多い。毎日のように告白を受け、その全ての男たちが玉砕したと噂されている。そして裕也も今その一人になろうとしている。


 心臓の鼓動がやけにうるさく、徐々に早くなっていく。それはここまで大きな音だと彼女にも聞こえているんじゃないかと感じてしまうほどだ。


 左手は強く握りしめているせいか手汗がドバドバと出てくる。右手は震え始め、徐々にこの空気が怖くなっていく。


 頼むから早く返事をくれ。もういっそ振られたっていい。だから早くこの時間を終わらせてくれ!


 緊張しすぎるあまり胃がキリキリと痛くなってくる。まさか告白するだけでここまで精神にくるなんて想像してなかった。勢いのまま告白しようとか考えていたあの時の俺を思いっきりぶん殴ってやりたい気分だ。もう頼むから早く返事をしてくれ!


 その願いが届いたのか朱音が言葉を出そうと息を吸う音が聞こえてくる。


「はい、よろしくお願いします」


「へ?」


 思いもよらぬその返事に変な声が出た。朱音は俺の右手を両手で包むように握ると嬉しそうに笑う。


 この時の裕也の心情は嬉しいよりも困惑の方が近かったかもしれない。


 どうして彼女が告白をおっけーしてくれたかはわからないけど。ただ覚えているのは風に乗せられるようにして漂ってくる優しい彼女の匂いだけだった。


◇◆◇◆



 告白の返事を貰い、人生初めての彼女ができた次の日。裕也は朝から上機嫌のまま教室に入り自分の席へと着く。


「朝から機嫌いいな」


 裕也が席に着くなり後ろから声をかけてくる人物がいた。彼の名前は岸田きしだ 龍馬りょうま。裕也の数少ない友人にして唯一無二の親友だ。


 龍馬とは去年入学式で出会いそのまま意気投合。そこからずるずるといくようにして今に至る感じだ。


 今思えばどうしてこいつが親友なのかはよくわからない。思い出らしい思い出もないし、そこまで話した記憶もあまりない気がする。それでも俺はこいつを親友だとそう認識している。それはきっとあっちも同じだろ。


「実はな少し、いやかなりいいことがあってな」


 裕也は聞いてほしいと言わんばかりに龍馬に言うと鼻の下を擦る。


「それで何があったんだよ」


「それは龍馬にも言えないなー」


「んだよ聞いて欲しそうにしてたくせにとっとと教えろっての」


「ちょ、いたいってそうぐりぐりするなよ」


 龍馬は裕也の頭を傍に抱えると反対の手で頭を軽くグリグリする。


「実はな教えたくても教えられないんだよ」


 そう、本来であれば彼女ができたことを皆んなに言いふらしたいのだがそれはできない。なぜなら彼女の方から「付き合っていることは皆に黙ってて欲しい」とお願いされているからだ。


 そのため人生初めて彼女ができたというのにそれを誰にも自慢することのできないもどかしさが裕也の心を悶々と締め付ける。


「さてはお前昨日の告白が成功したんだろ」


「は!?なんでお前そのこと知ってんだよ!」


 驚きのあまり声が多少大きくなってしまう。裕也は慌てて自分の口を手で塞ぐと今度は口元を龍馬の耳に近づけるようにして小声で喋り始める。


「なんでお前が俺が告白したこと知ってんだよ」


「実はな、昨日お前が校舎裏に行く姿が見えたからこっそり後をつけたんだよ。そしたらあの一条朱音がいるじゃないか。その瞬間俺はこれが告白だとわかったわけだよ。その後俺は振られたお前を慰めるべくすぐさまその場を後にしてジュースでもやろうと思って買いに行って戻ってきたときにはすでに二人の姿はなかったんだ。俺はてっきりこっぴどく振られすぎてもう学校にも来ないんじゃないかと思ったがその態度を見るに告白成功したんだろ?なぁ、教えろどうやってあんな美人落としたんだ?」


「それが俺にもわからないんだよ。てっきり振られるもんだと思ってたらいきなりおっけーされたからな。正直俺が一番この現実を受け入れられてないと思うぞ」


「もしかしてからかわれてるとかじゃないのか?」


「お前一条さんがそんなことする人だと思うのかよ」


「それもそうか。いいなー、俺もあんな美人でおっぱいの大きい清楚な彼女が欲しいぜ」


「おまっ」


 自分の彼女を変なまだ見られているような気がして少し頭にきた裕也はその場に立ちあがろうとしたが龍馬の話しがそのまま続いたことで推し黙る。


「そういや聞いたかよあの話」


「どの話だよ」


「転校生だよ、転校生。なんでも今日新しい転校生がうちのクラスに来るんだとよ。噂だとものすげー美人らしいぜ。なぁ、一条ちゃんとどっちが美人かな?」


「ばか、一条さんに決まってるだろ。あんな美人な人そうそういるわけないんだから」


「それもそうか」


 会話にひと段落着いた時それを待ってましたと言わんばかりに朝のホームルームの鐘が鳴る。


 それと同時に教室の前の扉から担任の先生が入ってくるとそのまま話し始める。


「皆さんおはようございます。今日からこのクラスに新しい仲間が増えることになりました。それじゃあ入ってきて」


 先生が廊下の方に向かって手招きすると先ほどと同じ扉が開く。そしてそこから入ってくる人物を見て裕也は口をポカリと開けたまま固まってしまった。

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