第2話 教会の遺跡

突然だけど、昔は「そうるらいく」と呼ばれるゲームがあったらしい。


とある友人が言った。「そうるらいく」には、暗く荒れ果てた世界観がよくある。僕たちの世界みたい。


限られたリソース、油断できないマップデザイン、伝説みたいに強い敵。


そして、山のように積み上がる死。


「そうるらいく」の核と言えば、絶え間ない死と繰り返しの挑戦らしい。


理不尽な要素が様々な方法で主人公の死因を作り出している。毒殺、呪い、奇襲、罠、ボスの様々な初見殺し。


全ては、まるで嫌な現実のように、物語の主人公という火の粉を消し去ろうとしている。


でも、その火の粉はいつも灰から復活する。


僕の場合、声の呼びかけで目を覚ます。


「起きて、アオイちゃん。」


カガリの優しい声で目を開ける。


口の中は血の味がいっぱい。周りを見渡すと、簡易的なキャンプ場と中央の「声の花」が目に入る。どうやら、少し前に訪れた教会に戻っているらしい。


周りはもう暗い。夜になっている。声の花の周りを漂う光点は、星のようだ。


身の回りの装備をチェックする。状態は全て良好。斬られたはずの体も元通りで、マントも無傷だ。声の花の横から立ち上がり、体を動かしてみる。ジャンプも走りも剣を振るのも、違和感はない。


なんで致命的な傷を受けたはずなのに、今は元気に動けるのか、僕にも分からない。


カガリによると、僕のような女の子は「声に祝福された者バトルデイジー」と呼ぶそうだ。


バトルデイジーが、かつて「賢者」と呼ばれた傳說の魔法少女が作った、人工魔法少女の名前。


声の祝福を受けた女の子は、次々に声を聞く。それぞれの声はどこかの誰かから来ているらしい。祝福を受けた者は不死性を得て、囁きの声が尽きるまで倒れない。


この囁きが本当に祝福かどうかは、僕にも分からない。


そして、この声の花というのは、人々が未知を探索する祈りを集めて、地上に生まれた小さな花だと言われている。


光点に囲まれた小花は、声たちの集まり場所。戦いで全てを失ったバトルデイジーは、最後に休んだ花の傍で目覚めることができる。そして、数はまちまちだが、新たな声を纏う。


目の前の輝く声の花に手を伸ばし、中心の光に触れる。


暖かい流れが指先から全身に広がり、周りの光点も反応して震え始める。


光点たちが声の花と僕を繋げているみたいだ。そして、熟知したピンクの光点が花の中心からゆっくりと浮かび上がる。


「ありがとう、カガリ。」


「うん。どういたしまして。」


カガリは半空に浮かびながら、微笑んでいるようだった。


「ごめんな、かっこ悪いところを見せちゃって。」


「そんなことないよ。アオイちゃんはいつもかっこよくて可愛いよ。だって、今も諦めたくないって思ってるでしょ?」


「ああ、そうだね。」


体を十分に動かした後、声の花の隣に再び座る。周りの光点が、座る動作に合わせて震える。水筒と乾パンを取り出し、水と一緒に乾パンを飲み込む。死んで生き返る度に、いつもお腹がすく。食事をしていると、カガリが話しかけてきた。


「でも、今回の敵は本当に厄介だね。」


「ああ、あの速さと剣技。あの狐、簡単にはいかない相手だ。」


「作戦は?」


「いつも通り、地道に突破法を探るしかないね。まずはあの廃街に何度も入り、あいつが現れるタイミングを見つける。把握できないと、戦いは不利になる。さっきみたいに。」


「なるほどね。」


「それに、さっき見たあの骸骨も気になる。あいつが使っていたのは剣なのに、骸骨の傷は何かに焼かれたり貫かれたりしてる。あいつにはまだ隠し手があるかもしれないと思っておいた方がいい。」


「確かにね。さすがアオイちゃん、よく見てるね。」


「ありがとう。まあ、これだけ経験してると、考察能力も少しは身につくよ。」


「ふふ、アオイちゃんが今こんなに冷静に観察してるのを見ると、昔ミミックに飲み込まれた時が懐かしくなるな。」


「あれはもう忘れてくれ。若気の至りだよ。」


このような些細な会話を交わしながら、心が安らぐのを感じていた。


カガリはいつも、冒険の一区切りごとにその澄んだ声で僕に話しかける。


もし、祝福された声がこの世界のどこかにいる人から、声の花を通じて生まれた投影だとしたら、カガリも確かにこの世界に存在している。


カガリの正体について興味がなかったわけではないが、聞くのを避けていた。カガリも自分のことについてあまり話さない。恐らく、この少し距離を置きつつも適度な連絡を保つ仲間関係を壊したくなかったのかもしれない。


それは抽象的に言うならば、僕たちは国境の両側に立っているが、手を伸ばして互いの温もりを感じているようなものだ。


カガリがどのような姿をしているのかは分からない。


僕が旅をしているのは、心のどこかでいつか彼女に会えることを期待しているから。


たとえ、それが永遠に実現しないかもしれないとしても。


服についたパンのくずを払い、荷物を整理し、簡易的な寝袋を取り出す。


「とにかく、今日はここまでにしよう。今夜はもう寝るよ。明日もよろしく、カガリ。」


「ええ、よろしく。おやすみ、アオイちゃん。」


カガリに微笑みを向け、僕は目を閉じて夢の中へと入っていく。

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