バトルデイジーは枯れない

浜彦

夢見ヶ丘 桜道 89番地

第1話 僕の世界は、今日も雨が降っている

雨が僕を目覚めさせた。


ポツポツと、細かい雨が顔に落ちる。身体を震わせながら、あくびをしながら目を覚ます。古い寝袋からもがきながら起き上がり、空を見上げた。壊れた教会の天井に小さな穴が開いていて、細かく、漂う雨が少し灰色の朝光とともに降り注いでいた。


身体がまだ暖かい布団を恋しがっているのを感じながら、僕は伸びをした。動くと、黒い髪が視界の両側から覆いかぶさって見えなくなる。慣れた手つきで髪を後ろに払い、白いリボンで束ねる。そうすると、視界が広がった。


広がった視界の中で、金色の花が、僕が作った簡易キャンプの中心に咲いている。金色の花は多肉植物のような厚い花びらを持ち、蓮のように。花の部分は光点が漂い、手を近づけるとわずかな熱を感じる。花を中心に、明滅する光点が放たれ、小さなキャンプ全体を包んでいる。


荷物を探る。籠手と小さな盾を装備し、愛用の剣を確認する。相変わらずの鋭さを確認してから、腰に繋いだ。


僕はアオイ、家名はない。


この世界に生まれてから10年以上が過ぎたが、この「声の花」と呼ばれる不思議な植物を見るたびに、つい驚いてしまう。経験や法則を使ってこの花の仕組みを説明しようとしたが、答えは見つからない。でも、その恩恵には慣れていた。


手を伸ばし、花の中心の光点に触れる。すると、熱が指先から身体に流れ込む。周りに浮かぶ光点が活性化したかのように震え、揺れ始めた。


そして、声が聞こえた。


「おはよう、アオイちゃん。」


耳元で響く、少し夢幻的な女の子の声。


「おはよう、カガリ。」


思わず笑みがこぼれ、僕もそっと声を返した。


ピンク色の小さな光点が花の中心から飛び出し、僕の周りを数周した後、視線の斜め上に浮かんだ。なぜか、声はそこから聞こえてくるようだった。


今でもその仕組みは理解できないが、もう現象としては慣れている。ピンク色の光点、つまりカガリは、リズミカルに震えながら僕に話しかける。


「今日の予定は?」


「昨日のように、適当に前進するよ。」


荷物から少し汚れた地図を取り出し、一つの広場を指さした。


「この地図によれば、前に進むとガーディアンに遭遇するはず。近くには『声の花』があるだろうから、少し休んでからガーディアンの怪人に挑戦し、このエリアを突破するつもり。」


「わあ、なんだか感慨深いわね。これから初めてガーディアンに接触するのね。」


「まぁね。ここで少し長く滞在してしまったから、そろそろ本格的にこの場所を攻略しようと思ってるんだ。これからも力を貸してくれると嬉しいな。」


「了解。アオイちゃんのことをずっと見守ってるわ。頑張ってね!」


カガリが元気を出したのを感じて、僕が防水のマントのフードを頭に被った。息を吐き出し、教会を出た。


この場所は、よく雨が降る。


というか、ここに来てからの記憶では、いつも曇りと雨の風景だった。


泥道で立ち止まり、目を瞬きながら遠くを見た。


目の前に広がるのは、森に侵食された都市の残骸。曇りの雲が時々光を通す隙間を残し、平坦で広がる緑地を断続的に照らす。起伏する丘の上には、石壁が苔で滑らかに覆われている。


遠く、都市の街路で、一つの動く隊列が僕の注意を引いた。目を細め、その隊列をじっくり見る。


それは一列の浮かぶ、動く光点だった。


いや、光点というよりは、鬼火と言った方が適切かもしれない。


揺れる青緑色の火が規則的な間隔で縦一列に並び、ゆっくりと漂っていた。雨が降っていて、燃料もなさそうなのに、空中で燃えている。


でも、最も目を引くのは空中の自然発火ではなく、隊列の最前部のものだった。


「あれかな。」


「ええ、そう。あれが多分、このエリアのガーディアン。」


白無垢しろむく


隊列の先頭にいるものを見た時の最初の印象だった。


白を基調に赤い装飾の衣装、長く後ろに伸びる袖とスカート。赤い傘をさしている。雨と距離で白衣の人の顔ははっきりとは見えない。しかし、頭の上の高い突起から見ると、獣のような耳を持っている。


そのものは雨の中で優雅に歩いていた。鬼火たちを引き連れて、ゆっくりと廃墟の後ろに消えていった。


「なるほど。厄介だね、これは。」


心に湧き上がる恐れを抑えて、僕が深く息を吸い、再び歩き始めた。



§


僕が雨に覆われた廃墟の通りに侵入した。


通りを歩きながら探索し、足が踏むところでは水しぶきが飛び散る。冷たい空気を吸い込みながら、街の景色を心に刻む。


灰色の空、湿った空気、滑りやすい床。


カガリは静かに僕のそばにいる。気まずくならない沈黙が私たちを包む。


僕は壁に手を伸ばし、拾った石で印をつけた。


年間を通じての長雨で、煉瓦の家が老朽化しやすくなっているのかもしれない。


複雑に入り組んだ水路も、もはや本来の機能を果たしていない。余計な水が街の外から逆流し、設計された水の流れを乱す。黒い泥水が煉瓦の道を流れ、泥だらけで湿ったこの地に、何か不気味な雰囲気を加えている。


崩れた煉瓦のの壁には、銃弾のようなひび割れと黒い焦げ跡がある。


足元に何かが蹴った。


ヘルメットが足元に転がっている。拾ってよく見ると、刃物の痕が縁に沿ってきれいに切り込まれている。その隙間から見えるのは金属の輝きではなく、濃い錆と暗い赤色だ。


長くはかからずに、僕はヘルメットの持ち主を見つけた。


それは骨だった。鎧を着ているが、胸には大きな穴が開いている。金属製の鎧は力強く砕かれ、曲がって鋸のようになっている周辺には、壁と同じ黒い焦げ跡がある。


「この傷は…何が引き起こしたのかな?」


カガリがヘルメットの近くに浮かび、数回回る。


「分からない。でもとにかく、かなり強力な攻撃だったようだ。」


ヘルメットを白骨に戻し、手を合わせて黙祷する。数秒後、白骨の持ち主の荷物を探し始める。


荷物の中には数枚の銀貨しかない。その他の装備、例えば槍や盾は錆びついて使えない状態だ。


銀貨を荷物に入れ、再び探索を始める。


そして、耳に鈴の音が響いた。


「っ!」


背中が冷たくなるのは雨か、それとも他の何かか、区別する暇もなく剣を抜く。僕が振り返ると、目を見開かずにはいられない。


知らないうちに、浮かぶ鬼火に囲まれていた。雨の中、浮かぶ火の光が冷たく僕の瞳に映る。だが、驚いたのは鬼火ではない、数歩先に立つ人だった。


初撃を避けられたのは、ほとんど運。


小さな盾を自分と刃の間に滑り込ませ、斬りかかる攻撃を斜め上に遮る。


下駄が地面に落ちる音が水音と共に響く。まるで地面を折りたたみ、出発点と終点を直接重ねるように移動したかのように、先ほどまで数歩離れていた人が、今は目の前にいる。


それは美しい少女だった。


白と赤が視界を埋め尽くす。灰色の背景に、少女の服装は際立っている。長い袖の白い服、赤い傘。手には直刀ちょくとうを持っている。嫁ぎ着のようなマントが少女の剣を振るう動作に合わせて開き、中から獣の耳と金色の長い髪が現れる。少女の雪のように白い顔には、細長い瞳の金色の目があしらわれている。冷たい眼差しが、刃のように僕に向けられる。


「狐…」


金属がぶつかる音がカガリのつぶやきを遮る。手首がわずかに麻痺を感じ、次の一撃に備えて構えを調整する。再び盾を剣の側腹に滑り込ませ、力強く上に押し上げる。響き渡る衝突音が雨のささやきを圧倒した。少女がよろけた瞬間に前に突進し、剣を突き出す。少女は手に持つ赤い傘を僕の剣先に向ける。


心が沈む。


剣先から感じるのは、油紙を突き刺したときのわずかな抵抗だけだった。


シャラッ。


視界を埋め尽くす赤い紙傘が瞬時に二つに裂ける。雨とは違う暖かい液体が僕の頬に飛び散る。背中が硬く冷たい石の地面を感じながら仰向けになり、視界には静かに浮かぶカガリが映る。雲の厚い空は変わらず雨を僕の上に降らせる。


カッ、カッ。下駄の足音が近づいてくる。獣の耳を持つ少女が僕を見下ろし、手にした刀を振り上げた。


胸を貫く熱い感覚を感じながら、僕は意識を失った。

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