エピローグ

第47話 旅立ちの前に

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 第47話 旅立ちの前に

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 俺は冒険者ギルドに入った。

 巨乳受付嬢がいた! まだ若い。十五歳くらいか。藍色の髪を団子にして気合が入っているな。


「三級冒険者のゼイルハルトだ。オークションの落札金を受け取りにきた」

「しょ、少々お待ちください」


 受付嬢が走っていき、上司だろう熟女と話をしている。

 受付嬢が熟女と共に戻ってきた。


「お待たせしました。別室にご案内しますので、こちらへお越しください」


 くっ、熟女が対応するのか。

 俺は巨乳さんがよかったんだけどな。


 別室に入って熟女がカウンターの奥に座り、俺はその前に腰かけた。


「これからはわたくし、エリザベートが対応させていただきます」

「ゼイルハルトだ。よろしく頼む」

「振込を行いますので、冒険者証を出してください」


 基本的に現金主義の冒険者ギルドと冒険者だが、金額が高額になると振込になる。

 基本的には五級以上の冒険者がこういった振込制度を使う。


 その際に冒険者証が大事だ。これはただ身分を示すものではなく、冒険者ギルドに預けてあるお金を引き出す際にも必要になる。


「ご本人と確認できました」


 冒険者証を魔導アイテムで確認したエリザベートが全額を振り込むかと確認してきた。


「ああ、全額で構わない」


 エリザベートが操作盤を操作する。


「振込が終了しました。こちらが、ただ今の残金になります」


 明細をもらう。

 実をいうと、俺は六級になった時にオヤジの勧めで口座を開設している。

 とはいえ、一年ほど前に使ったきりで、ほとんど使っていない。


 明細には三百十五億三百八十万Zと記載があった。

 オークデスピアはオークションで四百五十億Zで落札され、手数料や税が引かれて三百十五億Zが俺の取り分だ。

 元々入っていた他国の金額の別途表記がある。


「確認した。ありがとう」

「いえ、こちらこそありがとうございました。ここまで大きな落札額は滅多にありません。いい経験をさせていただきました」




 冒険者ギルドを出て伯爵の屋敷へ向かうのだが、俺をつけるヤツが四人いた。

 このまま貴族街に入れば、そいつらはどうにもできないと思い、スルーした。

 だが、そいつらは貴族街に入っても俺をつけてくる。

 さすがに伯爵の屋敷内まではついてこなかったが、これで四人が貴族の関係者だと確定した。

 まあ、この後はドラグア伯爵の護衛があるから、仕かけてこないと思うがな。


「やあ、ゼイルハルト殿」

「ごきげんよう、ゼイルハルト殿」

「こんにちは。伯爵様、アンジェラ様」


 二人に挨拶をした俺は、出されたお茶を飲む。歩き回ったおかげで喉が渇いていたところだ。


「アンジェラ様にもご迷惑をおかけしました」

「そんなこといいのよ。ゼイルハルト殿が無事でよかったわ」

 アンジェラ様との話が弾んだ。

 アンジェラ様は貴族だが、高飛車でないから話していて嫌な思いはしないのがいい。それに美少女との会話は楽しい。

 アンジェラ様は将来巨乳になってくれることだろう。(希望的観測)


 ここで国が約束したなんとか侯爵家と騎士たちの遺族と皇室からの賠償金をもらった。

 今回は冒険者ギルドの口座に入れてもらう。貴族家なら、ギルドにあったような魔導アイテムがある。


「さて、入金も終わったし、少し相談があるのだが」

 伯爵は執事と入金作業をしているので、アンジェラ様とお喋りをしていたのだが、また面倒なことじゃないだろうな。


「君も知っているように、アンジェラがもうすぐ学院に通うことになる」

 帝都には貴族や優秀な平民が通う学び舎がある。十三歳から十五歳までの三年間をこの学院で過ごすのだ。

 こういった制度は他の国にもあったが、それぞれで細かいところが違うくらいしか俺は知らない。


「護衛があと一人足りないのだが、ゼイルハルト殿の知り合いに女性で腕のいい魔法使いはいないだろうか」

「魔法使いにですか……」

 あると言えばある。ミユだ。

 ただ、ミユはスラム育ちで礼儀作法どころか、文字も書けない。数は数えられるが、その程度で貴族の護衛が務まるのだろうか。

 地頭は悪くないから文字を教えればすぐに覚えると思うのだが、紹介してミユに迷惑にならないかが懸念だな。


「その顔は心当たりがあるのだね」

「それなりに腕のいい魔法使いはいますが、彼女は貴族の礼儀作法を知りませんし、文字も書けませんので」

「魔法使いなのに、文字が書けないのかね?」

 詠唱魔法全盛のこの時代で、文字の読み書きができない人は魔法使いになれないと思われている。

 それに対して想像魔法には文字の読み書きよりも、想像力が大事だから問題ないのだ。


「まあ、そうですね」

「学院の入学までには、まだ少しある。礼儀作法はその間に教えればいい。なに、護衛なのだから、そこまで難しいことではない。それに文字は護衛期間で教えてやれよう。紹介してくれないだろうか」

「分かりました。紹介します。ただ、無理強いしないと約束してもらえますか」

「その魔法使いが断ったら、素直に諦めると約束しよう」

 俺はミユの泊まる宿に向かうことにした。


 伯爵が馬車を出してくれた。

 それで宿の前に横づけしてもらい、ミユを呼び出す。


「師匠!」

「よう、ミユ。ちゃんと魔力操作の訓練をしていたか」

「はい。毎日魔力操作をしていました!」

 まだまだ発展途上のミユにとって、魔力操作の訓練は最も大事なことだ。


 俺はミユに伯爵の頼みについて話した。

「私に貴族の護衛なんて無理です」

「お前なら十分にできるだろう。実力に関しては滅多なことはないはずだ。ただ、礼儀作法や文字の読み書きができないところのほうが、俺は心配している」

 礼儀作法や文字の読み書きは、伯爵が教育してくれると付け加える。


「師匠はどうされるのですか?」

「俺は伯爵の領地まで護衛をしたら、旅に出る。一年に一回くらいは帝都を訪れるつもりだ」

「その旅に私を連れていってはもらえないのですか……?」

「ミユには帝都で頼みたいことがあるから、残ってほしいんだ」

「師匠が私に頼みですか?」

「ああ、頼みだ」

「分かりました! その頼みを引き受けます!」

「まだ何も言ってないんだが?」


 俺がミユに頼みたいことは、魔導都市エルディスの管理だ。

 魔導都市エルディスの管理自体は、管理システムが勝手にやってくれるから、一カ月に一度様子を見て、必要に応じて魔力供給をしてくれるだけでいい。


「分かりました。私が魔導都市エルディスをしっかり守ります!」

「ミユにマスターの代理者権限を与える。よろしく頼むよ」

「はい、お任せください!」

 ミユはアンジェラ様の護衛をしつつ、魔導都市エルディスに魔力供給をしてくれることになった。




 伯爵屋敷に連れていくと、ミユはさすがにオロオロしていた。

「安心しろ。伯爵は貴族には珍しく、話の分かる人だ。それにミユが嫌だと思ったら、辞められるようにしておく。もし護衛以外のことを無理強いされたら、逃げればいい。その際は魔導都市エルディスに逃げ込め。あそこなら誰もミユには近づくことはできないからな。あとは俺に連絡すれば、できるだけ早く帰ってくる」

「はい」

 ミユを安心させつつ、伯爵とアンジェラ様を待つ。


「待たせてすまないね」

「お待たせしましたわ」

 二人が部屋に入ってきて、気さくに挨拶をしてくる。


「この子が八級冒険者のミユです」

「ミユといいます。よろしくお願いします」

「かなり若いね、何歳かな?」

「十五歳になりました」

 ミユは幼く見える。なんなら俺より年下に見えることだろう。


「ミユは八級冒険者ですが、魔法の腕は五級以上と思っていいです」

「師匠に厳しく指導していただきましたので、多少の魔法は使えます」

「師匠とは、もしかしてゼイルハルト殿かね?」

「はい。ミユは俺の弟子です」

「ミユ君はいつからゼイルハルト殿の弟子に?」

「一カ月と少し前になります」

「一カ月で五級冒険者並みの魔法使いなのか。それはすごいな……」

「わたくしもゼイルハルト殿の弟子になったら、魔法を教えてもらえますか!?」

 アンジェラ様が身を乗り出してきた。


「残念ながらアンジェラ様の魔力量は少ないので難しいですね」

「そうなのですね……残念ですわ」

 シュンとするアンジェラ様の魔力量は、ミユよりもかなり少ない。

 ミユの魔力量を百とするなら、アンジェラ様は三くらいだ。高望みしなければ、多少の時間稼ぎができるくらいにはしてやれるが、あの訓練だからな。


 魔力量は鍛えれば、それなりに増やすことができる。ミユが毎日している魔力操作だ。

 しかし、魔力操作を教えると、アンジェラ様も失禁・脱糞することになりかねない。

 さすがに貴族の姫様がそんなことになったら、伯爵も黙ってないだろう。ここは何も言わないのが吉だ。


 その後、ミユの雇用条件を詰めた。


 ・アンジェラ様が学院に通う際の護衛以外のことは基本しない。

 ・礼儀作法は教えてもらうが、最低限のことができるようになればいい。

 ・文字の読み書きは、護衛期間で伯爵家で教えてもらう。

 ・毎月三連休を一回、その他に三日、合計で六日の休暇をもらう。(三連休は魔導都市エルディスの魔力供給のため)

 ・護衛依頼は冒険者ギルドを通す。報酬は月に五十万Z。二年目は月に六十万Z、三年目は月に七十万Z。


 八級冒険者への護衛依頼としては、破格の報酬だ。





 魔導都市エルディスの魔力供給もあるし、ミユにも管理システムとの通信デバイスである腕輪を渡した。

「何かあれば、それで連絡をしろ」

「はい」


 その後、冒険者ギルドでバーサスに挨拶しようとしたが、いなかった。モーラさんの巨乳をもう一度拝んでから旅立ちたかった。残念。

 巨乳受付嬢にバーサスたちへの伝言を頼み、俺は伯爵の護衛をして帝都を出るのだった。


 また、俺を尾行していたヤツらも、なぜか伯爵一行をつけてくる。何がしたいのか。


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