第45話 急転直下
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第45話 急転直下
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宰相はすぐに近衛兵を集めた。
「皇帝陛下の御下命である! これより、皇后様とバルガーズ侯爵を確保する」
帝国騎士団の詰所に殺到したニードルビーを退治するために集められたと思っていた近衛兵だったが、思わぬ命令にざわついた。
「今回の悲劇をもたらした元凶を絶つ! 第一近衛兵団は皇帝陛下をお守りするのだ。第二近衛兵団は皇后様の身柄を確保。第三近衛兵団はバルガーズ侯爵を捕縛せよ」
宰相が陣頭指揮を執り、皇后はすぐに確保された。
「わらわを誰と心得る! 離しなさい!」
「皇帝陛下のご命令です。大人しくしてください」
「なぜ皇帝陛下がわらわを!?」
そこに宰相が現れた。
「勝手に帝国騎士団を動かし、無実の罪の者を捕縛したからです」
「なっ!? そんなことで!」
「そんなこと? 皇后様はご乱心したか」
宰相はゆっくりと左右に首を振って呆れる。
「わらわを愚弄するか!」
「皇后様の浅慮によって、帝国騎士団員三千名が無駄に命を散らせたのですぞ。それをそんなことと仰るあなたに、皇后たる資格はないでしょう」
「何を……?」
「バルガーズ侯爵に何を吹き込まれましたかな?」
「わらわを愚弄する冒険者がいると……」
「では、その冒険者がなぜバルガーズ侯爵にそんなことを言ったのですかな?」
「それはニードルビーのハチミツを……」
「某はニードルビーのハチミツを採取するのは、高位の冒険者でも命がけになると何度も申しました。バルガーズ侯爵がたった一千万Zの報酬しか出さず、三百リットルものハチミツを採ってこいと言ったら、誰でも断るのは当然。皇后様はそういった背景を知って、冒険者を反逆者と決めつけたのですか?」
「そ、そのようなこと、わらわは……知らなかった……」
「知らないのに、帝国騎士団を動かし、あれほどの被害を出したのですか」
「わらわは何も知らぬ! バルガーズ侯爵がそう言うから!」
「
皇后は力なくうな垂れ、床にへたり込んでしまった。
「皇帝陛下の命令があるまで、部屋で大人しくしていてください」
宰相はそう言うと、立ち去っていくのだった。
ドラグア伯爵は騎士団の詰所に向かおうとしたが、夜空にニードルビーの羽根音が不気味に響き渡っており、進めずにいた。
ドラグア伯爵はゼイルハルトを停めようと動いていたのだが、命を懸けて止める義理はない。
「おーい、ゼイルハルト殿。いるかー?」
とりあえず、ゼイルハルトを呼んでみる。
これで出てきたら、苦労がなくていいのがだ。
「ゼイルハルト殿ーーー」
あまり騒いでニードルビーに襲われてはたまらない。
あまり大声を張り上げないようにしている。
「こんなことに意味があるのか?」
自分でやっていて、何をしているのかと苦笑する。
「なんだ、伯爵か」
「ゼイルハルト殿!」
ゼイルハルトが闇の中から出てきた。まるで散歩でもしているかのような、まったく危機感を感じない雰囲気だ。
「このニードルビーは、君が操っているのか?」
「まさか。そんなことができたら、俺はニードルビーのハチミツ採取だけで楽に生活ができますよ」
過去にテイマーがニードルビーを使役し、ハチミツを採取しようとしたことが何度かある。
テイマーが使役できるモンスターの数には限度があり、個体としてはそこまで強くないニードルビーならそれなりの数を使役できた。だが、万を超える数のニードルビーを全て使役することは無理である。
当然ながら一部を使役したくらいでは、ハチミツを採取できない。そこでテイマーたちは考えた。
使役したニードルビーで他のニードルビーを先導しようとしたのだが、使役された個体はそうでない個体から仲間だとは認められないようで、近づいたら総攻撃を受けた。
このことはドラグア伯爵も知っていることだが、冒険者の間では結構有名な話である。
「そ、それもそうだな……では、なんでここにこんな数のニードルビーが?」
「さあ、ニードルビーを怒らせたんじゃないですか?」
ゼイルハルトはとぼけているが、ドラグア伯爵がそのことを信じるわけがない。
だが、数万匹のニードルビーを使役するのは、無理な話だ。それは過去のテイマーたちが実証している。
それでもゼイルハルトが絡んでいる。それは間違いない。そう確信を持っている。そうでなければ、都合よく帝国騎士団員だけが被害に遭うことはおかしいのだ。
まさかゼイルハルトがコントラクトマジックでニードルビーと契約しているとは思ってもいないドラグア伯爵である。
そもそもコントラクトマジックという魔法があることさえ知らないのだ。気づけるわけがなかった。
「今回の件は皇后様が行った暴挙なのだ。皇帝陛下は何も知らなかった。それでも皇帝陛下は謝罪をしたいと仰っておいでだ。私についてきてくれないかな」
「うーん……。まあいいでしょう。ただ、夜も遅いので、明日にしてほしいですかね」
「分かった。それで調整をしよう」
ドラグア伯爵はゼイルハルトを連れて屋敷に帰ると、宰相に伝えた。
宰相もこれを了承した。これ以上心証を悪くするわけにはいかないため、最大限の配慮をしたのだ。
「ゼイルハルト殿!」
ゼイルハルトの姿を見たアンジェラが、駆け寄ってきた。
「アンジェラ。はしたないぞ」
「今回は当家での出来事であり、お父様が不在の時はわたくしがこの屋敷を預かっていたにも関わらず、あのようなことになったのです。わたくしはゼイルハルト殿に申しわけなくて」
「気にしなくていいですよ。アンジェラ様は俺を庇ってくださいました。十分に感謝をしてます」
ゼイルハルトといい関係を築いていると感じ、ドラグア伯爵は何度も頷いた。
「今日は遅い。まずはゆっくり休んでくれたまえ」
「ありがとうございます。伯爵様」
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