第42話 賠償金を要求する

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 第42話 賠償金を要求する

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 バルガーズ侯爵というのが、ニードルビーのハチミツを手に入れたくて、冒険者ギルドを通さず採ってこいと脅迫してきた。

 こんな暴挙を許していては、冒険者家業はおまんまの食い上げだ。


 冒険者ってのはな、やられたらやり返すもんだぜ。それが冒険者の矜持だ。


 俺は契約しているニードルビーを呼び寄せるように念じた。

 魔導都市エルディスの防衛用魔導機でもよかったが、ニードルビーのハチミツがほしいと言うから、ニードルビーがどういったモンスターか教えてやろうと思ったのだ。


 帝都の上空に黒い塊が飛来するのに、大した時間はかからなかった。


「お前たち、自分ができないからと、俺にやらせたいんだろ? だったら、もっと丁寧に頼まないと罰が当たるぜ」

「はんっ。貴様のような下賤の者などに、私が口をきいてやっているのだ。それだけでもありがたいと思え」

「本当に愚かだな、この家の者は」

「魔法使いだ! 魔法使いを呼んで、こいつを傷めつけろ!」


 その時だった、執事の鼻の上にニードルビーが止まり、ブスリ。


「ギャーッ」


 その悲鳴を皮切りに、あっちこっちから悲鳴が聞こえてくる。


 ―――騎士と武器を持っているヤツ、攻撃してくるヤツは殺せ。

 そう意志を載せた念のようなものを送る。これで契約しているニードルビーは、俺の言うことを聞いてくれる。


 ブーンッ。

 ニードルビーの羽根音が返事のように聞こえてきた。


「さて、俺はこの屋敷の主に会いにいくか」


 壁を蹴り破り、屋敷の中に入る。

 豪華そうな扉は全部蹴り破って中を確認する。

 魔力感知で人がいるのは分かるが、それが誰かはさすがに分からない。だから広い屋敷は嫌いなんだ。


 侯爵と思わしき五十歳くらいのオッサンがいた。騎士が守っていたから、当たりだと思う。


「貴様!」


 斬りかかってきた騎士に、ニードルビーが群がる。


「ギャーッ」

「おのれ、何が目的だ!?」

「ニードルビーのハチミツが欲しいんだろ? こいつらに頼んでみたらどうだ。ハチミツをくださいってな」


 侯爵は倒れてピクピク痙攣している騎士を見て、俺の周囲にいるニードルビーを見る。


「お、前はニードルビーを使役しているのか、だったら、ハチミツを献上するのだ」

「十リットルで一億Zだ」

「ばかな!? そんな金額が出せるわけないだろ!」

「だったら諦めろ」

「ぐぬぬぬ」

「それと俺を七時間も拘束した賠償の話をしようか」

「下賤の者が何を!」


 その騎士にニードルビーが群がる。


「発言には気をつけたほうがいいぞ。こいつらは俺と同じで気性が荒いからな」

「何が望みだ」

「そうだな。まずは俺の貴重な時間を無駄にしてくれた賠償として、一億Z」

「なっ!?」

「あと、こいつらを大人しく返すのに、三億Zだ」

「ふっ……」


 最後に残った騎士が「ふざけるな」と言おうとしたんだろう、慌てて手で口を押えた。

 誰でも命は惜しいものだ。

 ただし、お前たちが理不尽なことをしてきたんだから、その罰を理不尽に受けてもらうぜ。

 どうせ、今回のように無理矢理何かをさせようとしたことは、一回や二回じゃないんだろ。


「合わせて四億Z。今ここで耳を揃えて払うか、ニードルビーの餌食になるか。好きな方を選べ」

「わ、分かった。四億Zを払う」


 聞き分けがいいじゃないか。

 どうせ、あとから取り戻そうとか思っているようだが、そう上手くことが運ぶと思わないことだ。


 侯爵が目くばせすると、騎士が隣の部屋へいった。


「お主、儂の配下にならぬか」

「無能の配下はごめんだね」

「くっ、儂を無能と言うか」

「相手の力も理解せず喧嘩を売るようなヤツが無能じゃないと?」

「お主のことなど、儂は知らん」

「だが、お前の配下が俺をここに連れてきた。ニードルビーのハチミツを三百リットル採ってこいとさ。しかも、報酬はたったの一千万Zだ。この家の者はものの価値も分からない無能だ」

「ニードルビーのハチミツは確かにほしい。だが、三百リットルを一千万Zというのは、儂の指示ではない」

「配下の管理もできないくらい耄碌したなら、隠居でもしな」

「不敬な物言いだな」

「お前たちは失礼の塊だがな」


 そこで騎士が入ってきた。

 金を確認した。大金貨が百枚入った金箱が四箱だ。


「確かに四億Zをもらった。今回のことはこれでチャラにしてやる」

「ふん」


 侯爵は不満そうに鼻を鳴らした。


「言っておくが、俺への嫌がらせや指名手配などしたら、侯爵の命はないものと思え」


 俺、有言実行だからな。


「脅す気か?」

「そんなことしたくないから、警告だよ。それじゃあ、そこの騎士。門まで送ってくれるか」

「なんで私が」

「事情を知らないヤツが俺に攻撃してきたら、この屋敷内にいる全員が死ぬことになるけど、それでもいいのか?」

「………」

「ラーデン。案内してやれ」

「はっ」


 実を言うと、侯爵の周囲にいた騎士以外は、ほぼ殲滅済みなんだよね。

 だから攻撃してくるようなヤツはいない。

 騎士ラーデンはそんな光景を目の当たりにし、顔を青ざめさせていた。


「酷い……」

「世の中には手を出してはいけない相手というものがいるんだよ。侯爵によく言っておくんだな」


 ラーデンは悔しそうに唇を噛んだ。


「それじゃあな。もう二度と会わないことを祈っているよ」

「こっちとしても、二度とお前には会いたくない」


 手をひらひらさせて俺は出ていくのだった。

 あの侯爵がそんなに物分かりがいいとは思えない。今回の屈辱は、必ず晴らすと思っていることだろう。そうなったら、あんたの命も……まあ、がんばれ。





 その時、バルガーズ侯爵はデスクの上に置かれていた書類などをぶちまけ、怒りを露わにしていた。

 間違いなく、何かをすることだろう。


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