第37話 食わず嫌いはダメ
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第37話 食わず嫌いはダメ
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俺たちは食材を買い込んで帝都の外に出た。その足で遺跡へと向かった。
モンスターを倒しながら遺跡を進み、二層へと入った。
「この遺跡は、十層構造になっていますが、これまで十層を探索した冒険者は一組だけです」
「それだけ奥にいるモンスターが強いってことか」
「はい。なんでも金属のモンスターが出てくるらしいです」
「金属のモンスターか。俺も遺跡には何度か入ったが、金属のモンスターは見たことないな」
そういう珍しいモンスターを、見てみたいという気持ちはある。
が、もうすぐ夜になる。睡眠はしっかりとらないと、戦闘に集中できなくなる。
遺跡の中の廃屋に入り、ミユに建物を補強するようにと指示する。
こういったことも彼女の魔法の腕を向上させる糧になる。
細かなことをコツコツと行うことも大事な修行だ。
「今日の夕食はアイアンスパイダーの足だ」
「え? あのアイアンスパイダーを食べるのですか」
ミユはアイアンスパイダーのグロテスクな姿を思い浮かべたようだ。
だが、アイアンスパイダーの足はカニに似た味で、結構いけるんだ。
大きめの鍋に大量のお湯を沸かし、その中に足を投入していく。
黒っぽい足が赤くなったら食べごろだ。
「え……美味しい」
「食わず嫌いはダメだぞ」
「はい」
「だが、中には毒を持つモンスターもいるから、なんでもかんでも食べるなよ」
「そうなのですね。分かりました」
美味しい食事を終え、光魔法のクリーンで体を清める。
「うん。大分いい感じになったな。クリーンは光魔法の入り口のような魔法だ、練度をしっかり上げるんだぞ」
「はい。師匠!」
光属性のクリーンは非常に使える魔法だ。それに、クリーンを使うことによって、病気の予防がある程度できるんだ。
ミユは残念ながら聖属性に適性がないようで、光と聖の二属性を必要とする回復魔法を使うのは難しい。
それでも最下級のライトヒーリングくらいは使えるようにしておきたい。ライトヒーリングであっても使えるようにしておけば、危機に陥った際に生き残れる可能性が少し上がるからだ。
とはいえ、今はストレージだ。ライトヒーリングよりもストレージのほうが難易度は高い。
その頃、ドラグア伯爵家には、どこからか聞きつけた神官がやってきていた。
「―――ですから、聖剣は神殿に安置するのがよいのです」
簡単に言うと、バーミリオンが持っている聖剣を寄こせと言っているのである。
「申しわけないが、聖剣を他者に譲る気はない」
「聖剣は神が下さったものですぞ! 神殿が所有するのが一番なのです!」
「もし聖剣を神殿に渡したら、我らはバンパイアに対する戦力を失うことになる。今回も聖剣を持っていたからこそ、バンパイアを倒すことが敵ったのだ。それなのに、貴殿は当家から聖剣を奪い、バンパイアが現れたら死ねと言うのか?」
「そのようなことは申しておりません。聖剣が必要なら、いつでも聖騎士を派遣します」
「聖騎士を派遣したら、膨大な費用を請求するであろう」
「それは人を動かせば、どうしても経費がかかるからです」
「当家が聖剣を所有しておれば、そういった経費はかからぬ。聖剣を寄贈しろとと仰るなら、当家の危機に聖剣を速やかに持ってきてもらい、聖剣がないことで出た被害を神殿が保証するというなら考えましょう」
「そのようなことは無理ですな」
「では、この話はここまでですな。神官殿をお送りしろ」
「ドラグア伯爵!」
「一方的な要求は認められない。お帰りを」
ドラグア伯爵家は領内に神殿や教会がない。
神殿や教会は利権を貪るだけの存在だというのが、ドラグア伯爵の考えなのだ。
帝国貴族の多くはそう考えており、帝国内では神殿や教会の勢力は強くないのである。
それでもどこにでも湧いてくるのが、神殿や教会なのだ。人の弱みにつけ込むのが非常に上手いのである。
しかも、神殿や教会は回復魔法のノウハウを持っている。これは極めて大きなことで、それゆえに神殿や教会に屈した国もあるほどなのだ。
「思った以上に早かったな。まったく、やつらはどこにでも湧いてくるわい」
「バーミリオン。屋敷だけでなく、領内にも神殿や教会の勢力に気を配るように命じておいてくれ」
「はっ。承知いたしました」
帝城では、宰相が皇后からいつもの叱責を受けていた。
「帝国騎士団を総動員すれば、いくらニードルビーが強くとも、倒せるのではないですか」
「おそれながら、皇后様。それによって騎士団に甚大な被害が出る可能性があります。そのようなことになったら、国防に影響が出ます。どうかお考え直しくださいますよう、伏してお願い申し上げます」
「帝国騎士団はそれほど脆弱なのですか。それでは鍛え直す意味も含め、ニードルビーを倒してきなさい」
皇后との話し合いは、堂々巡りであった。
それでも宰相は根気よく皇后を説得するのだった。
「つ、疲れた……」
皇后を抑えるのも、限界に近い。早くニードルビーのハチミツを手に入れたいところだが、簡単な話ではないことを十分に理解していた。
「はぁ……」
大きなため息が出る宰相であった。
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