第35話 バーサスと往く帝都外

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 第35話 バーサスと往く帝都外

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 ミユが受けた依頼をこなすため、俺とミユ、そしてなぜかバーサスまで帝都の外に出た。


 ミユが独り立ちするには、索敵と戦闘、そして物資の運搬を自分でしなければいけない。

 索敵と戦闘は辛うじて合格点を与えるが、問題は運搬だ。

 空間属性を訓練するにしても、さすがに難しいようだ。


「ストーンバレット」


 三体のゴブリンが現れたので、瞬殺する。


「おい、ハルトがゴブリンを倒したら、ミユちゃんの実績にならないだろ」

「誰が倒しても分からないんだ。構わんさ」

「それじゃあ、ミユちゃんの経験にならないだろ」

「そこは問題ない。ゴブリンを倒したくらいでは、ミユの経験にならんからな」

「モブガーを倒したのだから、たしかにゴブリンくらいは相手にならないが……それでいいのか?」

「いいんだよ」


 ゴブリンでは命の危機を感じることはない。

 そんなことに時間を使うくらいなら、ストレージを使えるようにしたほうがいいのだ。


 魔力感知でゴブリンとバリュク草を探し、サクサク狩って(刈って)いく。


「なんでそんなに簡単にバリュク草が見つかるんだ!?」

「秘密だ」

「むぅ」


 バーサスがうるさい。ついてくるのは構わないが、静かにしてほしいものだ。


 バリュク草に限らず、薬草は固有の魔力を持っている。それを探せばバリュク草の採取は簡単にできる。


 次第に日が傾き、夕方になる。


「今日はここで野営する。ミユ」

「はい。ストーンハウス」


 地面がせり上がり、家ができる。

 スラムのミユの家より立派なのはご愛敬だな。


「な……おい、ハルト。ミユちゃんは何をしたんだ?」

「土魔法で家を造っただけだ」

「だけって……普通、こんなことできないぞ」

「これがあると便利なんだよ。雨風を防げるし、夏なら日光を遮るし、冬は雪が降っても大丈夫だ」

「なあ、二人して俺のパーティーに加わらないか?」

「ないな」

「お断りします」

「ぐぅ……」


 家の中に、ベッドを置く。


「ベッドは二つしかないから、バーサスは床で寝ろよ」

「そんな連れないこと言うなよ。俺もベッドを使わせてくれよぉ」

「ダメ」

「うっ」


 このベッドは元々俺とオヤジが使っていたものだ。

 オヤジが使っていたものは俺が、俺が使っていたものはミユに使ってもらっている。


「夕食はパンとオークリーダーの肉とスープ、あとデザートだ」

「デザートってなんだよ!?」

「バーサスはいちいちうるさいな」

「いや、普通、野営でデザートなんて出さないだろ!」

「出していけないという法はない」

「ぐぅ……」


 オークリーダーの熟成肉を適度な厚みに切り、熱したフライパンに載せる。ジューッといういい音が耳を楽しませる。これぞ料理の醍醐味だ。


 パンは酵母というものを使うと、とても柔らかくなる。

 西の国で酵母の作り方を学んだおかげで、どこでも美味しくて柔らかいパンが食べられるようになった。


 スープは色々な野菜を高圧で煮込むといい出汁が出る。重力属性のグラビティを使えば簡単に圧をかけられるのがいい。


「なんだこれ!? めっちゃ美味うまいぞ!」


 スープを飲んだバーサスが叫んだ。


「この肉もなんて旨味なんだ!」


 熟成させることで、旨味が強くなるんだよ。


「このパンは柔らかすぎないか!? しかも甘味が強い!?」


 使っている小麦もパン作りに適したものだ。


「このデザート、めっちゃ冷たい! かかっているのは……まっさかニードルビーのハチミツか!? 芳醇な甘さが癖になりそうだ!?」

「黙って食えよ」

「お前な、こんな料理、王様でも食ってないぞ。ヤバすぎるだろ、これ!」

「しかし、よくもそんなに腹に入るな。俺の四倍は食ってるぞ、バーサス。後から腹痛になっても知らないからな」

「こんな美味いものを食べて腹が痛くなるなら、本望だ!」


 清々しいほど潔いな。

 だが、その食材を用意したのは俺だぞ。遠慮というものを知ろうか。


「さて、寝るか」

「見張りはどうするんだ?」

「そんなものは要らん」

「マジかよ。今度は何をするんだ?」

「何って、この家があるだろ。入り口を塞いでしまえばモンスターも人間も入ってこないぞ」

「だが、壊されるだろ」

「そんな軟なものなら、俺が壊している」

「つまり、この家は頑丈ってことか?」

「試してみるか?」

「いいのか?」

「構わん。攻撃してみろ」

「それなら遠慮なく」


 バーサスはロングソードを抜き、構えた。


「はっ!」


 一閃。

 ロングソードが家に当たった瞬間、ガリッと音がした。


「つ……」


 バーサスは右手が痺れたようで、振っている。

 家のほうは多少傷ついたが、破壊まで程遠い。


「マジかよ。俺、これでも四級パーティーのアタッカーなんだぜ。自信なくすぜ……」


 バーサスは本気で斬ってないが、これで少しは安心して夜を迎えられるだろう。


「なあ、本気でパーティー加入を考えてくれよ」

「イ・ヤ・ダ」

「お断りします」

「お兄さん、泣いちゃうぞ」

「外でならいくらでも泣いて構わんぞ」

「酷っ!?」


 俺とミユはベッドに横になり、毛布に包まる。

 バーサスは床で寝袋に入った。


「「………」」


 夜、俺とミユは一睡もできない。


「ゴーッガーッゴーッガーッゴーッガーッゴーッ」


 バーサスのいびきがうるさすぎるのだ。


「こいつ、迷惑すぎるだろ」

「殺しますか」

「図々しいが、基本は善人だ。そういったヤツを殺すのは気が引けるから、殺さない」


 もちろん、俺の命がかかっているなら、殺すけど。


「分かりました」


 バーサスの周囲に無音結界を張り、俺とミユはゆっくり眠るのだった。


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