第33話 サクッと八級冒険者
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第33話 サクッと八級冒険者
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ギルド職員が七級を捉まえたようだ。
「ガハハハ、試験官くらいいくらでもやってやるぜ!」
なんか脳筋っぽい。
あいつで大丈夫か? ミユを怒らせたら死ねるから、気をつけたほうがいいぞ。
「あいつは六級のモブガーだな」
七級じゃなく六級か。
まあ、ミユが油断しない限り、どっちでも結果は変らないけどな。
「お、特殊昇級試験を受けるヤツが出てきたぞ……って、女の子かよ」
「さっき女って言ったよな」
「いや、もう少し年がいっていると思ったが、まさか十歳くらいの女の子だとはな」
「いや、十五歳らしいぞ」
「え!?」
その驚きようは理解できる。そうだよな、そう思うよな。俺の目が悪かったわけじゃなくて、少しホッとしたよ。
ミユは背は低く痩せていて、胸も育っていない。どう見ても十五歳には見えない。
「ガハハハ。特殊昇級試験というから、どんなガキが出てくると思ったが、クソチビじゃないか! もっと胸が大きくなってからきたらどうだ! ガハハハ」
モブガーは大声でミユの胸のことを言った。
俺も胸には厳しい目を向けるが、そういうのは心の中で思うものであって、言ってはいけないものだ。それを大声で言うモブガーは……死んだな。
「あの嬢ちゃん、何者だ? どこかで見たことがあるような気がするが、あの殺気は只者じゃないぞ」
モブガーの暴言に、ミユは怒っているらしい。
それが殺気としてわずかに漏れ、バーサスに気づかれた。
まったく、そんなことで殺気を漏らすなんて、まだまだ修行が足りないな。
「おい嬢ちゃん! 俺に一発でも当てることができたら、合格だ!」
「分かった」
そんなこと言うから、モブガーは……。
「ギャァァァァァァァッ」
そうなるわな。
股間に一撃を受けたモブガーは蹲って戦意喪失した。
殺さなかったミユを褒めてやろう。
「おい。あの嬢ちゃん、マジでヤベーぞ」
バーサスは自分の股間を押えて青い顔をしている。
「師匠。無事に八級で登録できました」
「おう。ご苦労さん」
「え、何だよ、どういうことだよ!?」
俺の元にきたミユを見て、バーサスが困惑している。
「俺の弟子だ」
「ま、マジかよ……」
バーサスは恐る恐るミユに椅子を勧めた。
そんなにビクビクしなくても、ミユは誰彼構わず噛みつく狂犬ではないぞ。
「しかし、ミユか。どこかで聞いたような名前なんだよなー」
「もうボケたか、バーサス」
「うるさいわ! あ、思い出した! そうだ、ポーターにミユという子がいたんだった」
「なんでポーターのミユのことを知っているんだ?」
「俺の弟分に六級冒険者がいるんだが、そいつらがちょっと前にポーターのミユの捜索依頼を受けたんだ」
「捜索依頼って、誰が出したんだよ、そんなもの?」
「詳しくは知らないが、どうも貴族っぽいな。そのポーターがニードルビーのハチミツをギルドに持ち込んだらしい。それでもっとほしいから、持ち込んだヤツを探していたんじゃないか?」
そういうことか。
「しかし、ミユちゃんはそのミユと同じ名前だから気をつけたほうがいいぞ」
いや、本人だし。
「ミユ。周辺には気をつけておけよ」
「はい。師匠」
「なあ、ハルトは本当にミユちゃんの師匠なのか?」
「そうだが、なんでだ?」
「もしかしてミユちゃんは氷属性を使えるのか?」
「まだ教えてはいないが、多少は使えると思うぞ」
魔法の属性によっては、使えないものもある。むしろ、適性属性はそれほど多くないと思ったほうがいい。
今流行りの詠唱魔法だと、適性属性がないと魔法は使えない。
だが、俺やミユが使う想像魔法では、適性不適合の属性でも発動させることができる。といっても限度はあるが。
ミユの適性属性は土と風だと思われる。火と水はそこまでだが、それでもクレフォを相手するくらいなら問題ないレベルで使える。
俺も以前は適性属性があり、回復系の魔法は使えなかった。だが、封印が解除されてからはそういったものは感じなくなり、回復でもなんでも使えるようになった。
「氷魔法が使えるなら、俺のパーティーに入らないか!?」
「エールを冷やすためにミユを誘うとか、ぶっ飛ばすぞ」
「いいじゃねぇかよ。俺は美味しいエールが飲みたいんだよ」
「そんな我儘でパーティーに誘うな。それにあと十年もしたらミユは全盛期だが、バーサスは引退の時期だろ。その時に一人残されるミユが可哀想だと思わないのか」
「うっ……それもそうだな……ミユちゃん、悪かった」
「いえ、元々入るつもりはありませんので、問題ありません」
「それはそれでちょっと寂しいかな……」
ミユに八級の依頼を受けさせ、ギルドを出ていく。
バーサスは三杯飲んでグダグダになっていた。酒に弱いのに好きな人っているよな。
八級の依頼で一番有名なのは、ゴブリン退治だろう。
ゴブリンは繁殖力が強いから、駆除しないとすぐに増えてしまう。
それから薬草採取も受けた。
薬草といっても色々ある。傷薬、解熱剤、
ミユが受けた八級の依頼の薬草は、解熱剤用だ。バリュク草というものになる。
「なんだハルトもいくのか?」
突っ伏していたバーサスが、顔を上げる。
「まだ修行中だから、教えなければいけないことが山ほどある」
「うっし、俺も行くぞ!」
「バーサスは休暇中じゃないのか?」
「休暇中に何をしようと俺の勝手だろ」
「……ついてくるのは構わないが、モーラさんたちにちゃんと連絡して、邪魔をするなよ」
「邪魔なんてしねぇーつーの。俺を誰だと思ってるんだ」
「酒が弱いくせに、すぐ飲みたがるどうしようもないヤツ」
「……それ、酷くね」
俺は正直者なんだよ。
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