五章

第31話 報いを受ける時がきたのだ

 ■■■■■■■■■■

 第31話 報いを受ける時がきたのだ

 ■■■■■■■■■■


「アースウォール!」


 地面から壁が生える。


「ファイア!」


 土の壁が炎に包まれる。


「ウォータ!」


 大量の水が、火に包まれる土の壁に落下する。


「ウィンドスラッシュ!」


 脆くなった土の壁が、無数の風の刃で切り刻まれた。


「まあ、最低合格ラインってところだな」


 俺は死んだ魚のように濁った眼をするミユに、そう告げた。


「……ありがとうございます。師匠」


 この十日間、ミユは人間の尊厳と引き換えに多少の強さを手に入れたのだ。


「よし、帝都に帰るぞ」

「……はい」


 力を手にいれるために代償を払ったと考えればいい。そのおかげで自衛くらいはできる腕前になっているのだ、ミユも満足だろう。




 帝都の門で二時間待って入門し、スラムのミユの家がある場所へ向かった。

 人通りが一旦切れ、まるで人種が変わるように街並みが変わった。


 もうすぐミユの家というところで、建物角に隠れるように止まった。


「何人いるか分かるか?」

「……はい。三十人です」

「惜しい。三十一人だ」


 ミユが数を数えられないのではなく、一人が巧妙に気配を消しているだけだ。ミユもまだまだだな。


「ミユが全員始末するんだ。できるな」

「はい。お任せください」


 俺たちは建物の角から出て家へ近づいていく。

 そこには四人が立っていた。一人は怪我が酷かったのか、きてないようだ。


「金は持ってきたか」

「あの時はよくもやってくれたな」

「なんだ、足りなかったか? せっかく五体満足に帰してやったのに、変な性癖でもあるのか?」

「うるせっんだよっ! 今日はあの時の礼をしっかりさせてもらうぜ」


 男たちがわらわらと出てくる。


「ずいぶんと大げさな歓迎だな」

「その余裕がいつまで続くか見ものだぜ。ぶっ殺してやる!」

「お前たちの相手をするのは俺じゃない」


 ミユが前に出る。


「ギャハハハ。おめぇ、ミユじゃねぇか。まだ殴られ足らないようだな!」

「お前、よく見ると綺麗な顔をしているな。いつも薄汚れていたから分からなかったぜ」

「せっかくだ、今度は娼館に沈めてやるよ。せいぜい稼いでくれや」

「その前に俺たちが味見をしてやるぜ。ギャハハハッ」

「「「ギャハハハッ」」」


 ミユのような子供に欲情するとか、こいつらはロリコンか。

 まったくどうしようもない奴らだ。


 男が一人前に出てきて、ミユに手を伸ばす。


「ストーンバレット」

「ギャァァァァァァァッ」


 男は下腹部を押えて地面に転がった。

 殺すのは簡単だが、殺しては後悔させることができない。それに、俺が要求した金も回収できない。

 だから、死なない程度に無力化する。一番効率がいいのは、逆らえない程度に痛めつけることだ。


「てめぇ、このアマッ!?」

「ぶっ殺されてぇのか!?」

「簡単に死ねると思うな!」

「……ストーンバレット」

「「「ギャァァァァァァァッ」」」


 三人が地面に転がると、仲間をやられて殺気立ったヤツらが飛び出してきて、ミユに攻撃をしかける。


「ぶっ殺せ!」

「「「応!」」」

「ウォータ」


 ドンッと地面を揺らすほどの水が地面に降り注いだ。

 クレフォたちはその水に押しつぶされ、流された。


「ストーンバレット」


 ミユは倒れているヤツの股間を、容赦なく石の弾丸で撃ち抜く。阿鼻叫喚の光景が広がる。


「師匠。もう一人はどこでしょうか?」

「なんだ発見できないのか。教えたらミユの成長に繋がらないから、自分で探してやれ」

「分かりました」


 ミユは周囲を油断ない目で見渡す。

 そいつは建物の陰からこちらを窺っているようで、姿は見えない。


「あ、いました!」


 ミユが集中して魔力感知を行ったことで、そいつを発見したようだ。


「ウィンドスラッシュ」


 見えない刃が建物を切り刻む。

 ここら辺はミユの地元だから、人が住む家は把握しているはずだ。あの建物に、人は住んでいないのだろう。


「ちっ。この野郎!」


 男が倒れ込むように飛び出してきた。

 あのままなら、建物ごと切り刻まれていたから、良い判断だ。


「この俺の気配を探り当てるとは、やるな!」


 立ち上がった男は、右手に短剣を持って構えた。

 なかなか堂に入った構えだ。


「俺は元四級冒険者だ。嬢ちゃんに負けるつもりはないぜ」

「………」


 ミユは反応しない。


「ストーンバ―――」

「うりゃっ」


 ミユが魔法を発動させようとした瞬間、男は煙幕を張った。

 ミユはお構いなしにストーンバレットを発動させる。


「グッ」


 男の唸り声が聞こえた。


「ウィンド」


 風で煙幕を吹き飛ばすと、男は倒れて右の太ももを押えていた。

 煙幕を張られたことで、狙いが少しずれたようだ。


「ストーンバレット」

「ギャァァァァァァァッ」


 ミユは容赦なく、その男の股間を撃ち抜いた。

 俺が容赦するなと言ったことを、ちゃんと守っている。いい子だ。


「さて、お前の仲間は皆無力化されたが、このまま死ぬか?」


 最初に無力化した四人の前に立って、一人の顔を踏みつける。


「ヒィィィィッ」

「俺は二千万Zを持ってこいと言ったが、持ってきてないんだろ」


 四人は涙を流しながら何度も頷く。


「仕方がない。お前たちの上司に責任をとってもらうか」


 ここまでやったらこの『バルデオン』というクレフォ組織を潰しておかないと、後から鬱陶しいことになりかねない。

 まあ、一人でも三十人でも面倒になるのは間違いないから、元々『バルデオン』は潰す気でいた。

 もちろん、潰すのは俺じゃなく、ミユだけど。


「お前たちのボスはどこにいるんだ?」


 男たちは目を泳がせて答えようとしない。


「あのさ、俺は無駄足を踏まされ、正直言って怒っているわけ。言わないなら言わなくてもいいけど、死ぬ覚悟はあるんだろうな?」


 ベキッ。

 男の左腕を踏み潰す。


「ギャァァァァァァァッ」

「人の金を奪ったヤツを殺しても罪にはならない。それくらい知っているよな? お前たちの生殺与奪は、俺次第だ。それくらいも分からない愚か者ばかりか」


 これはどの国でも同じだから、俺がこいつらを殺したところで罪に問われることはない。

 こいつらはそれを知っているから、覚悟はできているのだろう。(多分)


「次は左腕だ。答えたくなければ好きにしろ。まだ両足もあるし、最後は頭だ。それに他にもまだたくさんいるから、お前が喋らなくても問題ない」


 それにミユもボスの居所を知っているかもしれないし。


「言います! 言いますから助けてください!」

「さっさと言え」

「はい。アルリッツという娼館です。そこにボスがいます」


 俺はミユにその場所を知っているかと確認する。


「アルリッツなら知っています」

「そこに案内してくれるかな」

「はい。お任せください。師匠」


 ミユについてアルリッツという娼館へ向かう。

 ヤツらはどうしたかって? 放置に決まっている。仮に動けたとしても、役には立たんからな。まさに立たないけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る