第28話 苦行

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 第28話 苦行

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 俺はミユの案内で、帝都近くの川辺にやってきた。


「これからミユに魔法を教える」

「魔法!? わ、私は魔法が使えるのですか?」


 ミユには多くの魔力がある。量でいえば、封印が解かれる前の俺と同じくらいだ。

 これまでの経験で、それだけの魔力があれば四級冒険者になれるくらいだ。ミユの努力次第では、三級以上も夢じゃないだろう。


 それに魔力操作を繰り返すことで、魔力量は増やせる。

 俺は生まれた直後から訓練して、魔力量を増やしてきた。これまで魔力操作をしたことのないミユが、長年訓練してきた俺とほぼ同じ魔力量を持っているのだから驚愕ものだ。

 それを考えると、ミユは間違いなく素質の塊なのだと思う。


「使えるが、それはミユの努力次第だ」

「は、はい。私、なんでもします!」

「一度訓練を始めたら、途中で投げ出すことは許さん。その覚悟を忘れずに、やりぬいて見せろ」

「はい!」


 最後まで我慢できれば、冒険者でも騎士団でも、どこでも通用するくらいにはしてやる。


「今後、俺のことは『師匠』と呼べ」

「はい、師匠!」

「それから、今後の返事は『はい』か『分かりました』だ。それ以外の返事はするな」

「は、はい!」

「よし、早速始めるぞ」

「はい!」


 魔法を使うには、いくつかのやり方がある。

 多くの魔法使いは詠唱魔法を使う。だが、俺は詠唱魔法になんの魅力も感じていない。

 俺が使うのは想像魔法だ。


 想像魔法は頭の中でイメージしたものを、魔法として具現化するものだ。

 詠唱魔法では威力や射程距離など全てが型にハマっているが、想像魔法はイメージ通りの魔法を具現化する。つまり自由なのだ。

 自由に魔法が使えるというと耳障りがいいのだが、デメリットもある。要は最初に魔法が使えるまでにかかる時間や努力が、詠唱魔法のほうがはるかに短く簡単なのだ。


「魔法を使うには、まず自分の中にある魔力を感じる必要がある」

「はい」

「これから俺がミユの魔力を動かす。とても苦しい修行だが、根を上げるなよ」

「はい」


 俺はミユの腹部に手を添える。


「はう……」


 女の子の腹部に手を添えているんだから、羞恥があって当然。それがない女の子はビッチだ。


「恥ずかしいのはこれからだぞ」

「え? ……アァァァァァァッ!?」


 ミユの丹田を俺の魔力で干渉する。

 ほんの少し、本当にわずかに魔力を動かしてやると、ミユは悲鳴をあげてその場にへたり込んだ。

 地面が濡れているが、それは見てないことにしてやろう。


「今の痛みは魔力を動かしたため起こった。この痛みを乗り越えないと、魔法使いにはなれない」


 ミユは呆然と空を見つめている。何が起こったのか、まだ分かってないのだろう。


「……え? あ、こんにゃ……」


 ミユが失禁したことに気づき、少女の恥じらいを見せる。


「み、見ないでくだしゃい!」


 噛んでいることにも気づかないようだ。


「またすぐに汚れるんだ。気にするな」

「き、気にします!」


 それからミユは悲鳴と放心を繰り返した。途中から失禁することはなくなったが、これは出すものがなくなったからだろう。


 訓練二日目、朝からミユの悲鳴が何度も起こる。

 彼女が帝都に帰るためには、十日で強くならなければいけない。

 そのためには、多少強引な訓練でもやり遂げないといけないのだ。


 訓練の甲斐があり、二日目の夕方近くになると、ミユは魔力を感じることができるようになった。


「明日からは魔力を動かす訓練をする。今日はよく眠って英気を養え」

「はい……」


 ミユが受けているのは、並みの訓練ではない。

 詠唱魔法ならこんな苦行をしなくていいのだが、あれは想像魔法の劣化版だ。そんな魔法を覚えても彼女のためにならない。

 辛くてもこの訓練をやり遂げることで、ミユはそこら辺の魔法使いなど足元にも及ばない魔法使いになれるのだ。


 三日目、朝からミユの悲鳴が轟く。

 魔力を動かすということは、血管に固形物を押し込むようなものだ。

 想像を絶する痛みがミユを襲っていることだろう。


「ギィィィィィヤァァァァァァァァァァァァァッ」


 魔力を感じる訓練よりも痛みの度合いは数倍、もしかしたら数十倍違う。そんな痛みを我慢しなければ、想像魔法は手に入れられない。

 詠唱魔法が全盛になったのは、こういった非人道的な訓練をしなくてもいいからだろう。軟弱なヤツらめ。


 三日目と四日目のミユは、何度も絶叫し、気絶し、……漏らした(詳しくは言わないが、小だけではない)。


 五日目、ミユは昼前に魔力を動かせるようになった。

 ただし、まだ腹部の周辺だけだ。これを全身に動かせるようになることが次の目標だ。


「いいか。まだ魔法使いになったわけではない。ここで気を緩めたら、これまでの辛い思いが無駄になる。気を引き締めてこれからの訓練に望むんだ」

「はい」


 ミユの目はハイライトを失っているが、まだ意識があるから大丈夫だ。


「キィィィィィィッ」


 白目を剝きながら、ミユは叫ぶ。

 午後からの訓練は、魔力を全身に巡らせるものだ。痛みはさらに酷くなる。


 今のままでは間に合わないかもしれない。もっとペースを上げる必要があると感じた俺は、夜になっても訓練を続けた。


「ヒィィィィィィィィィィィィィィィッ」

「ギャァァァァァァァァァァァァァァッ」

「イィィィィィィィィィィィィィィィッ」

「ヒャァァァァァァァァァァァァァァッ」


 夜遅くまでミユの悲鳴が響き渡るのだった。


 六日目の朝、ミユを叩き起こして訓練を始める。


「ヒィィィィィィィィィィィィィィィッ」

「ギャァァァァァァァァァァァァァァッ」

「イィィィィィィィィィィィィィィィッ」

「ヒャァァァァァァァァァァァァァァッ」


 六日目も夜遅くまで訓練した甲斐があり、七日目になるとミユは自力で魔力を全身に巡らせることができるようになった。


「アハッ。イヒヒヒ」


 魔力循環ハイになったミユは、喜々として循環を繰り返す。

 魔力循環は魔力を放出しているわけではないから、本人の根気があればいつまででもやっていられる。


「もっとスムーズに魔力を循環させるんだ」

「ハァァイィィ」


 ミユの魔法使いの訓練はギリギリ間に合うかどうかといったところだ。

 ミユのやる気に期待しよう。


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