第27話 クレフォ
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第27話 クレフォ
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「で、お前をこんな目に遭わせたのは、どこのどいつだ?」
「このスラムの人たちです……」
どこのスラムにも犯罪者や脛に傷持つヤツが集まった組織が存在する。
地域によって呼び名は変るが、この帝都だとクレフォと言うらしい。
帝都のスラムともなると大きく、クレフォ組織が複数あるようだ。そのうちの一つ『バルデオン』の構成員三人が、ミユから金を奪うために暴行を加えたらしい。
「そいつらの顔に見覚えはあるんだな?」
「はい。私もこのスラムに住みますから、『バルデオン』のメンバーの顔は大概知っています」
どのクレフォがスラムのどの辺りを縄張りにしているか把握してないと、ここでは生きていけない。
それにこの辺りは『バルデオン』の縄張りで、ミユたちは毎月決まった額を上納していた。
だからミユを襲った三人のことは、ミユもそれなりに顔を知っていったのだ。
「それで、ミユはこれからどうするんだ?」
「どうする……とは?」
「このままここで暮らしても、ミユはまたそいつらに搾取されんるんじゃないか」
「………」
ミユが俯く。ここでは、それが普通なんだ。そこから抜け出したいと皆が足掻くが、簡単なことではない。
「俺が言ったことを覚えているか」
「え?」
「助けがほしい時は、俺を頼ってこい。俺はそう言ったはずだぞ」
「でも……」
「俺を巻き込むのが心配か」
ミユはコクンと頷いた。
「お前、俺を舐めているのか?」
「え?」
「町を一つ滅ぼせるほどモンスターを倒せる存在、それが三級冒険者だ。スラムのクレフォが千人集まっても太刀打ちできない。そういった理不尽な存在なんだよ、三級冒険者はな」
「い、いのですか?」
「そう言っている。だが、やるのはミユだ。俺はチンピラ如きが太刀打ちできない程度に、ミユを鍛えてやる。ただし、俺は優しくないぞ。死んだほうが良かったと後悔するかもしれない。それでもやるか?」
「我慢はできます。でも、私は強くなれますか?」
「我慢できるんなら、強くしてやる」
「します! 私、我慢します! ですから……私を強くしてください!」
「その言葉、忘れるなよ」
「はい!」
「よし、荷物をまとめろ。これからはこんなところに住む必要はない」
「はい!」
彼女の荷物はとても少なかった。背嚢一つで運べる。それがミユの荷物だ。
まあ、こんな掘立小屋に住んでいると、置いておけるものなどたかが知れている。もし金になるようなものを置いていたら、次の日にはなくなっていることだろう。
「さて、ミユ」
「はい」
「俺の後ろにいろよ」
「はい?」
家を出ると、そこには五人の男がいた。
魔力感知で把握していたし、殺気を感じていたから動揺はない。
「へへへ。お前が金持ちのガキか」
「どこをどう見たら、金持ちに見えるんだ?」
俺は金属でところどころ補強された革鎧を身につけており、どう見ても冒険者だ。
駆け出し装備ではないが、高級装備というわけでもない。
これで金持ちと言うのなら、世の中の多くの人が金持ちだと思われる。
「あのアマに金を渡していただろ」
「ミユの金を奪ったのは、お前たちか」
「そういうことだ。大人しく金を出せば、痛い目を見ずにすむぜ。ボンボンさんよ」
「『バルデオン』か」
「俺たちが『バルデオン』と分かったんなら、大人しく金を出しな」
ここが『バルデオン』の縄張りだから、五人は強気だ。
ナイフで俺の頬をピタピタと叩いた男に、俺は拳を突き出した。
「ぐはっ」
男が崩れ落ちる。しばらくは足にきて立てないだろう。
「てめぇ!」
「やりやがったな!」
「ぶっ殺してやるぜ!」
「ガキが粋がるなよ!」
四人が攻撃してくるが、こいつらの動きはまっるでなってない。こんな動きでは、ゴブリンにだって勝てないぞ。
ナイフを躱してはカウンターを入れていく。
「ぐあっ」
「ぶべらっ」
「ひゃっぱ」
「うっ」
五人は地面に這いつくばって立ち上がることができない。
「お前たちの顔は覚えた」
「うぅぅ、なんだと……」
「十日だけ待ってやる。二千万Zを持ってこい。もし持ってこなければ、次はその鼻と耳を削ぐ」
「お、俺たちは『バルデオン』だぞ」
「だからどうした? 言っておくが、俺は甘くないぞ。地獄の果てまで追いかけるからな」
「ふざけるなっ」
叫ぶように怒鳴った男の鼻と耳を削ぐ。
俺が剣に手をかけたのは分かったようだが、こいつは何をされたか分かってない。気づいた時には、鼻と耳がボトリと地面に落ちたのだ。
「ギャァァァァァァァッ」
「うるさい」
頭部を掴んで放り投げると、建物の壁を突き抜けた。うるさかった声は聞こえなくなった。
「言っただろ。俺は甘くないと」
「「「「ヒィィィィッ」」」」
「ミユから奪った金、二千万Zを十日後に持ってこい。いいな」
「お、おれたちは五百万しか奪ってないぞ!」
「お前はバカか。他人から金を借りたら利子がつくんだよ。そんなものクレフォでも理解できるだろ。利子は十日で十割だ。十日後に二千万を持ってこないとドンドン増えるからな」
こんな利子、クレフォでもないくらいの高利だが、こいつらは犯罪者だから衛兵に訴えることはできない。
衛兵とグルということもあるが、その際は闇から闇に始末すればいい。
「そ、そんな利子なんて聞いたことないぞ!」
「クレフォが何甘えてるんだよ?」
「十日で十割なら、五百万じゃないか! 二千万なんてありえないだろ!」
「お、計算できるんだな、お前」
揚げ足取りが上手くいって、その男がニヤリとした。
「あとの一千万は治療費だ。ミユはあとちょっとで死ぬところだったんだ。治療費を一千万で済ませてやる俺の優しさをありがたく思えよ」
「「「「そんな!?」」」」
四人は驚愕の表情をする。
「十日後のこの時間にここに二千万Zを持ってこい。それで手打ちにしてやる。持ってこなければ、徴収にいくからな」
「「「「………」」」」
一人の男の腕を踏み、骨を折る。
「ギャァァァァァァァッ」
「返事は『はい』か『分かりました』だ。黙秘は許さん」
そんな理不尽なと思っているんだろ? それは、今までお前たちがやってきたことも同じことだ。
とことん追い込んでやるから、安心しろ。
「返事は!?」
「「「「ハイィィィッ」」」」
怒鳴るように聞くと、男たちは悲鳴のような声で答えた。
「ミユ。いくぞ」
「は、はい……」
おずおずと家の中から出てきたミユは、タタタと俺の後ろに隠れた。
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