第26話 お宅訪問

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 第26話 お宅訪問

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 ニードルビーのハチミツは、とても甘いがしつこくない。さらに魔力回復や体調を整える効果もある。

 ハチミツを採るには巣を壊す必要があり、万を超える数のニードルビーをなんとかしなければいけない。これがネックになり、滅多に手に入らないものだ。

 おかげで十リットルで五百二十万Zになった。俺が持つ二十九本を売ったらいい値になるが、売る気はない。


 宿で夕食を食べた後、自室でデザートのアイスクリームにハチミツをかけて食べる。


「あああ、美味い!」


 いかん、いかんよ。こんなに美味いと止まらないじゃないか。

 思わず三杯食べてしまった。




 日が変わって、ギルドへ向かう。

 ハチミツはしばらく大丈夫だから、今日は二層へ行きたいものだ。


 ミユを探してポーターのところへ。

 ん、ミユがいない。

 少し早くついてしまったようだ。


「………」


 一時間待ったが、ミユはこない。

 今日も遺跡へ行くと約束したのに、どうしたのだろうか。

 大金が手に入って、舞い上がってしまったか?


「ちょっといいかな」

「ん、なんだ?」

「ミユを探しているんだ」

「ああ、昨日の少年か。ミユなら今日はきてないぞ」

「どうしてだ?」

「そんなことは知らないぜ。休むのはそれぞれの勝手だからな」


 そうなのだが、約束を破るような子ではないと思っていたんだがな。


「ミユを待っているようだけど、あいつはこないぜ」


 気の強そうな少年が、俺の隣に座って呟いた。


「なぜミユはこないんだ?」

「あいつ、怪我をしたんだよ」

「怪我?」


 昨日、別れる時に怪我をしていなかった。怪我をしたとなると、その後だ。


「よく分からないが、夜になってボロボロになって帰ってきたんだ。腕やあばらが骨が折れているから、かなりヤバいと思うぜ」

「ヤバいって、治療はしてないのか?」

「俺たちのような親なしに、治療の代金が払えるわけないだろ」


 昨日大金が手に入ったんだ。治療くらいできるだろ……。

 まさか……金を盗られたのか。それで大怪我を追わせられた……。そう考えると、しっくりくる。


「ミユの家はどこだ?」

「それを聞いてどうする? あんたがミユを引き取って面倒を見るというのか?」


 少年の目が鋭くなる。


「治療くらいはしてやる」

「無駄だ。俺たちのようなヤツは、一度目をつけられたらとことん搾り取られるんだよ。今回の怪我が治っても、すぐに同じことになる」


 全くもってその通りだ。


「それでもだ」


 少年は大きく息を吐いた。


「スラムの―――」


 俺は少年に礼を言い、立ち上がった。


「面倒を見るなら、最後までやってくれよ」


 俺は答えず歩き出した。


「最後までか……それはミユ次第かな」


 ギルドを出て串焼きやサンドイッチなどを買いながらスラムへと進んだ。

 二十分も歩くと、街並みが明らかに変わった。

 華やかな帝都にも、こんな暗い雰囲気の場所がある。帝都の闇と言うべき光景だ。


「おい坊主げひゃっ……あぁぁぁ……」


 角から俺の腕を掴もうとした男の股間をストーンバレットで撃ち抜く。


「今の俺は機嫌が悪いんだ、邪魔するな」


 スラムがどういうところか、俺のような逃亡生活をしていたヤツなら誰でも知っている。

 こういうヤツらは、言葉でなく拳で語らなければ理解しない。

 いつもは意識を刈り取る程度で済ませるが、今は手加減する気にはなれない。


「ガキうぎゃぁぁぁっ」

「このぎゃぁぁぁっ」

「何さグギャッ」


 出てくるヤツは全員股間を撃ち抜く。

 腕や足だと反撃する奴もいるが、股間を撃ち抜くと滅多なことでは反撃してこない。それに、放置すれば別だが、通常は股間を失った程度では死ぬことはない。

 手加減はしないが、殺すほどこいつらが憎いわけではないからな。もっとも、男としては死んだかもしれんが。


「ここか」


 まさに掘立小屋だ。


「邪魔するぞ」


 声をかけてボロ布で仕切られた入口を入る。

 隙間ばかりの小屋の中は、うす暗い程度で視界はある。

 ミユは床に倒れるように寝ていた。


「おい、ミユ。大丈夫か」


 抱き起こすが、ミユは五歳の子供のように軽かった。

 あの少年の言っていたように、腕やあばら骨が折れている。息が弱く、もう長くはないだろう。


「酷いことをする……ハイヒーリング」


 以前の俺は、回復系の魔法は使えなかった。

 だが、オークデスピア戦時に前世の記憶を思い出し、回復魔法の使い方を思い出した。思い出しただけで使えるものではないが、封印が解除された後の俺はどんな属性の魔法でも使える気がしている。


 今回は重傷だったからハイヒーリングを使ったが、軽い傷ならライトヒーリング、中程度の傷ならヒーリングで十分だ。


「う、うぅぅぅ……」


 ミユの目が開いていく。


「お兄ちゃん……?」

「ゼイルハルトだ」

「……え? ゼイルハルトさん!?」


 ミユの意識が急速に覚醒していった。


「なななな、なんでゼイルハルトさんが!?」

「ミユが怪我をしたと目つきの鋭い少年に聞いてやってきた」

「あ……腕が治ってる? それに脇も痛くない」

「治療したから、もう大丈夫だ」


 ミユの目に涙が溜まっていく。


「うぅぅぅ……ありぎゃどうぎょぜいばず(ありがとうございます)」


 ミユは俺に縋りついて泣いた。

 こんな少女に酷いことをするヤツは、許せないな。


「私、ゼイルハルトさんに謝らないといけません」


 泣きながら、何やら謝罪があるのだとか。


「ゼイルハルトさんにいただいたお金を、盗られてしまいました」

「このような事態になることは十分に予測できた。なのに、不用意にミユに大金を渡した俺のほうが悪いんだ。謝るのは俺のほうだ」

「そんなことはないです!」

「……そうだな。悪いのは、金を盗ったヤツだ。ミユも俺も悪くない」


 そういうことで、ミユを納得させる。

 実際、その通りなんだけど。


「腹減っただろ、これを食え」


 サンドイッチと串焼きをストレージから出す。


「でも……」

「ミユに食べさせるために買ってきたんだ。食べてもらわないと困る」

「……ありがとうございます」


 お腹が空いていたようで、ミユは涙を流しながら無言で食べた。


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