四章

第24話 遺跡へ行こう

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 第24話 遺跡へ行こう

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【瞬撃の旅団】と飲んでいたら、いつの間にか昼を過ぎていたことに気づいた。


 バーサスは五杯飲んでベロンベロンに酔って途中から寝てしまった。


 ラングスターさんは十杯以上飲んでも平気だった。今も飲み続けている。


 イニスさんは自分の酒量を知っているようで、二杯飲んだら宿で休むと出ていった。


 モーラさんは最後まで付き合ってくれたが、エールは最初の一杯だけで、二杯目からは果実水を飲んでいた。


 このパーティーは、ダメなリーダーを三人が支えている。そういった仕組みが成り立っているようだ。

 女性陣がしっかりしているから、四十前になったら無事に引退できると思う。そして、ギルドのそれなりのポストに収まっている未来が見えるようだ。




 翌日、今日こそは遺跡に入ろうとギルドにやってきた。

 バーサスたちはいないか。

 まあいい、今日はバーサスと遊んでいる時間はない。遺跡探索したいからな。


 俺はポーターたちが売り込みをしている場所へ向かった。

 ポーターは冒険者ギルドに登録する必要がある。モグリのポーターを雇うと、冒険者にも罰が与えられる。

 それだけ遺跡が危険な場所だから、無理矢理誰かをポーターにして遺跡に連れ込まない対策がとられているのだ。


「ポーターを一人雇いたい」


 ポーターは個人で売り込みの声をあげているが、俺たち冒険者は直接ポーターに声をかけてはいけない。

 帝都のギルドは知らんが、他の地域のギルドではそうなっている。

 ただし、指名はできる。その際も直接声をかけるのはダメだ。必ず冒険者ギルドの仲介人を介さないといけない。


「パーティーか? ソロか?」

「ソロだ。初めて入るから、深い層にはいくつもりはない」

「紹介料一万ジル、ポーターへの日当は八千Z、あとは売却益の三パーセントだ」

「了解だ」

「おい、ミユ! この冒険者につけ!」


 随分と乱暴な言葉遣いだな。

 ポーターを下に見る冒険者はよくいるが、ギルドの職員は冒険者もポーターも平等に扱うものだ。

 これはどの地域のギルドでも同じはずなんだが、帝都では違うというのだろうか。


「は、はい」


 俺と同じくらいの年齢の女の子が出てきた。随分と痩せており、これで荷物持ちの仕事ができるのだろうかと心配になる。


「ぐずぐずするな」

「はい!」


 ミユと呼ばれた少女は、大きな背嚢を背負っているが、まだ中身はない。中身は俺が買って持たせるからだ。


「紹介料だ」


 職員に一万Zを支払い、ミユを連れてギルドを出る。


「歩きながらだが、俺はゼイルハルト。よろしくな」

「は、はい。私はミユといいます。よろしくお願いします」


 彼女はオドオドしている。


「俺は帝都は初めてなんだ。遺跡へ案内を頼む」

「はい……」

「ん、どうした?」

「あの、水や食料は……」

「俺は収納カバン持ちだから、水と食料は大丈夫だ」

「え? それだとポーターの仕事が……」

「さっきも言ったが、俺は帝都にきたのは初めてなんだ。だから君に望むことは遺跡までと、遺跡内の案内だ」

「私……遺跡の二層までしか入ったことないですが……」

「初めてだから、それで構わない。日当も歩合も約束した分を払うから、安心していい」

「ありがとうございます」


 ミユと話をしながら、遺跡へ案内をしてもらう。

 帝都を出ると、森へと入っていく。遺跡への道が森の中にあった。

 遺跡へ向かう冒険者、帰ってくる冒険者が多い。


 二キロほど歩いたか、遺跡の前にバザールができていた。この光景は他の遺跡でもよく見るものだ。


「何か買われますか?」

「美味しそうな匂いがするな。ミユは何か食べるか。奢るぞ」

「遺跡のバザールは帝都内で買うより高いので……」

「そんなことは気にするな。好きなものを選んでいいぞ」


 ミユは目をキラキラさせて店を覗いている。

 彼女はあまり食べてないようで、かなり痩せている。そのせいで、体力もあまりないと見受けられる。


「あの、これを……」

「おう。それを四つもらう」

「あいよ。四つで四千Zだ」


 肉の串焼きが一本千Z。多分、帝都内で買うならこの半分くらいの値段だ。

 だが、割高なのは承知している。四千Zを支払い、四本を受け取る。


「ほら、食べろ」


 三本をミユに渡す。


「え、でも、三本も……」

「食べきれなければ、持って帰ればいい」

「いいのですか?」

「これでもそこそこ稼いでいるから、問題ない」

「ありがとうございます!」


 ミユは小さな口で肉を食べていくが、慌てて食べたことで咳き込んだ。

 木のジョッキに水を注いで彼女に渡すと、一気に飲んだ。


「今、水が……魔法ですか」


 涙目で苦しそうにそう聞いてくる。


「魔法が珍しいのか?」

「あ、いえ。遺跡の中では飲み水を魔法で出すことはないものですから……」


 遺跡内はいつモンスターに襲われるか分からない場所だ。

 だから魔法使いは魔力を温存するために、こういった魔法の使い方はしない。いざという時に魔力がなくなっていたら、命に係わるからだ。


「俺は魔力が多いから、大丈夫だ」


 彼女はホッと胸を撫でおろした。

 ミユは肉串を一本食べ終わり、二本は丁寧に葉に包んで背嚢にしまった。


「本当にありがとうございます」

「ふらついていては、遺跡の案内どころじゃないだろ。しっかり食べているのか」

「……あの、私は稼ぎが悪くて」

「まあ、想像していたままの答えだな」


 このままだと彼女はほぼ間違いなく死ぬことになるだろう。遺跡は歩くだけでふらつくようなポーターが生き残れるほど甘い場所じゃないのだ。


「助けがほしい時は、俺を頼ってこい」

「え?」

「俺はこれでも三級冒険者だ」

「ええ?」

「ミユを助けることくらいできるが、それは君がそうしてほしいと思うことが、第一歩だ。人に助けを求めることは悪いことではない。よく覚えておくことだ」


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