第22話 帝都のあるある

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 第22話 帝都のあるある

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 貴族街は無事に出ることができた……?

 まあ、貴族街と平民街を隔てる門を出るまでに四時間かかったけど。


「怪しい奴め」


 ドラグア伯爵家のメダルを見せても、俺のような冒険者のガキがメダルを持っているのはおかしいということになった。

 取調室に押し込められ待っていたら、ドラグア伯爵家の騎士がやってきて身元がはっきりして解放された。


「今度からは服装には気をつけたほうがいいね」


 ドラグア伯爵家の騎士は俺と共に伯爵を護衛してきた人だった。


「服装だけじゃないですよ。俺が子供だからとこの人たちは侮っていたと思います」


 俺は衛兵に聞こえるように言う。

 衛兵らは俺を睨んでくるが、謝罪の一つもないのだから俺が折れる理由はない。


「それはあるだろうが……」


 騎士は顔を寄せて小声で言う。


「当家より衛兵総監に苦情を言っておくから、機嫌を直してくれ」


 衛兵は貴族の子弟の集団らしく、穏便に済ませてほしいと、騎士が申しわけなさそうな顔をする。


「分かりました。服装も次は気をつけますよ」

「すまないが、そうしてくれ」


 外に出ると、日がかなり傾いていた。

 平民街を歩いていると、夜の帳が降りてしまった。どこに宿があるんだよ?

 しまったな。こんなことなら、さっきの騎士に宿の場所を聞いておけばよかった。


 引き返すわけにもいかず、できるだけ大通りを歩く。

 大通りなら宿の一軒や二軒はあるだろう。


「帰った、帰った。ここは上流階級の方々が泊まる宿なんだ。そんな恰好で入ってこられたら困るんだよ」


 宿を見つけて入ったら、けんもほろろに追い出された。

 冒険者の革鎧は正装だ! 文句あるか!?


「腹減ったな」


 ストレージの中に入れてある料理を出して食べてもいいが、なんか負けた気がする。

 その時、俺の鼻をくすぐるいい匂いがした。その匂いを辿っていくと、目立たない場所に宿があった。


「食堂じゃないのか。だが、宿はありがたい!」


 さっそく入ってみた。


「いらっしゃいませー。食事ですか? それとも泊りですか?」


 女将と思われる、三十代の女性が出てきた。


「両方です」

「うちは素泊まりで、食事は別途もらっています。大部屋は一泊九千Z、一人用の個室は一万五千Zになります」

「個室でお願いします」


 俺は一万五千Zを払った。

 部屋に案内してもらいカギをもらうと、さっそく食堂へ向かう。


「セットの肉はオークとフットラビットがあり、魚はディルの燻製になります」


 十八歳くらいの少女がウェイトレスで、注文を取りにきた。

 大きい……。何とは言わないが、大きいのはいいことだ。


「それじゃあ、フットラビットのセットで」

「飲み物は要りますか? エールかワインがあります」

「エールを」

「前払いで合計千八百Zになります」


 前払いシステムは珍しくない。

 俺は二千Zを手渡す。


「お釣りはチップです」

「ありがとうございます。ラビットセット一つ入りまーす」


 元気なウェイトレスだ。それに大きいのがいい。何度も言うが、大きいのはいい。

 歩くと揺れるんだ。目の保養をさせてもらったよ。


 食事は普通に美味しかった。

 エールは温かったので、氷魔法のコールドで冷やして飲んだ。

 冷えたエールは各段に美味しくなる。




 朝を迎え、俺は冒険者ギルドへと向かった。

 予想通り、帝都のギルドは冒険者が多い。

 何か依頼を受けようと思ったが、これでは依頼が貼ってあるボードに辿りつくのが難しい。


「あの混雑に突撃する勇気はないな」


 ボードの反対側では、ポーターが必死に自分を売り込んでいる。


「遺跡の三層まで案内できます!」

「俺は多くの荷物を持てるよー」

「遺跡の五層まで、五層だよー!」


 この帝都のそばに遺跡があるのか。

 ここではないが、遺跡には何度か入ったことがある。

 遺跡は俺が前世で暮らしていた都市かもしれないが、さすがに分からない。


「遺跡に行ってみるか」

「ああん、お前みたいな小僧が遺跡だ? 止めとけ、命を無駄に落とすだけだぞ」


 振り返ると、二十代後半の男がいた。

 燃やしてやりたくなるくらいの、金髪碧眼のイケメンだ。

 いかにも冒険者ですと言わんばかりの多数の傷痕がついた鎧を身につけ、腰にはロングソードを携えている。


「あんた強いだろ。それなのに、子供に絡んで新人虐めか?」

「何!?」


 この男からは強者の臭いがする。

 俺は冒険者証を見せる。


「なっ!? 三級……かよ。あー、悪かった。俺は四級パーティー【瞬撃しゅんげき旅団りょだん】のバーサスっていうんだ。さすがに三級とは思わず、声をかけちまった」


 どうやら、善意から新人の無謀な行動を諫めようとしたようだ。


「俺は三級のゼイルハルトだ。帝都にきたのは初めてだから俺の顔を知らないのも仕方がないさ」

「しかし、その年で三級か。エルフじゃないよな?」


 エルフは長寿の種族だから、俺くらいの年齢に見えても五十歳を超えている。


「いや、普通の人間だよ」

「そうか、悪かったな。詫びに、エールくらいなら奢るぜ」

「格下に奢ってもらうのはあれだから、遺跡のことを教えてほしい。そしたら俺が奢るよ」

「かー、格下って言われると、なんか傷つくわー。まあ、いい。遺跡のことを教えてやるよ」


 ギルドに併設されている酒場でエールを二つと、酒の肴を適当に頼む。


「うんじゃ、いただくぜ」


 木のジョッキをカツンッと合わせ、バーサスは一気に煽る。


「かーっ! 朝から飲むエールは旨いぜ!」


 俺もエールを飲むが、もちろんコールドで冷やしてから飲む。


「ああ、旨い」

「ん、ゼイルハルトのそのエール……なんか違うぞ」


 見た目ではほとんど変わらないのに、よく分かったな。


「魔法で冷やしてあるからな」

「何? ……俺のにも頼むぜ」


 半分以上飲んだジョッキを差し出してきたので、コールドで冷やしてやった。


「うわ、うっめー! これ、すっげーうめーぞ!」


 エールといえば、生温いのが当たり前だ。

 冷やしただけだが、それだけでもかなり美味しくなるのは、雪降る寒い場所を旅をした時に知った。

 あの時は、さすがに寒くて逆に温めたかったくらいだったが。


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