第21話 バーミリオン
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第21話 バーミリオン
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伯爵が騎士に頷く。
「改めて名乗ろう。某はドラグア伯爵家の騎士団長を拝命しているライバート・バーミリオンだ」
やっぱり騎士団長だったか。
バーミリオン団長は、そこまで大きな体をしているわけではない。背丈は百八十センチもないだろう。
ただし、肉体は鍛え上げられているのが、鎧の上からでも分かる。
静養していたらしいが、ブランクを感じさせない覇気を感じる人だ。
輝くような金髪とベビーフェイスのおかげで、実年齢よりかなり若く見られると思う。
「バーミリオンは怪我が治ったら、武者修行をしてくると言って十一カ月も放浪していたのだ。騎士団長という職務をなんだと思っているのだろうか」
伯爵がボヤく。
てか、長期休養ではなく、鍛え直す旅に出ていたのかよ。あんた、自由だな。
「で、本当に当家の功績にしていいのかね?」
ボヤき終わった伯爵が確認してきた。
「はい。俺は面倒なことを伯爵様に押しつけられますから」
正直言って、お金は暮らすのに苦労しない程度にあればいい。それにオークデスピアがオークションで落札されたら、大金が入るのだ。
バンパイア討伐で俺の名前を出すと確実に面倒なことになるから、金よりも静かさを取ることにした。
「当家はバンパイア討伐をなした家として、帝国内でも勇名を馳せ、オークションで大金(半額でも大金)が手に入ると」
「はい」
「分かった。バンパイアはバーミリオンが倒したことにしよう。いいな、バーミリオン」
「ですが、バンパイアに有効な武器を持っていないと、いずれはバレるのではないでしょうか」
そういう話になると思っていた。
「この剣はオヤジの形見なので、さすがに献上するわけにはいきません」
「むぅ、父君の形見か……それでは無理強いはできないな……」
無理強いするつもりだったのかよ。
そんなことしたら、違約金を払ってでもこの依頼を放棄してやるからな。
「その代わり別の剣を献上するのは可能です」
「ん? 聖剣以外の剣?」
だから、聖剣って言うなよ。
「これです」
ストレージから剣を出す。
オヤジの形見の剣より、やや短い剣だ。
「オヤジの形見の剣に聖属性を付与してくれた神官が、同じように聖属性を付与してくれた剣です」
「なんとっ!?」
これ、俺用の剣なんだ。
オヤジの形見の剣と同じ時に聖属性を付与してもらい、アンデッドを斬りまくった覚えがある。
ただし、俺用だからオヤジ用より、付与されている聖属性は弱い。それでも雑魚アンデッドを倒すには十分だったけど。
「その剣は二年前に俺用に造ったものです。十一歳の時ですから、剣としては短く、聖属性もオヤジ用の剣ほど強くありません」
「聖剣を二本も所持……」
伯爵、いい加減にしろよ。聖剣じゃないって言ってるだろ。
「これは聖属性が付与された剣です。聖剣ではありません。そこのところ、間違えないようにお願いします」
「わ、分かった。……本当にこれを献上してくれるのだね」
「ええ、その上でバンパイアの核がオークションで落札された額の半分も受け取ってください」
「それではもらいすぎだ」
「そうでしょうか? 伯爵は面倒な勢力から、俺を守る義務を負うわけです。あいつらの相手は面倒ですよ」
「たしかにゼイルハルト殿の言う通りだ……。だが、ゼイルハルト殿がこの旅に同行しているという情報は、すぐに漏れるだろう。どうだろうか、君とバーミリオンが共闘してバンパイアを倒したということにしないか。そのほうが辻褄が合わせやすいからね。もちろん、バーミリオンが当家が下賜した聖属性の剣で、バンパイアにとどめを刺した、ということで」
たしかに伯爵の提案のほうがいいか。俺はバーミリオン様の陰に隠れることができることになる。
「その提案に乗らせてもらいます」
一番の問題である『聖属性』を伯爵とバーミリオン様に押しつけることができるから、これでいい。
俺が献上した剣を、伯爵はバーミリオンに渡した。
「普段使いはするなよ」
「分かっております」
バーミリオンの剣の腕はかなりのものだろう。剣で戦うなら、俺は勝てない。
もっとも、総合力で負けているとは思わないが。
話がついたので、伯爵から離れて休憩していたら、騎士が駆けていく。
「商隊の被害について、報告したします」
バンパイア討伐後、騎士と兵士たちが商隊の被害状況確認していた。その報告を伯爵にするようだ。
「三商隊が野営しておりましたが、生き残りは合わせて八人でした。死体の数は五十を超えておりますが、切り刻まれて数えるのが難しい肉片も多くありました」
「酷い……」
アンジェラ様が言葉を失っている。若い女性にはとても見せられない光景が、少し離れた場所に広がっているのだ。
「ああ、酷いものだな……」
「一商隊は壊滅、生存者はゼロです。他の二商隊も、共に代表者が殺されていました」
バンパイアめ、殺しすぎだろ。
「次の町まで私たちが共に進んでやるにしても、ついてくることは可能なのか?」
「馬は無事です。ただ、馬車と荷車は全部で十二台ありますが、バンパイアの襲撃で三台が壊れました。また、生き残りが八人しかおりませんので、一台はこちらから人を出さないといけないでしょう」
「分かった。人は出してやれ。それとできるだけ物資は回収しておくのだ。あと、遺体はさすがに多い。遺品を回収してここで埋葬していく」
「はっ!」
俺は遺体の埋葬を手伝った。魔法で大きな穴を掘った。
商隊の生き残りの人と兵士たちが遺体を穴に入れていく。バラバラにされた人も出来るだけ穴に入れてやる。
最後に穴を埋め、その上に墓碑を建ててあげた。
「「「ううう」」」
生き残った人たちが、墓碑にすがるように泣き崩れている。
オヤジを埋葬した時のことを思い出し、もらい泣きしそうになるのを堪えて空を仰ぐ。
いつの間にか空は白んでおり、もうすぐ夜明だ。
次の町に入った。ここも伯爵の領地らしい。
伯爵は町を守る騎士たちにバンパイアが出たと告げ、周辺の町や村、そして街道に被害が出てないか、確認するように指示していた。
旅は順調に進んで予定通り十日で帝都に到着した。
伯爵一行は貴族用の門をノーチェックで通り、帝都の中に入った。
帝都は恐ろしいほど人がいた。俺はこういう人が多いのは苦手だ。
山林で育った弊害だろうか?
「今日は祭りでもあるのですか?」
「ハハハ。帝都はいつもこんなものだ」
あれ以来、俺の横にはバーミリオンが陣取っている。
あの剣をもらえて嬉しいのか、俺に身分を隠す必要がなくなったからなのか、モンスターを嬉々としてなで斬りにしていた。
それ、俺の仕事なんだけど……。
大通りを進むと、また門があった。ここでは簡単なチェックを受けたが、大して時間はかからなかった。
門の先は貴族街だった。
奥へいくほど高位の貴族の屋敷があるらしい。その最奥には、巨大な城がその威容を誇っていた。
帝都に入る前から、帝城は見えていた。正直な感想は『無駄にデカい』かな。無駄かどうか知らんけど。
とにかく、帝都は俺が驚くほど大きく人が多かったのだ。
伯爵の屋敷に到着し、車寄せで伯爵とアンジェラ様の馬車が止まった。
「ゼイルハルト殿。一カ月後に出発する予定だが、その数日前にはこの屋敷に入ってくれ」
「はい。そのようにします」
「当家のメダルを持っていれば、貴族街に入ることはできるから、なくさないように」
「分かりました」
伯爵の次はアンジェラ様だ。
「ゼイルハルト殿。わたくしに会いにきてくださいね」
ただの冒険者の俺が気軽にアンジェラ様に会いにきたら、変な噂が立つからダメでしょ。
「ハハハ」
笑って誤魔化そう。
「ゼイルハルト殿。この剣は大事にする。また一カ月後に会おうぞ」
「はい。一カ月後に」
俺はここでお暇した。
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