第20話 バンパイアを殺すのはそんなに難しくないんだぜ

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 第20話 バンパイアを殺すのはそんなに難しくないんだぜ

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「私を殺す? キシャシャシャ。そんなことが出来るとでも思っているのですか」

「ああ、出来るぞ」

「キシャシャシャ。自信家ですね、あなたは」

「少しは自信がないと、バンパイアの相手なんかできないからな」

「私は死にたがりかと思ってましたよ。キシャシャシャ」

「そんなわけあるかよ。死ぬのはお前だよ、バンパイア」


 バンパイアから笑いが消えた。


「不快、不快、不快、不快、不快、不快、不快、不快! あー、不快ですね。その自信を打ち壊してあげましょう!」


 蹴りを躱す。

 鋭い爪の攻撃の連撃。右に左に躱し、後方へ跳んでも間合いを詰めてくる。

 鋭い攻撃だ。手数も多く、反撃を許さない、俺をしとめるという意志が乗った攻撃だ。

 そして、バンパイアの攻撃をいなしていた剣が砕けた。


「キシャシャシャ。剣が壊れましたね」


 完璧に受け流していたつもりだったが、剣に負担がかかっていたようだ。


「俺もまだまだということだな」

「いえいえ。ここまで私の攻撃を躱してきたのです。誇っていいですよ」


 バンパイアは口角を上げ、踏み出してきた。


「この程度の攻撃を完全に受け流せなくて、誇れるわけないだろ。恥ずかしさでいっぱいだよ」

「生意気な人間ですね」

「お前は、人間を舐めすぎていると思うぞ」

「そんなことはありませんよ! 私を本気にさせたのだから、誇って死んでいきなさい!」


 バンパイアが踏み込んだ。


「さっきより速い!?」

「キシャシャシャ」

「でもそれじゃあ、俺に届かないな」

「………」


 勝ち誇ったバンパイアの表情が、戦慄に歪む。


「な……んですか……これは……?」


 バンパイアの胸に剣が刺さっている。

 確実に心臓を貫いたその剣は、薄っすらと光っていた。


「俺の剣が一本だと言った覚えはないぞ」


 ストレージの中には、当然ながら予備の剣が入っている。

 だが、この剣は予備ではない。これは、オヤジの形見の剣だ。


「この剣はちょっと特殊なんだよ」

「この痛みは……」

「ああ、聖属性が付与されているものだ」

「ば……バカな……聖属性を剣に付与するなど、そんなことが……それではまるで……聖……剣……」

「これは以前オヤジがリッチと戦うために、特別に造ったものだ。ある神官の祈りが込められた特別製でな」


 オヤジが臨時にパーティーを組んだ神官が、十日間寝食を忘れ祈りを込めた剣だ。


「カハッ」


 バンパイアが血を吐き、恨めしそうに俺を見る。


「ぬかりました。あなたの勝ちです。ですが、バンパイアは私だけではないのですよ」


 バンパイアの体が徐々に崩れていく。


「私を殺したあなたは、バンパイアから狙われることでしょう」

「それはありがたいな。バンパイアの核はいい値で売れるんだよ。そっちから来てくれるなら、俺は大歓迎だ」

「そんな軽口を叩いていられるのも、今のうちです……。あなたは……これから……本当の恐怖を知るのです……。ククク」


 バンパイアの体は完全に崩れ去り、血のように真っ赤な核が残った。

 魔石とも言われるこの核は、モンスターの位階が高いほど強い力を内包している。

 バンパイアの魔石には、他のモンスターよりも強い力が内包されており、さらに希少性もあって価値が高い。





「ゼイルハルト殿。バンパイアだったと聞いたが、討伐できたのかね?」


 野営地に帰ると、ドラグア伯爵が馬車から出てきた。


「はい。討伐しました」

「しかしバンパイアは極めて再生能力の高いモンスターだ。どうやって倒したというのだね?」


 オヤジの形見の剣は、軍監の騎士に見られている。隠しても分かるなら、隠す必要はないだろう。


「この剣は?」

「聖属性が付与された剣です」

「ま、まさか、聖剣!?」

「そんな大層なものではないです」


(聖属性が付与された剣なんて、聖剣以外に聞いたことがないのだよ。ゼイルハルト殿はそこのことを分かっているのか?)


「抜いて見せてもらってもいいかね」

「はい」


 俺は鞘から完全に抜くのではなく、二十センチほど引き出して見せるようにした。

 これは貴族相手に剣を見せる時の礼儀だ。


「なんと美しい輝きなのだ」

「こんな剣があるのですね、お父様」

「ああ、これはまさしく聖剣だ」


 いや、聖剣じゃないって。

 これを聖剣と言うと、面倒くさい奴らが寄ってくるんだよ。

 神殿とか、教会とか、教会とか、神殿とかが。


「ゴホンッ。その剣で、バンパイアを倒したのかね」

「はい。これが核です」


 真っ赤な核を見せる。


「まあ、綺麗! これがバンパイアの核なのですね!」


 アンジェラ様が言うように、バンパイアの核は宝石のように美しい輝きを放っている。

 その美しさから、装飾品にする人もいるほどだ。


「その核を買い取りたいところだが、今は時期が悪い」


 戦争で騎士団に大きな打撃を受け、森にはオークデスピアのような魔王種がいた。

 ドラグア伯爵家はこういったものにお金をかけるより、騎士団の立て直しに注力する方針なんだろう。


「帝都のギルドでオークションに出すべきであろうな。今回はオークデスピアを出品していることから、その次に開かれるオークションに出品するのがいいだろう」


 帝都のオークションは毎月行われており、同じオークションで高額出品がいくつもあると、金額が上がりにくいと伯爵は教えてくれた。

 俺は今回のオークションにオークデスピアを出品しているから、次のほうがいいというのは理解できた。


 ただ、問題が一つある。

 バンパイアの核をオークションに出品したら、絶対に面倒な奴らが湧いてくるのだ。


「そういえば、いたね、そんなのが」


 伯爵も苦笑するほどの面倒くささだ。


「この核を伯爵家からオークションに出す気はありませんか? 俺の名は絶対に出さないという条件を飲んでくだされば、半額を伯爵家に献上しますよ。もちろん、バンパイア討伐の名誉も伯爵家のものです」

「名誉と半額か……魅力的な提案だね……。仮にその話を受けたとして、問題が一つある」

「どんな問題でしょうか」

「残念ながら今の当家に、バンパイアを討伐できるほどの強者がいないことだ。隊長をしているウーゴライドでも、とてもバンパイアは倒せない。それくらいは、少し調べればすぐに分かってしまうよ。そうなると、三級冒険者のゼイルハルト殿の名が必然的に出てくるだろう」

「………」

「つまり、君の条件は守れないということだね」

「そうでもないと思います。一人いますよね」

「ん、なんのことだね?」

「そちらの騎士様です」


 俺は視線の鋭い騎士を見た。先ほど軍監をしていたうちの一人だ。


「こちらの騎士様なら、バンパイアを倒したとしても不思議はないはず。ですよね?」

「「「………」」」


 皆が黙り込んだ。


「なぜ分かったのかね?」

「これでも三級冒険者です。この騎士様がただ者ではないことくらい、雰囲気と動きで分かります」


 視線の鋭い騎士の口角が上っていく。


「伯爵閣下。申しわけありません。彼は最初からお見通しだったようです」


 最初からではないが、三日も一緒にいれば、そのくらいは分かるよ。


「なるほど、さすがは三級冒険者のゼイルハルト殿だ」


 で、その騎士様は誰なんですか?

 俺の予想では、療養中の騎士団長なんですけどね。


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