第19話 バンパイア戦
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第19話 バンパイア戦
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三日目の夜、見張番をしていると鳥肌が立つ。
ほぼ同時に魔力感知も大きな反応を捉えた。高速でこちらへ向かってきている。
「ライトさん。皆さんを起こしてください」
「わ、分かった!」
飛び上がるように立ったライトさんが皆を起こして回っていると、少し離れていたところで野営していた商隊から悲鳴が聞こえた。
「何事だ!?」
護衛隊長のウーゴライド様がテントから飛び出してきた。
完全武装しているから、鎧を外さずに寝ていたようだ。
三十人の騎士のうち、二十人は鎧を身につけずに飛び出してきた。
就寝前にウーゴライド様が鎧は身につけたまま寝ろと言っていたのを俺は聞いている。上司の命令を無視して、よく護衛ができるものだ。
「襲撃のようです」
「数は多そうか?」
「いえ、一体です……ただ、かなりヤバいヤツのようです」
「我らは伯爵閣下と姫を守る。ゼイルハルト殿は敵を迎え撃ってくれ。援護は要るか?」
「一人のほうが戦いやすいので援護は不要です」
「一応、軍監として二名を後方につける。手出しはさせないように命じるので、好きなように動いてくれて構わない。ただし、ゼイルハルト殿の任務は伯爵閣下の安全の確保だ。それだけは心して動いてくれよ」
「承知しました」
ウーゴライド様は離れていき、鎧を着ていない騎士たちを怒鳴りつけた。
「貴様らはそれでも名誉ある騎士か!? 常在戦場の心構えを持て!」
さらに伯爵とアンジェラ様を守るように、騎士と兵士を展開させる。
「さっさと動け! そんなことで、お役目が果たせると思うな!」
ウーゴライド様の怒鳴り声は、寝ぼけ眼の騎士の心に届くだろうか。
まあ、がんばってくれとしか言えないな。
「ジョセフとバルゼンは、ゼイルハルト殿の後方で軍監として戦いを見守れ!」
「「はっ」」
鎧を着ている二人を、俺の軍監としてつける指示を出した。
その内の一人は、毎回俺の行動を監視している視線の鋭い騎士だ。
さて、俺も仕事をしないとな。
商隊を襲っている何かを警戒しながら徐々に距離を詰める。
気配はトゲトゲしいものだが、その動きはしっかり把握できる。
魔力が大きいから感知は簡単だ。
「おい、大丈夫か!? 援護はいるか!?」
声を張り上げる。
大丈夫ではないと思うが、それ以外の聞き方が思いつかなかった。
「た、助けてくれ!」
血の臭いが酷い。これだけで商隊の惨状が手に取るように分かるというものだ。
生きている人はいるけど、多くはないだろう。
こちらへ転がるように逃げてきた男の首が地面に落ちた。
「キシャシャシャ」
暗闇の中からゆらりと人が出てきた。
「お前は……」
人に近い姿だが、まるで生気のない白い肌をしている。
そして、まるで血に染まったような赤い瞳が、漆黒の夜に怪しく輝いている。
「バンパイアか」
バンパイアは一級を越える化け物も少なくないモンスターだ。
個体差が大きすぎて討伐危険度が設定できないと、以前聞いたことがある。
「キシャシャシャ。アナタはなかなか美味しそうですね」
舌なめずりするバンパイアの口から、鋭い牙が見えた。
こいつは食事にきたのか?
いや、違うな。食事なら必要な分だけ殺せばいい。
そうでないのは、殺しを楽しんでいるからだろう。
剣を抜いて油断なく構える。
バンパイアの殺気で土埃が立ち上る。
俺は魔力を体中に循環させる。
「「くっ!?」」
離れて後方にいた二人の騎士の一人が、腰砕けになって地面にへたり込んだ。視線の鋭い騎士は立っていた。
「私の殺気を受けても平然としていますか。キシャシャシャ」
「今のが殺気か? 俺は
「生意気ですね」
バンパイアが動いた。
「キシャシャシャッ、死ねぇぇぇっ!」
手刀で俺の首を斬ろうとしてくる。
上体を反らして回避。
バンパイアの鋭い爪が伸びてくる。
俺は後方に跳ぶ。
「ほう、あれを避けますか」
「あの程度は避けないとな」
ちょっと前の俺だったら危ないところだったが、能力が解放されたことでしっかり回避ができた。
「今度は俺からいくぜ」
「キシャシャシャ」
不快な笑い声だ。
その笑いで歪んだ顔を、戦慄で歪ませてやるよ。
一気に間合いを詰め、剣を薙ぐ。
バンパイアは後方に跳んで回避したが、剣先が伸びてバンパイアの胸を深く斬り裂いた。
バンパイアの爪の攻撃をマネて、魔力で刃を作ってみたが意外とできるものだ。
「キシャッ!?」
驚きの表情のところを悪いが、さらに追撃させてもらうぜ。
地面スレスレから剣を斬り上げる。
「クッ」
バンパイアは回避したが、当然ながら剣先が伸びて腹部から右肩まで深々と斬った。
「バカな!? 虫けらごときに!?」
「虫けらと蔑む人間に殺されるんだ、お前は虫けら以下のゴミクズだよ」
俺たち人間もモンスターを殺しているから、殺されないとは思っていない。
だが人間を見下し、ただ殺戮を楽しむだけのヤツは虫唾が走る。
「キシャシャシャ。まさかこの私がこうもいいようにやられるとは、思ってもいませんでしたよ」
「ずいぶんと元気だな。やっぱり聖属性じゃないと効かないのか?」
「キシャシャシャ。聖属性は嫌ですね。あれは痛いです」
「ふーん」
会話をしている間に、バンパイアの傷が塞がっていった。あの再生力は羨ましい限りだが……さて、どうしようか。
「決めた」
「キシャシャシャ。何を決めたのですかね」
「もちろん、お前をどうやって倒すかだよ」
「キシャシャシャ。不快ですねぇ。私を殺せるとでも思っているのですか?」
殺せると思っているから、決めたんじゃないか。
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