三章
第17話 俺は肉を食う!
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第17話 俺は肉を食う!
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過去の記憶を思い出した俺は、使えなかった回復魔法も使えるようになった。封印が解けたからだろう。
そしてこれまでの十三年で積み上げてきた戦闘勘やセンスというものを振り返ると、一流と言われる魔法使いになれるのではないかと思ったりしている。
いや、前世の記憶と今世の経験で俺は必ず一流の魔法使いになってやる!
「おい、ゼイルハルト。ちょっとこっちへこい」
ギルドの酒場で昼を食べていると、ギルマスに呼ばれた。
呼ぶのは構わんが、俺は食事中だ。そういうことを考えられないあいつは、やっぱりダメマスだ。
残りの肉を口に放り込み、エールで流し込む。
ダメマスの執務室に入ると、座れとは言われてないがソファーに座った。
「お前、図々しくなったな」
「普通っすよ」
「……まあいい。指名依頼だ」
「えー、また?」
この前、死にかけたから今はゆっくりしたかったんだよ。
命の洗濯という言葉、知ってるか?
「ドラグア伯爵が帝都に行く。その往復の護衛だ。順調なら片道十日の往復で二十日程度。帝都で御前会議やオークションなどがあって一カ月は滞在するとのことで、その間は自由にして構わん」
依頼書を差し出され、条件や報酬を確認する。
俺の拘束される時間は往復の護衛だけで、この間は宿代や食事も伯爵側が用意する。
町や村では、領主屋敷や宿に泊まることになるが、半分以上は野営になるはず。
倒したモンスターに関しては、解体する時間はないが回収するのは自由。
盗賊退治もモンスターと同様の扱いだが、大物の盗賊だと別途相談。
報酬は往復の護衛料として、最低保証が一千万
二十日を越えた場合は一日当たり五十万Zが上乗せになる。
ドラグア伯爵が大怪我または死亡したら依頼失敗になり、ペナルティとして二百万Zが徴収される。
三級冒険者への指名依頼の内容としては、妥当な報酬だろう。
「出発は三日後だ」
「他に護衛する冒険者はいるのですか?」
「いや、いない。いつもは騎士団だけの護衛だが、今は騎士団長が長期の療養をしているし、騎士団員の練度も低いことからお前に依頼したようだ」
騎士団長は一年前の戦争で大怪我をしたと聞いたことがある。
一年も療養するほどの怪我だと、もう騎士として戦えないくらいのものじゃないかな。俺が心配することじゃないけどさ。
また、冒険者でも騎士団でも新人が使えるようになり、戦力となるのには一年どころか何年もかかる。
今は副団長のライガットが必死で新人を鍛えていることだろう。しらんけど。
また、今はライガットが騎士団を仕切っているが、ライガットの戦闘力はせいぜい六級冒険者くらいだ。
ライガットだとちょっと頼りないから、騎士団長職をそのままにしているのかもしれないな。
何はともあれ、報酬に不満はない。
オークデスピアのような化け物は、そうそう出てこないだろうから、受けてもいいか。
「その指名依頼を受けますよ」
「おう、受付で受注の処理をして帰れ」
以上だと手をピッピッとされる。
俺は犬じゃねぇんだよ、まったく。
受付では、今日も安定の巨乳さんのところに並ぶ。
彼女は今日もプラチナブロンドを一つにまとめ、左肩から前に垂らしている。
そんな巨乳さんの名前はラナだと聞いた。いい名前だね。
「指名依頼の受付をお願いします」
「はい。確認させていただきます」
冒険者証と依頼書を提示すると、手際よく処理してくれる。
「出発は三日後の早朝です。城の正門前で合流になりますので、遅れないようにお願いします」
「はい」
今日も揺れていて、眼福でした。感謝。
護衛中の食事は伯爵持ちだけど、どうせ携帯食だろうから作っておくか。
あ、ウッドカウの解体を頼むの忘れていたよ。
解体場にいく。
「おう、英雄殿か」
「その呼び方止めてくれ」
「あんな
解体場の責任者は、五十代の毛根が死んだ胸板がオークくらい厚いオッサンのゴルダだ。
「で、今日は何を持ってきた」
「ウッドカウを解体してほしい」
「何、ウッドカウだと!?」
目の色が変わった。
希少なウッドカウの肉は高額で取り引きされている。
「本当にウッドカウだ。全部卸してくれるのか」
「まさか。一番いい肉とすじ肉は俺が引き取るよ」
「ムムム。一番いいところを少し回してくれ」
「それは無理。一番いいところは俺が食べるんだ。他の肉でもかなり美味しいんだろ? それで我慢してくれ」
「仕方ねぇ。夕方までに解体しておく」
「了解」
解体場を出た俺は、市場に向かった。色々仕入れる。
ついでに今回もバニラビーンズを買い占めた。前回の分はまだ余っているが、買える時に買っておきたい。
「あんちゃん、今日もありがとうな」
大きな取引ができて、店の人はニコニコだ。
俺のほうは、オーク集落壊滅作戦の報酬が一瞬でなくなった。
オーク集落壊滅作戦当時は五級で、報酬は一律だったからバニラビーンズ代にもならないんだよな。
帝都でオークデスピアがオークションにかけられるから、その代金が入れば当分は金の心配をしなくて済むだろう。
もっとも、今も金には困ってないが。
町の外に出て門から目と鼻の先で竈を作って料理をする。
オークリーダーの熟成肉でステーキを焼き、普通のオークの肉をぶつ切りにしてシチューを作る。
市場で買ったフットラビットの肉は下処理をして燻製に。
アイスクリームを作ったので、さあ帰ろうと竈を壊していると騎士が近づいてきた。
二十歳になったどうかの騎士と、三人の兵士だ。
「そこの冒険者」
鎧の紋章はドラグア伯爵家のものだが、見たことない人だ。もっとも、俺が知っている騎士なんてそんなにいないけど。
「はい。なんでしょうか、騎士様」
騎士には丁寧に対応しないと、難癖をつけられてもつまらん。
「こんなところで何をしているのだ?」
騎士としては、門のそばで怪しいやつが火を使っていたら確認しないわけにはいかないよな。
「肉を焼いていたんです。宿ではできませんから。もう帰るところです」
「なるほど。火はちゃんと消していくんだぞ」
「はい。お役目、ご苦労様です」
ギルドの解体場に行くと、ゴルダがウッドカウの肉を用意しておいてくれた。
「一番いいところの肉が二キロ、すじ肉が十キロだ。他は買い取りでいいんだな」
「ああ、それでいい。助かったよ」
「いや、ウッドカウの肉が扱えたんだ。こっちも助かるぜ」
肉と買い取り分の査定用紙をもらった。
肉はストレージに収納し、査定用紙はカウンターに持っていく。もちろん、巨乳受付嬢のラナのところだ。
「これを」
「はい、確認させていただきます」
ウッドカウの素材は圧倒的に肉の金額が高い。
肉が五百キロで二千五百万Z、皮が一万Z、魔石は五千Zだ。
これで一番いいところの肉があったら、どれほどの金額になることか。
だが、俺は肉を食う!
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