第16話 三級昇級

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 第16話 三級昇級

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 オークデスピアと戦った翌日、俺は冒険者ギルドでギルマスの執務室にいる。


「あー、お前、三級な」

「うす」


 四級を飛び越して二階級特進だ。なんか戦死したような……。

 とにかく、俺は三級冒険者になった。


「俺の権限とドラグア伯爵閣下の推薦では、三級が上限だ。それで我慢してくれ」


 別に文句は言っていない。

 オークデスピアが魔王種と言われる、一級のさらに上の存在だったことから、昇級するとは思っていた。ただ二階級も上がるとは思っていなかった。


 大惨事を引き起こしたオークデスピアを討伐した俺の力は、最低でも二級、本当なら一級だと判断されたが、一気に一級や二級はあり得ないだろうことくらい理解している。三級昇級だって驚いているくらいだ。


 二級パーティー【幻影】、三級パーティー【戦神のほこ】、同じく三級パーティー【ライトニング】がほぼ壊滅した。

 生き残ったのは【戦神のほこ】の一人と【ライトニング】の一人だけだった。

 しかも【戦神のほこ】の一人は左足を失い、冒険者を引退することになった。

 これだけの戦力が消失した以上、ギルマスので俺を上に上げるという処置は理解しているつもりだ。


 二級昇級には上位貴族三人の推薦、一級昇級にはさらに国家元首(国王や皇帝など)の推薦が必要になる。

 ドラグア伯爵一人の推薦で昇級できるのは、三級までなのだ。


「オークデスピアの素材は帝都でオークションにかける。落札額から手数料などが引かれた金額が、ゼイルハルトのものになる」


 オーク集落壊滅作戦で倒したオークの素材は、全て依頼主である伯爵のものになる予定だった。

 だが、依頼にはオークキングの表記はあっても、オークデスピアの表記はない。だから、オークデスピアは依頼外の討伐になるとギルマスが主張し、それが認められてオークデスピアは俺に所有権があるということになった。

 ダメマスだが、金勘定に長けているようだ。


 伯爵側も魔王種の素材は欲しいが、依頼内容に明記されてないモンスターを無理やり引き取ることはしなかったようだ。


 そんなわけで、オークデスピアは金持ちが集まる帝都でオークションにかけられることになった。

 ドラグア伯爵家にも税が入るから、無理を通してギルドとの関係を悪化させるよりはいいと判断したんだろうな。


 ここで俺は初めてこの国の国名を知った。

 この国はゲルマド帝国といって、帝都はもっと北にあるらしい。


「ゼイルハルト殿には、本当に感謝している」


 今日もドラグア伯爵が自らやってきて俺に頭を下げた。

 その後ろには、ライガットもいる。


「ゼイルハルト殿の戦いは遠目ながら見ていた。私はあの殺気に怯え一歩も動けなかったのに、勇敢にも立ち向かい討伐したゼイルハルト殿に最大限の賞賛を贈りたい」


 ライガットが歯の浮くような賛辞を述べた。

 俺も戦いたくて戦ったわけじゃないんだよ。

 あいつが勝手に敵視して襲い掛かってきただけで、逃げられるんだったら逃げていた。

 もっとも、そのおかげで思わぬ力を手に入れたけどな。いや、あれは元々俺の力で、封印が解けただけなのか。


「ゼイルハルト殿には、別途褒美を出したいと思う。そこで当家に仕える気はないかね」


 そういう話になったか。だが、貴族は面倒くさい。その考えに変わりはない。


「申しわけありませんが、宮仕えは無理です」

「そうか。いや、気にしなくていい。出来れば仕えてほしいと思っただけだ」


 まったく気にしてませんよ。

 だが、褒美はもらうから、金銭でお願いしますよ。

 あの戦いは、最後こそ楽勝だったが、本当に厳しいものだった。途中で封印が解けなければ、俺は確実に死んでいたんだ。多少の褒美はもらう権利がある。


「これを」


 伯爵はライガットから受け取った小箱を差し出してきた。

 中を確認すると、メダルが入っていた。


「それは当家の縁者を示すメダルだ。厄介なことがあればそれを見せなさい。当家が君の後ろ盾だと相手は理解するだろう。それに、それを持っていれば、帝国内に限り貴族用の門を通ることができるぞ」


 貴族関係の厄介事を回避でき、入門待ちをしなくてもいいのはありがたい。

 だが、これを持っていると伯爵の紐付きと思われることだろう。まあ、そこら辺はどうでもいいけど。


「いいのですか?」

「もちろんだ。ゼイルハルト殿は我が娘を助けてくれただけでなく、このエルディーヒが滅ぶほどの危機を未然に防いでくれた恩人だ。その程度のことで恩返しにはならないが、できる限りのことはしよう。ただし、犯罪に手を染めた場合は、さすがにね、そこは分かってくれるかな」

「あ、はい。承知しました」


 メダルはドラグア伯爵家の紋章が入っており、直径十センチくらいの大きさだ。

 素材は金なのか、かなり重い。


「あとは、この町に屋敷を与えよう。使用人はこちらで手配するよ」

「いえ、そこまでは―――」


 エルディーヒに長居するつもりはないと言おうとしたが、遮られた。


「これは気持ちだ。受け取ってほしい」


 あまり貴族に深入りしたくないが、断れそうにない。まあ、屋敷があるからといって、そこに住まなければいけないわけではない。宿に泊まるくらいの気持ちでいよう。


「分かりました。ただ、できれば屋敷は平民街にお願いします」

「了解した。用意ができるまで城で過ごしてほしいところだが、君は堅苦しいのが苦手のようだから宿の宿泊代も当家で負担させてもらうよ」

「いえ、そこまでは」

「遠慮は不要だ。是非負担させてくれ」


 積極的だな。まあいいか。俺が泊まっている宿の宿泊代は一泊一万二千ジルだから、伯爵家にとって大した額ではないと思うし。




 記憶を取り戻した俺は、以前の俺が生きていた時代からどれほどの月日が経過したか気になって調べてみた。


「はい?」


 前世の俺が生きた時代から、三千年以上が経過しているようだ。

 俺が辛うじて知っている国の名前が、三千年前まで遡らないと記録にない。


「マジかぁ……」


 随分魔法が様変わりしていると思ったら、そんなに経過しているとはな。


 この時代の魔法はなぜか退化していた。詠唱による発動が全盛になっているのだ。

 詠唱魔法は簡単に使えるが、俺から見たら使い勝手が悪く、そんな魔法に魅力は一切感じない。


 前世は古代魔法も広範囲殲滅魔法もあったが、今の時代にそれらは聞かない。俺が使えなかった回復系の魔法も、かなり質が下がっている。

 なぜこんなことになっているのか分からないが、もしかしたら魔王種の存在が影響しているのかもしれない。


 魔王種はオークデスピアの強さを見ても分かるように、圧倒的だ。それでも、オークデスピアは魔王種の中では最底辺になる。あれで最も弱い部類なんだから、魔王種がいかにヤバい存在かよく分かるだろう。


 それこそ人間の国が魔王種によって滅ぼされたことも一度や二度ではない。

 そんな魔王種が、前世ではあちこちにいた。だが、この時代に魔王種はほとんど確認されていない。


 強い敵が少なくなり、人間も無理に命を懸けて戦う必要がなくなった。

 だから、質が落ちているのかもしれない。あくまでも仮説の一つだが。


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