第15話 記憶

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 第15話 記憶

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 左腕の次は右足を食われた。

 痛みと出血で意識が朦朧とする。


 短い人生だった。

 せっかくオヤジに助けてもらったのに、たった十三年しか生きられなかった。


「オ……ヤジ……ご……め……」


 オヤジが命を懸けて助けてくれたこの命を、こんなところで失ってしまって……。


【魔王種との接触を確認しました】


 な、なんだ?


【生命の危機を感知しました】


 この無機質な音声はいったい……?


【魔王討伐要綱に従い、欠損部位を再生します】


 メキッメキッバキッゴキッ。

 左腕と右足が生えた。


 は? 俺は夢でも見ているのか?


【魔王討伐要綱に従い、魔力の封印を解除します】


 その瞬間、俺の魔力が爆発したかのような錯覚を覚えるほどの魔力の本流が発生した。


【魔王討伐要綱に従い、身体能力の封印を解除します】


 うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

 なんだこれは!?

 力が……力が溢れてくるぞ!


【魔王討伐要綱に従い、知識の封印を解除します】


 これは!?

 俺の脳が、これまでにない知識で溢れかえった。

 これは……俺は……そうか……そういうことか!


 俺は全能感に全身を振るわせる。

 これは俺が本来持つべき力だ。

 封印は転生する時に施された。




 あの無機質な部屋で、俺はこの力を得た。

 前世で俺は魔法の研究者だった。

 魔法使いとしては中堅どころで、一流と言われる人たちとの才能の差を犇々と感じていた。


 魔法の研究者になったのは、戦闘の才能に限界を感じたことからだ。

 どんなに足掻いても、一流にはなれない。一流の魔法使いと俺との間には、決して超えることができない聳え立つ壁があったからだ。


 三十手前から、五十で死ぬまでのおよそ二十年ちょっとを魔法の研究についやした。

 過去の古い魔法を再現したり、新しい魔法を作ったりした。

 幸いにも俺はそれなりの実績を積み上げ、『魔法研究者として』俺はそれなりに有名になった。


 俺の死は突然だった。

 国に仕えていた魔法使いが、俺の研究の成果を得ようと屋敷を襲撃したのだ。

 どんなに研究をしても、戦闘センスが磨かれることはない。

 そいつは笑いながら俺を焼き殺した。


 そして、俺は神と出遭ったのだ。

 死んだら誰もが神の審判を受けることになると、神は語った。

 前世の功罪により、善人はすぐに転生し、悪人は地獄で魂を浄化してから転生するのだとか。


 俺は大して悪いことはしてないと、自分では思ってた。

 だが、俺の魂は地獄に落とされ、長い年月地獄の業火に焼かれ苦痛を味わった。

 俺はこんな苦痛を味わうほど、悪事を働いたのか自問自答した。身に覚えがない。


 どれだけの時間がたったか分からないが、俺の魂は地獄から引き上げられた。


「ん? 君はなんで地獄に落ちているんだ?」


 それは俺が聞きたかったことだった。

 転生を司る神は、記録を調べた。そして、審判の神が間違っていたことがすぐに判明した。


「あいつはまたか……これで何度目だ。もはや看過することはできないな」


 転生を司る神は怒っていたのか、ブツブツと危ない人のように呟いていた。


「君は必要もない魂の浄化を受け、自我を保ち続けた。非常に珍しい魂だ」


 やっと俺に向き合ったと思ったら、そんなことを言われた。


「次の生では一流の魔法使いになれるだろう」


 一流の魔法使い。その言葉を聞き、俺の魂は震えた。

 どんなに足掻いても手に入れることができなかったものだ。


「ただ、あまりにも君の力は圧倒的だ。ゆえに力を封印させてもらう。何、安心するがいい。力を完全に封印するわけではない。十分に一流になれるだけの力は残しておくから」


 その言葉を最後に、俺の意識は遠のいていった。

 次に気づいた時は、生まれた直後だった。





 前世の記憶を思い出し、転生を司る神によって施された封印が解除された。

 今ならオークデスピアにも勝てる!


「うおおおお!」


 俺の頭部を掴んでいるオークデスピアの太い腕を掴み、足を絡ませて一気に捻る。

 ゴキッ。

 俺の胴体より太い腕を折った。


「グオォォォォォォォォォッ」


 野太い悲鳴を発する口を塞ぐように顎を蹴り上げる。

 さっきとは違い、今回は顎を砕いた手応えを感じた。


 顎を砕かれたオークデスピアは、浮き上がって後方に倒れ込んだ。

 俺は着地と同時に魔法を発動させる。


「ライトクルシフィクション」


 光の磔台によってオークデスピアは拘束され、まるで晒し者のように掲げられた。


「グオォォォォォォッ」


 オークデスピアはライトクルシフィクションから逃れようとあらん限りの力を込めて暴れた。


 俺の魔力が続く限り、その磔台は壊れることはない。

 そして今の俺の魔力は底を感じさせない。まるで無限に魔力が湧き上がってくるような、錯覚を起こすものだ。


「グオォォォォォォッ」

「ジャッジメントランス」


 光と闇が混じり合う異様の槍。

 魂を喰らう闇のおぞましさと、魂を浄化する神聖なる光が混在する槍が、オークデスピアの胸にゆっくりと刺さっていく。


「グオォォォォォォォォォォォォッ」


 オークデスピアはけたたましい叫び声をあげる。

 どんな鋭い刃も通さない分厚い胸板に、なんの抵抗も感じずジャッジメントランスが入っていく。


「グオォォォォォォォォォォォォッ」


 数秒後にはオークデスピアの心臓に達し、さらに数秒で背中へと貫通した。


「グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ」


 オークデスピアの魂に闇が多ければ、闇に喰われる。

 逆に魂が善であれば、光によって癒される。

 オークデスピアは苦痛と快感のどちらを味わっているのか。その答えは顔を見れば分かる。


「グォォォォォォォ……」


 オークデスピアは苦悶の表情で断末魔の叫びをあげ、事切れた……だよな?


 ドスンッ。

 ライトクルシフィクションを解除すると、オークデスピアの巨体が落ちて地面を揺らした。


【魔王種の討伐を確認しました】


 討伐できたようだ。


「勝てた……」


【魔王種討伐の報酬を与えます】


 何!? そんな特典があるのか!?

 ドキドキッ。


【※%※%※%を解放します】

【システムエラー】

【メンテナンスを行います。メンテナンス終了時期は未定です。終了しましたら、ご報告します】


「………」


 なんなんだよ! 俺のトキメキを返せ!


 しかし、死ぬかと思ったら、前世の記憶と転生時の記憶を思い出した。

 転生を司る神のことも思い出した。

 危機を迎え、封印されていた力が解放された。

 もしかして、神様はこういう未来が見えていたのか?


 なんかそんな気がしてきた。

 全ては神の手の平の上というわけか。


 周囲を見渡すと、誰もいなかった。

 皆、逃げたようだ。


「あ、エルダー……」


 オークデスピアの咆哮によって吹き飛ばされたエルダーは、巨岩に体を預けるように気を失っていた。

 生きていてよかったぜ。


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