第14話 オークデスピア
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第14話 オークデスピア
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「「「おおおおおおおおおおっ!」」」
オークジェネラルを倒したエルダーを称える歓声が巻き上がる。
「やったぜ、エルダーの旦那!」
「旦那、やったな!」
「やりやがったな、オッサン!」
エルダーの周りに冒険者が集まって、手荒い賞賛を贈る。
おい、今蹴ったヤツ、どいつだ!
軽く叩くのは許すが、って、ぶっ飛ばすぞ、この野郎!
その直後、別のところでも歓声があがった。
もう一体のオークジェネラルも倒されたようだ。
これでと思ったところで、地響きがした。
危うく倒れるかと思うほどの揺れだ。
悲鳴が聞こえる。
「ちっ、最悪な奴が出てきたようだな」
エルダーが悲鳴のしたほうを睨み、舌打ちした。
「よっしゃー。俺たちの出番だ!」
三級パーティー【ライトニング】のリーダーが歓喜の声をあげた。
これまで指揮に徹していたが、戦いたくてうずうずしていたようだ。
「エルダー! あとはお前に任せる! オークの掃討を指揮しろ!」
「あいよー。死ぬんじゃねぇぞ」
「誰が死ぬかよ!」
【ライトニング】のリーダーは喜々として走っていったが、仲間は苦笑していた。
オークキングの肉は旨いのかな。
エルダーが倒したオークジェネラルの肉は、マグマ弾の攻撃でダメにしてしまったから、ちょっと後悔だ。
俺はこのまま壊滅作戦が終わると、この時思っていた。
だが、世の中、そんな都合よくはいかなかった。
「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ」」」
いくつもの断末魔が聞こえた。
そして肌に粟を生じるほどの殺気を感じた。
「おい、ゼイルハルト。感じたか?」
「感じましたね。異常な殺気です」
「こりゃぁもしかしたらやべぇかもな……」
エルダーの頬に大粒の汗が垂れていく。
オークキングというのは、姿が見えないくらい遠くにいる俺たちをたじろがせるほどの存在なのか。
三級冒険者が化け物と言われるが、それは討伐危険度三級のモンスターも同じことだ。
むしろモンスターのほうが、化け物具合が異常なんだよ。
ズドンッと何度も地響きがした。
そして、俺たちはあり得ないことを耳にすることになる。
「二級パーティー【幻影】が殺られた! 逃げろ!」
思わず耳を疑った。
二級パーティーだぞ。オークキングだって軽く捻ってくれると、俺たちは安心していたのに、一体何が起きているんだ!?
「エルダー。撤退だ! 逃げるぞ」
「ああ、逃げるとしよう! 野郎ども、撤退だ! 後退だ、もたもたするな! 走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れぇぇぇっ!」
二級パーティーが壊滅するような化け物なんて相手にできるか。
エルダーも同じ思いで、周辺の冒険者に走れと怒鳴っている。
ドスンッ。
目の前に黒い塊が落ちてきた。
俺とエルダーは、止まって身構えた。
それは……。
「ジェームズか……」
エルダーの声がかすれる。
落ちてきたのは、三級パーティー【ライトニング】のリーダーのジェームズだった。
無残な肉の塊になり果てたジェームズは、体中の骨が折れているように見えた。
「いったい何が起きているんだ……」
「エルダー、ぼけっとするな! 逃げるぞ!」
俺はエルダーの腕を掴んで走り出した。
「……遅かった、か」
上空から落ちてきたのは、ジェームズの肉塊だけではない。
巨大で醜悪なオークもだった。
「これが……オークキング……だと?」
エルダーが息を飲む。
「いや、これは……」
悪い夢だと言ってくれ。
それは絶望の塊だ。
「デス……ピア……」
これはオークデスピア。
人々を絶望という底なし沼に引きずり込む、化け物。
討伐危険度は……判断不能。
俗に、魔王種と言われる一級以上の存在だ。
オークキングなど赤子も同然。
そんな存在が今、俺の前にいる……。
「エルダー」
「………」
返事がない。
駄目だ、オークデスピアの殺気に当てられ、思考停止を起こしている。
「ヤバいどころじゃないぞ、これ」
「グオォォォォォォォォォッ」
「ぐっ!?」
咆哮一発で、吹き飛ばされるとか、勘弁してくれよ。
俺は一回転して着地したが、エルダーはまともに喰らったようで岩に激突して気を失っている。
だが、今のでオークデスピアから距離が取れた。
オークデスピアにとって一瞬で詰められる距離でないことを祈ろう。
「っ!?」
祈りは無残にも一瞬で無に帰った。
オークデスピアの突進。それは瞬間移動のような高速の動きだった。
マナシールドを展開したが、まったく効果なく破壊されてしまい、俺は辛うじて腕をクロスして防御した。
「ぐぁっ」
人間って、魔法なしでも空が飛べるんだ……。
俺は空を舞って地面に叩きつけられた。
肺の中の空気を全部吐き出すような衝撃に、息ができない。
痛い。苦しい。
オークデスピアはなんで俺を狙うんだよ。他にも冒険者はいくらでもいるだろ……。
「グオォォォォォォォォォッ」
オークデスピアは巨斧を掲げ、まるで勝利の勝鬨だ。
ここで死んだふりしておこう。あれがどこかへ行くまで、じっと息をひそめてやり過ごすんだ。
「うぐぅ……」
なんでだ!? なんで俺を放っておいてくれない。
頭部を鷲掴みにされ、持ち上げられる。
オークデスピアの醜悪な顔が、俺をあざ笑っている。
腹は立つが、これだけの実力差があれば、諦めもつく……わけねぇだろ!
オークデスピアの顎を蹴り上げてやったが、まるで鉄の塊を蹴ったように俺の足がジンジンと痛んだ。
「ガハハハハハハ」
蚊にでも刺されたくらいにしか感じてないようで、オークデスピアが高笑いした。
剣を抜こうとしたが、右腕が動かない。右だけじゃない、左腕も動かない。
さっきの体当たりを防いだ時に両腕とも折られてしまったようだ。
俺はこんなところで死ぬのか。
誰か助けて……助けてくれよ、オヤジ……。
ガリッ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ」
左腕に激痛が走った。
あいつが、オークデスピアが俺の左腕を食っている。
骨が噛み砕かれ、肉もろとも飲み込んだ。
俺の左腕が……。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
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